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あなたのTシャツはどこから来たのか? 誰も書かなかったグローバリゼーションの真実

224-7(1098)あなたのTシャツはどこから来たのか? 誰も書かなかったグローバリゼーションの真実
ピエトラ・リボリ、東洋経済新聞社、2007

大学の金融・国際ビジネス論を教えている著者が、1999年のWTOに対するデモ、問題提起に対し、「君たちは経済を知らない」という専門家らしい反応を乗り越えて、本当に何が起こっているのかを検証しようと、Tシャツの旅に乗り出した物語。データや定量的研究ではなく、「物語」としているところが最近の研究の流行っぽいね。

まずはTシャツを購入。そのTシャツを生産している会社に電話をし、フロリダにあるプリント生産会社から、白地のTシャツ生産の上海の紡績工場縫製工場へ、そしてなんと原料である綿花はテクサ、つまりテキサスにあった。

物語は、なぜ米国が1700年代後半からの200年にわたり、綿花生産世界一を維持できたかに迫る。それは決して補助金付けというような簡単な話しではなかったのだ。

綿栽培は、若木の育成、雑草とり、防虫から、摘花のタイミングまで、労働集約的な産業として、米国深南部ディープサウスに奴隷制とともに発達した。労働市場に開かれた労働力調達を行っていたなら、綿花栽培はあっという間にコストの合わない産業になりはてていただろうという。きつい労働であり、そして、地域の誰もが一斉に取り入れを行うというようなものだからだ。「単純な「川上」作業は、差別化が図りにくいために、「平均と牛収益率が低くなる」
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著者は、綿花栽培業に対する最初の「公共政策」が奴隷制度であったという。14

240ha程度までの大きさの農園であれば、広さと生産額は相関するという。240haを維持するのに必要な奴隷は約350人だ。その労働管理に使われた手法は飴と鞭、そしてパターナリズムの巧妙な組み合わせであったのだという。どれか一つだけではない。 おっと、すてきなバイオリン弾きを農園に招くことも忘れちゃいけない。パターナリズムというのは「依存」と「保護」の共依存関係だ。

深南部はこの「公共政策」の維持が自分たちの産業の生命線であることを知っていたために、南北戦争を戦った。

敗北の結果、彼らが選んだ次なる「公共政策」は「小作制度」だ。わたしたちが『青い目が欲しい』(トニ・モリソン)などで知っている「白人の店でつけで買い、収穫の売り上げとつけとがいつも均衡している」状態は、その制度の結果だ。30

そして、とうとう小作からも黒人が閉めだされた結果につながったのは、政府による小作農貧困緩和のための価格支持制度であったという皮肉。官僚制度が補助金や支援策などによってはびこってくればくるほど、無文字であった黒人層は押しのけられた。「国はこれまでにないくらい綿のことに首をつっこんできた。もうその時点でおさらばしたよ。毎年あんなにたくさん書類を書くのはごめんだったし、ややこしい手続きがやたらと多かった。」47

結局、米国の綿花産業を救ったのは、西部テキサスやオクラホマという後発地域が、従来の産業形態に縛られることなく、「綿繰り機」の開発、機械化などの段階に一挙に飛び込めたからだという。いまや400haの綿花畑で労働するのは一人で十分なのだ。もっともそれも20世紀半ばすぎてからのことではあるが。
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研究機関、政府、市場、農業者の団結による政治力などが機能して初めて、米国綿花産業は長い時代を生き延びて来たのだというのが、結論だ。どれか一つだけではない。途上国の第一次産業の失敗は、包括的な仕組みそのものの不備のためなのだと。

物語は、次に中国の工場へ、いましも起こっている「野麦峠」の物語へと移っていく。しかし、彼女が描き出すのは、「農村より都会」を選択する若い女性たちだ。135

そして、もっとも経済、市場の力が働いているのが、Tシャツのライフサイクルの最終段階、リサイクル市場だと、著者は「ミトゥンバ」産業を描き出す。アフリカに対するさまざまな大規模な支援策はたいして実を結んでいるようには見えないが、ミトゥンバは、アフリカ人による小規模ビジネスとして隆盛であり、そして、商売人の才覚が売り上げを左右し、結果、来ているものは良くなっている。278

救世軍のバザーから、米国内のリサイクル産業へ、そしてアフリカのミトゥンバ・ビジネスへ。Tシャツの最終地点までの旅は長い。

著者は、最初の問題意識に立ち戻って、活動家たちは、「経済の底辺への競争」から貧困層を保護しようとするのではなく、貧困層の政治参加の力を高めるように動くべきなのだと言う。322

日本語版に寄せた前書きで、著者は、「戦争で壊滅した日本の繊維産業に手を差し伸べたのは、米国の綿花産業」であったこと、そして、繊維産業の隆盛がその後の工業化への第一歩を遂げていったことが書かれている。V

自由貿易懐疑派にっと、企業は必要であり、企業には自由貿易懐疑派が必要である。何より、アジアの搾取工場労働者やアフリカの綿農家は、その両方を必要としている。Xvii

おもしろい本だ。栃木農業高校の先生と、この本についてのカリキュラムができればいいねと話し合ったが、実現するといいなあ。

そうそう、英国で羊毛産業を保護するために、「ウール製品を着るべしというような政策がとられたこともあったんだって。226
by eric-blog | 2008-04-05 09:35 | ■週5プロジェクト08
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