2004年5月13日配信む
41-2(168) 批判的想像力のために−グローバル化時代の日本 モーリス=スズキ, テッサ 平凡社、2002 ESD-Jメーリングリストで、「自己責任論」に関して言及された著者のもの この人の「アイヌ」についての本は、東京都の人権テキスト開発委員会の時に、とて も参考になった覚えがあります。その本のタイトルは「辺境から眺める−アイヌが経 験する近代」だったと思います。図書館で借りて読んだので、手元にはありませんが。 今回紹介するこの本は、『世界』を中心に雑誌に発表された論文を構成したもの。 「新しい歴史教科書」をつくる会など、日本における国家主義的な動きや発言に対し て「歴史家」としての視点から考察を加えたもの。 「新しい歴史教科書」をつくる会については、「今の時代の基準によって過去の出来 事を告発することができない」という主張に対して、であるとするならば、「日本の 奈良天平をミケラクジェロに匹敵する」という言い方も当たらないのではないか[75] と切り返す。 そして、歴史の真実よりも歴史に対する真摯さhistorical truth-historical truthfulnessを主張する。 85 「歴史への真摯さ」の一つの核心をなす特質とは、多様なメディアを通じて伝えられ たり、同一の出来事を異なった場所屋社会的背景やイデオロギー的視点から見る人々 によって生み出される、過去についての異なった表象に関心を向ける意欲や能力にあ るのだから。 つまり、単一の歴史的な見方は存在せず、どの歴史的な見方や記述がこれからにどの ような影響を与えるかをも考えるという姿勢である。 87 最近の東アジアにおける歴史をめぐる戦いが、何か悲惨な出来事の前兆であるなどと 主張するつもりはない。しかし、少なくとも『新しい歴史教科書』における中国と韓 国の過去についての否定的な書き方は、日本の子どもたちの近隣諸国に対する共感を 失わせる。こうした共感の欠如が、移民に対する差別から、東アジアの他の国々にお ける人道的な危機への対応の誤りに至るまで、その行動に悪い影響を与える可能性は 否定できまい。 88 歴史への真摯さは、歴史の個別的な断片についての多種多様な表象にも関心を向ける。 そうすることで、私たちは、現在における自身の位置についてのよりよい理解を得ら れるからだ。,,,,過去は現在の私たちの立場からしか見ることができないと認知する ことの方が重要なのだ。 次の「無害な君主制」についての論文は、現在の君主制の大半が近代の産物であるこ と、そして、どのように生き伸びているを示している。 136 いずこの君主制も多くの共通する特徴をもつ。最も注目すべき共通の特徴は、それぞ れが特異性を主張する点である。,,,君主制はユニークな歴史的伝統が具現化された ものとして提示される。 君主制は、近代国民国家形成における地球的規模でのプロセスの一部となると同時に、 その国民国家形成のために総動員される地域的神話や歴史的伝統の正統性の象徴とも なった。 139 19世紀における天皇=エンペラーの創出は、君主制国際システムの領域に日本統治者 の居場所をただちに見い出し、かつ、その特異性を呈示しやすくした。,,,天皇=エ ンペラーという等式は、まさに、19世紀国民国家の「グローバル・スタンダード」へ と日本を編入させ、かつそのような「グローバル・スタンダード」が国民的特異性を 表象するための媒体として利用された。 「移民と市民権」についての次の論文で興味深いのは、現在の日本のあり方のベース が1899年体制とも呼ぶべき、不平等条約撤廃から国内法の整備にあったとしている点 である。 145 1899年体制は日本国籍を血統主義と規定していた。 いま、日本は「コスメティック・マルチカルチュラリズム」という多様性をもてはや しつつも、それはあくまでも厳格な条件にかなう場合のみに限るという、ナショナル・ アイデンティティの一つのあり方を示すために用いている。154 「平和への準備」 179 21世紀の開始の時点で起こったことは、非常に流動的で変化の度合が激しい経済シス テムが、国民国家を基盤とする比較的硬直した政治制度と次第に摩擦を起こしつつあ るということの表れであろう。この摩擦が非常に強烈な場こそ、移民問題や「安全保 障」の問題である。 180 「原理主義」という名で呼ぶ第一の見方は、急速な変化と経済的な国際化を伴う世界 において、政治体制の安定は一連の「伝統的な」価値の権威を復活させることによっ てこそ維持できるという想定に基づいている。 「原理主義」が守るべき伝統の核には、二つの重要な特徴がある。固有の伝統的なも の。たった一つの伝統であり、すべての国民が支えなければならないもの。 183 対照的な立場を「多元主義」と呼べるかもしれない。この立場は、個個人のアイデン ティティを複合的なものととらえるもので、,,一度に多種多様なものと結び付くと考 える立場である。 186 もう一つの注目すべき点は、このグローバルな原理主義のレトリックの中でジェンダー が果たしている中心的な、ときには逆説的なも言える役割である。 例えば、日本の場合には、最近のポピュリスト・ナショナリズムに火をつけた決定的 な出来事は,,,いわゆる「従軍慰安婦」問題であったこと 189 冷戦時代から引き継いだ防衛や安全保障のシステムが、21世紀のテロリズムに対応す るのにまったく不向きであるように、冷戦時代から継承した平和運動という形態も、 現代の軍事主義や原理主義に対する抵抗には適していないことが実証されつつある。 もしも「戦争への準備」が大規模な多国籍軍の編成を含むものならば、「平和への準 備」には、多種多様な背景を持つ、そしておそらくまったく異質な政治的・社会的な 視点を持つさまざまな国のさまざまな人々が、考えを共有し、対話をまじわし、互い に学びあい、抑圧や暴力に対する抵抗の中で互いを支援しあうことが必要だ。 参考資料 「イスラームと民主主義」ファーティマ・メルニーシー
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| 2004-08-30 21:23
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