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しまがっこ溶けた−詩人 桜井哲夫との歳月

かくたです。
                           2003年7月19日配信
この前、恵泉のアクティビティづくりの模様について説明した時の本ですので、「簡
便な本」シリーズの今週、紹介してしまっておきます。
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11-5(46) しまがっこ溶けた−詩人 桜井哲夫との歳月
金 正美(キム・チョンミ)
日本放送出版協会、2002年

恵泉の学生が「アクティビティ」づくりの素材にした本。
NHKのにんげんドキュメント「津軽・故郷の光の中へ」2002年2月14日放送の主人公
である桜井哲夫さんとの交流を綴る。実は、著者が桜井氏の要請で働きかけてこの番
組はできた。そして、進められてこの本を出したというのがいきさつ。

目鼻がない風貌の写真を見た第一印象が、詩を聞いた後では劇的に変る。その詩とは
「天の職」である。

天の職 桜井哲夫

お握りとのしいかの林檎を包んだ唐草模様の紺風呂敷を
しっかりと首に結んでくれた
親父は拳で涙を拭い低い声で話してくれた
らいは親が望んだ病でもなく
お前が頼んだ病気でもない
らいは天が与えたお前の職だ
長い長い天の職を俺は素直に務めてきた
呪いながら厭いながらの長い職
今朝も雪の坂道を務めのために登りつづける
終りの日の喜びのために

(第一詩集『津軽の子守歌』より)

注) 「いか」は漢字でしたが、なかったので、ヒライテいます。

このとき桜井さんは17才。番組に出た時は77才。60年間、らい療養所で生きてきた彼
の思い。
同じくハンセン氏病患者である井波としおさんがラジオで話していた、お父さんとの
別れの場面は、沖縄らしく三味線をひいて歌を歌ってくれたという。中学生の時のこ
と。そのときは彼はまだ知らなかったのだが、その歌は死者を送る時の歌だと、大人
になって知る。知った時の思い。親の思いへの思い。

そして、二人とも、この名前が本名ではない。戸籍を抜かれ、名前を変えて入る所。
人間は人間らしい心に触れることで、他者を「人間扱い」する気持ちを持つことがで
きるのだな。願わくは、どの人間にも人間らしい心があるということに対するイマジ
ネーションの力がありますように。しかし、写真を最初に見た時の自分の正直な心は
どうなのだろうか。ふりかえろう。

本の中で、韓国を訪ね、やさしく人から声をかけられ、「本当に生きててよかったー。
こんな気持ちを味わうことなく死んでいった療友がたくさんいるの。みんなの分もこ
こで泣くね。」と号泣したという話しが紹介されている。

「しがまっこ」とは津軽弁で氷のこと。1996年にらい予防法が廃止された時、桜井さ
んは「しがまっこまだ溶けない」と言った。1995年、金さんの訪問、そして法律の廃
止、韓国訪問、戸籍を取り戻し、青森に帰郷の旅を果たすなどの7年間。氷が、溶け
た。

氷をはらせるのは人権侵害があるからだ。氷がはらない方がいいのだし、そのために
努力するのだけれど、氷が溶けるのもドラマなんだよね。アイスブレーキングってや
つですか。研修でも、傾聴などで表情が「溶ける」ものね。なんで氷がはりやすいの
かなー。

レッスン・バンクにアクティビティ「しがまっこ溶けた」として紹介しようと思う。

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角田 尚子追記
ERICレッスンバンク13に収録。人権研修でかなりよく使っているアクティビティ。
by eric-blog | 2004-08-05 18:18 | ■週5プロジェクト03
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