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まなざしの地獄 尽きなく生きることの社会学

272-1(1220)まなざしの地獄 尽きなく生きることの社会学

見田宗介、河出書房新社、2008

連続殺人犯、永山則夫についての聞き取り、同時代のデータの両方から、時代の課題を洗い出した論文。1973年のものを再録。

1965年に集団就職で貧しい家族から逃れるようにして上京。
出身を馬鹿にされるような「まなざし」を感じ、職場を離れ、転々とする。

自身、家郷を侮蔑し、嫌悪し、身をはがすために、都会的なおしゃれ、学歴への執着と挑戦を持ち続けた。しかし、投企は実らないまま、まなざしは一層頼どころなく、演出される期待と現実は乖離していく。
そのような存在として見られることから逃れるためには海外に行くしかないと、密航を試みる間にピストルを入手。警備員の殺害、逃亡へと導いていく。

彼の生きたかった「尽きなく生きる」自分と、集団就職した金の卵に期待され、用意された生のズレ。

11
N.Nの憎悪した家郷は、・・・近代資本制の原理によって風化され解体させられた家郷であること、いわば〈都会〉の遠隔作用によって破壊された共同体としての家郷であった

19
都市が要求し、歓迎するのは、・・・「新鮮な労働力」にすぎない。しかして「尽きなく存在し」ようとする自由な人間たちをではない。

26
一見ランダムのごとくにさえ見える彼らの転職に、一つの明確な客観性の貫徹していることがわかる。休日制と離職率との、この相関の明確性。

42
都市の関係の囚人

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おしゃれと学歴 表層性の演技

46 『無知の涙』より
「鯨の背中にのって、世界旅行している最中に、食べ物がなくなった。「君を食べていいかい・・・」「仕方ないよ・・・」   それは悪辣極まることだと気づいたとき、三分の一を食べていた。・・・・鯨は死んでいた。
鯨は自分自身の精神と悟るのであった。」

50
麦めしが貧乏くさいのは、それが麦めしを食う人間の、ある情況の総体性を記号化しているからだ。

貧乏の本質は差別

絶対に満たされなかったものは、社会的差別、自己の社会的アイデンティティの否定性、あるいは存在の飢え

「貧困から無知が誕まれる。そして人間関係というものも破壊される。」

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「戸籍あるいは履歴書が要件をなすということは、人間の過去と現在とが自動的に取り消し不可能な効力をもってその未来を限定するということだ。

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〈演技〉こそはまさしく、自由な意思そのものをとおして、都会がひとりの人間を、その好みの型の人間に仕立て上げ、成形してしまうメカニズムである。

望む通りに理解されることの不可能性 ファノン

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「あなたたちへのしかえしのために、わたしは青春を賭けた」

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行為のあとでそのことを知ったN.Nの痛恨

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「知ったとき 確実な運命が眼前にあり・・・」ということの無残。
・・・
「見る前に跳ぶことだけを強いられてあることの無念。
しかも見るまえに跳んでしまったN.Nの投企の挫折を、われわれのうちのだれにもわらうことはできない。およそ〈怒りの陥穽〉は〈怒らないことの陥穽〉の裏に他ならず、当の怒らない人々の無関心さこそがたくさんのN.Nたちを、絶望的な孤独のうちにそこに追い込んでしまうものだから。
by eric-blog | 2008-12-14 21:05 | ■週5プロジェクト08
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