232-2(1126) 日本人の歴史意識 -「世間」という視角から-
阿部謹也、岩波新書、2004 学問と「世間」、岩波新書、2001 世間の行動原則は三つだという。贈与・互酬の原則、長幼の序、共通の時間意識。n-7 「今後ともよろしくお願いいたします。」「先日はありがとうございました。」という表現は、欧米にはない、それはそれぞれがそれぞれの時間を生きているからだ。n-7 なるほど。共通時間を生きていると思うからこそ、このような挨拶がありえるということか。 著者は1935年生まれの、大学教授および学長などを歴任している男性だ。言ってしまえば、日本社会の特権階級そのものだ。参加型に向かない年長、高肩書き、高学歴者。その筆者が1980年代くらいからのテーマとしてきたのが「世間」である。 「世間」の中で生きている日本人は歴史を意識・自覚できない。・・・(自覚できるのは)「世間」の中でうまく適応できずにいる人である。「世間」とうまく適応している人は、「世間」を知ることができず、その本質を理解することができない。n-203 いまとなっては、年長、高学歴、高肩書きの筆者が、いったいどこで「世間」を意識できるのか、不思議ではあるが、そのあたりについては、どちらの本にも書かれていない。自己のテクノロジー、省察として書かれているのは、一橋大学が、挑戦してきた大学改革ぐらいのものか。 もともと、世間というのは仏教用語でサンスクリットのローカという概念を訳したもので、「壊され、否定されていくもの」n-13 日本でも万葉集などでは「移ろい行くもの」「はかないもの」として世間は描かれている。それが、なぜ、人が生きる場そのものを表すことばになってしまったのか。世間ははかないのに、世間以外では生きられない。「世間(よのなか)を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」という山上憶良の歌がある。g-101 世間が権力となっていく様子を著者は中世へと描いていくが、その中で、親鸞が呪術を否定し、アニミズムを否定した唯一の宗教家として紹介されている。結果、信徒たちは特権的なものもなく、祖先信仰の弱い、横のつながりの強い社会、迷信やタブーの少ない社会を形成している例も紹介されている。(周防笠島)n-56 それ以外は、「自らの足元には西欧では考えられないほど現在でも重術がしのびこんでいるにもかかわらず、近代化された社会だと錯覚しているにすぎない。」n-57 では、一般的には「世間知らず」だ思われている学問の徒はいかがなのか。それが『学問と「世間」』。実は、学問の徒たちは、「世間」と同様に近代化されておらず、彼らは彼らで狭い「世間」を構成して暮らしているにすぎない。というのが、本書の趣旨であり、学界に対する批判である。 学問の世間とは、同学、同学界、年功序列、縦割り秩序の社会である。そこでは、学際的な研究や大講座制などの改革は、のぞむべくもない。らしい。だろうな。 著者は、一橋大学の改革例をあげるのだが、歴史は知らず、現世だけのことについて言うならば、分は悪そうだ。だって、一橋大学だけは、教員公募制と実力主義をひくとする。すると、一橋大学出身者らは競争にさらされるが、彼らは、他の「世間」系大学には入れない。しかし、「世間」系大学出身者で、実力のある人は一橋大学に挑戦できるのだ。結果として、一橋大学のレベルがとっーーても上がるか、あるいはステップアップ大学になるかだ。 大学教授の市場が形成されていないということは、そういうことだ。非関税障壁でがっちり固められている市場vs自由市場。かな。 もちろん、歴史から言えば、これは非合理であるから、流れの先は、明白だ。しかし、「世間」に生きている人々は現世主義者であり、歴史意識を持つことができない、と自らが看破していることを忘れてはならない。 実は「世間」というのは、年長者、男性、高肩書き、高学歴、高学識の人々が、恣意的に権力をふりかざすことのできるせまい社会のことなのだ。それを「力の濫用」という。「遅れてきた定着民の悲劇」とは、人権ではなく、「お慈悲」にすがらざるをえないところだ。 せまい、のであるから、一つには「多様なアソシエーション」が自由の道、であり、物差しが上下なのであるから、物差しを自らに置くことが「解放」の道だろう。 「個」が確立していない、個と個の対等さを前提にしない社会。それが「世間」であり、そこには、特有の「関係性のテクノロジー」が「自己のテクノロジー」に対して圧倒的に肥大して存在する。 「世間」と戦わなければならない、と著者はいう。n-201 世間は、この著者にして、生き苦しいものなのだというところに、多少の共感は持つものの、「所詮は、あんたらの闘いだろう」と、臍で茶をわかしたくもなるのである。
by eric-blog
| 2008-05-31 10:50
| ■週5プロジェクト08
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