人気ブログランキング | 話題のタグを見る

おくりびと

286-1(1278)おくりびと
百瀬しのぶ、小学館文庫、2008

映画の台本の作家自身によるノベライゼーション。アカデミー賞受賞作なのだから、見に行けよ、というところだが、わたしは機械のような本木雅弘さんが苦手なのだ。小説の中でも、「潔癖性」的な描写、所作の美しさなどが強調されている。そういうのが、苦手。なのだ。

では、なぜ、この小説を紹介するつもりになったのか。

納棺師に対する差別が、描かれているからだ。「ケガレ」意識の結晶として。

オーケストラのチェリストという立場を失い、地元に帰った小林大悟が、出会った仕事。納棺師。

しかし、家族も、旧友も、けがらわしい、と忌避する。そんな彼の仕事を、彼ら自身の「家族の旅立ち」を通して、認めていく。尊敬していく。

尊敬されていくことで、ケガレ意識から解放されるのかどうかは、不明だ。しかし、家族は戻り、仕事は続く。

死を司ることの非日常性。避けて通りたい事柄。「生」しかない、いま。

さまざまな納棺師として出会う死のエピソードも、実は、いまの社会の「生」を映し出す。

性と性自認が不一致である死者に触れ、化粧を「オトコ化粧」にするか「オンナ化粧」にするかを確認する。家族は「オンナとして死なせてやってくれ」と。高校時代の男子生徒としての写真が掲げられる葬式。

小林の父親は、6歳の時に、出て行った。捨てた子どもの元に、戻れないまま、死んで行く自分勝手な、その生き様が透けて見える死に様。


定本 納棺夫日記
青木新門、桂書房、2006
(090417追記)

映画「おくりびと」のエピソードとして使われたものと使われなかったもの。使われなかったものは、火葬場で働く人びととのやりとりだ。死にまつわる職業をケガレとし、差別する社会に対する鬱屈が、「いやな仕事をしてやっているんだから、もっと金よこせ」という「金儲け」に逃げる姿勢を作り出す。納棺夫としての著者がすごいのは、「自分の職業を卑下し、携わっているそのことに劣等感を抱きながら、金だけにこだわる姿勢からは、職業の社会的地位など望むべくもない。」29 としつつ、本人も、自分の納棺への取り組みの姿勢が変化したことで、周りの目や扱いが変わったことを紹介している。

浄土真宗が人口の80%という土地柄からの仏教、親鸞などの死生観や宮沢賢治の見たもの、金子みすゞの詩などがからむ。この定本は、タイトルの小説に加え、自薦詩や童話を追加して、編集したもの。

雪道

雪国に生まれ
雪国に育ち
雪道を歩いているうちに
人の通った跡もない雪原を
ただ従って歩くことも
やめようと思った

吹雪にあい
雪崩にあい
雪道に迷っているうちに
雪道を行くには
よき人の足跡をたどって
歩いていくことだと気づいた

本人のこだわりと戒めの心持ちに関わらず、納棺師という仕事は、青木さんという才能を得て、「夫」以上のものになった。
by eric-blog | 2009-04-17 07:37 | ■週5プロジェクト08
<< 2日目のカレーはなぜうまい? ... ずらり料理上手の台所 >>