278-3(1249)社会的共通資本
宇沢弘文、岩波新書、2000 同名の本も借りていたのだが、まったく気づかなかったほどに、異質な、もちろん、基本的な主張は同じなのだろうが、異質な本だ。 著者は、社会的共通資本を自然環境、社会的インフラストラクチャー(ハード)、そし制度資本の三種に区分している。 そして、農業、都市、学校教育、医療、金融を論じ、地球環境についての問題提起を行っている。 農業について、著者は1961年制定の農業基本法が、農業をだめにしてきたという。農業を工業と同じような市場効率性に基づいて、評価しようとした点である。51 工業には農業にはありえない「規模の経済」がある。従って、日本の経済成長と農村の生き残りは「農村における人口流出、とくに若年労働力の流出によって、一人当たりの農業生産性は高い率をもって上昇しつづけるという奇妙な現象を呈することになった。」55 しかし、そのことは、国際的な流れの中に日本を置くと、日本列島からの農村の消滅に他ならなくなる。62 農村が果たしている環境的な役割、社会共通資本的な役割を考えた時、面積割合で考えるか、人口比率で考えるか、それを事前に決めるべきであると著者は言う。その上で、どのような政策によって、例えば、人口の20%が農村に定住して農業に従事するかが、考えられなければならないのだと。63 農家一戸当たりの農業収入の低さ、第二種兼業農家化は、一戸を経営単位として考える対策から来ており、農村を単位として経営するコモンズとして考えるべきだと、著者は言う。76-77 次に、いまや人口の8割を越える居住がある都市はどのような社会共通資本であるのか。「ある限定された地域に、数多くの人びとが居住し、そこで働き、生計を立てるために必要な所得を得る場であるとともに、多くの人びとがお互いに密接な関係をもつことによって、文化の想像、維持をはかってゆく場である。」95 土地の生産性に依存することなく、生産活動を行うことができる。 最適都市とはどのような都市なのか。99 もちろん、著者の十八番である「自動車の社会的費用」を考えた場合、最適都市は自動車依存型ではありえない。その理念が依拠するものとしてジェイコブズ(『アメリカ大都市の死と生』1961年)の四原則が紹介されている。120 1.道路の幅がせまく、曲がっていて、1ブロックは短い。 2.再開発にあたっても古い建物が残されること。 3.都市の各地区は二つないしそれ以上の機能をもっていること。多様性。アンチ・ゾーニング。 4.各地区の人口密度が十分に高くなっていること。 何よりも、歩くことを前提に作られること。 この本で著者が他の本にはなく力を入れているのが、学校教育についてであろう。ここまで語っていることに驚いた。 学校教育が果たしている社会的統合、平等主義、人格的発達という三つの機能について、いまのアメリカおよび日本の教育が不平等を拡大する方向に働いていることを指摘しつつ、それは経済の法人資本主義を改革しなければ、できないことなのだという。「抑圧、個人の無力化、所得の不平等、機会の不平等は歴史的にみて、教育制度に起因するものではないし、不平等で、抑圧的な今日の学校から生み出されたものではない。抑圧と不備揺動の根源は、資本主義経済の構造と機能の中にある。この点に、社会主義の国々をも含めて原題の経済体制を特徴づけるものがあって、人びとが経済的生活の管理に参加することを不可能にしている。」(87-88頁より、ボウルズ、ギンタス『アメリカ資本主義と学校教育』1976、翻訳は宇沢弘文によって、岩波書店刊1986) 143-145 序章に著者がいう「ゆたかな社会」とは 1.自然環境 2.住居、生活的文化的環境 3.学校教育制度 4.医療サービス 5.希少資源が、以上の目的達成のために、効率的、衡平に配分されるような経済的、社会的制度。 すべての人びとの人間的尊厳と魂の自立、市民の基本的権利が最大限に確保できる、本来の意味でのリベラリズムの理想が実現される社会。2-3 その社会は、経済が、社会的共通資本をどう扱うかにかかっているという。
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| 2009-01-28 11:10
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