282-6(1267)人間機械論
ノーバート・ウィナー、みすず書房、1979初版、2007新装版 The Human Use Of Human Beings 1950年 1954年改訂 人間も機械の制御と同じで「行動したこと」に対するフィードバックによって制御される。 情報の「開回路」理論、サイバネティックスの提唱者。タイトルの翻訳が本当にひどい。「人間の人間的利用」、人間が人間的に生きるには、どのような条件が必要か、そして近代の人間化、近代化の条件を明らかにしている本なのに、これではタイトルで損をしているとしか思えない。初版では、第二次世界大戦後のマッカーシー旋風にもするどい批判を投げかけていたと言う、戦争や「赤化」排除などの非論理的非合理的な抑圧に対して、それらの非人間性を根拠として反対した人なのである。 では、人間的であるとはどのようなことか。環境との相互作用から「学ぶ」、行動を「修整」する存在だということ。だから、機械もそのように設計すれば、制御可能な機械を作ることができる。1950年代に、すでに、IC制御の時代を描いている。 ◯人間や動物は自己運動感受的な感覚をもっている。変化する外部環境に従って行動する機械はすべて、・・・行動のもたらした結果についての情報を得なければならない。19 ◯情報処理行動の仕方を指定するデータはテーピングと呼ばれる。19 初版からはけずられたが、訳者によって再録されている23-24には、感謝である。「私は本書を、人間のこのような非人間的な利用(inhuman use of human beings)に対する講義に捧げたいのである。なぜなら私は、人間に対しその前資質より少ないものを需め、実際の資質より少ないものしかもっていないものとして人間を扱うような人間の利用は、いかなるものでも、一つの冒涜であり一つの浪費であると信ずるからである。・・・権力欲にとりつかれたやからにとっては、人間の機械化は彼らの野望を実現する一つのかんたんな道である。」 32 科学者というものは、宇宙の秩序と組織性を発見する仕事に取り組んでいるのであり、したがって無秩序化という敵を相手にゲームをしている。この敵はマニ教の意味での悪魔なのか、それともアウグスティヌス進学の意味での悪魔なのか。秩序に対して対抗する悪魔なのか、それとも秩序そのものの欠如なのか。 33 アインシュタインが言った比喩がある。「神は企み深いが悪意はもたない」。 ・・・ 物理学の研究者はこの世界でたえず実験をしてゆかねばならないが、自然がやがて研究者の策略や方法を見破って戦法を変えてくることを恐れる必要はない。 39 確かにわれわれは死を宣告さりた一惑星上の難破船の乗客である。にもかかわらず、難破に臨んでも人間の体面と人間の価値とは必ずしも全く消滅しはしない。・・・わけれわれのゾン減にふさわしいと思える仕方で迎えようではないか。 46 結局は死ぬということは、けっして、生命は完全な挫折に終わるということではなく、このことは文明に対しても、人類に対しても、人類を構成するどの一人の個人に対すると同様にあてはまる。 通信行動のパターンについて、人間とその他の生物、そして機械などを比較しておもしろい提案を第三章では行っている。局所的な通路を通る通報と、「方向を決めて発されるのでない通報が広がって結局受信者に届き、そこで受信者を刺激する」「該当者宛To-whom-it-may-concern」型。動物について、これがそうだという事例は知らないが、と著者はいいつつ、「主観的には感情として記録されるような種類の現象が、神経活動の無用な随伴現象にすぎないものではなく、学習および他の類似の過程の或る本質的な段階を制御するものであるかもしれないことを認識することは重要である」とし、人間と他の生物を区画する線を引く心理学者らがその節を否定するのであれば、慎重にせよ、と警告する。 130 科学的発見の本質は、われわれの便宜を何ら考慮せずに作られた一個の存在体系をわれわれ自身の便宜のために解釈することにある。 180 聴覚は単に外界との通信のための感覚の一つにすぎないものではなく、その主な用途が他の個人との関係rapportを確立することにある感覚だということである。それはまた自分のほうからの通信行動である話す活動と対応している感覚である。 181 良質の話し方は、連続的な自己聴取と自己批判を経てはじめて習得されるものである。 198 われわれが正しい問いを発さずには正しい答えは決して得られない。 202 科学者の戦いの相手である悪魔は、かく乱を加えて来る悪魔であり、意図的な敵意をもった悪魔ではない。自然はエントロピー的な傾向をもつという見解はアウグスティヌス的なものであり、マニ教的なものではない。 203 あらゆる戦いのなかには、微妙な感情的マニ教主義が暗に含まれている。 204 軍事的なモデルに基づいた教団はすべて、このようにマニ教的異端におちいる傾向を免れない。 205 科学は信仰なしには不可能だ。・・・自然は法則に従うという信仰なしには、いかなる科学もありえない。どんな大量の実例も、自然は法則に従うということをけっして証明することはできない。 206 帰納的論理、すなわちベーコンの論理は、われわれが証明しうる種類のものではなく、われわれが行動の土台にいうる種類のものであり、それに基づいて行動するということは、信仰の最高の表明である。
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| 2009-02-19 09:43
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