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マハティール政権下のマレーシア 「イスラーム先進国」を目指した22年

213-1(1030)マハティール政権下のマレーシア 「イスラーム先進国」を目指した22年
鳥居高編、アジア経済研究所、2006

1981年から2003年まで、マハティール大統領が目指したマレーシア国家の発展の形を検証するアジア経済研究所の研究報告書。
1991年までの「マレー人優遇」政策、ブミプトラから、それ以降の経済発展とブミプトラのバランスを志向するビジョン2020への転換。ビジョン2020でマハティールが打ち出したのは9点ある。
・マレーシア国民意識
・自由と自信
・成熟した民主的社会
・道徳的で倫理的な社会
・成熟した自由で寛容な社会
・科学的で進歩的な社会
・思いやりの社会と気遣いの文化
・経済的に公正な社会
・繁栄した社会

マレーシアの二重のナショナリズムというのはマレー人による社会であり、かつまた多民族国家としてのマレーシア国家であるということ。

その背景には強い華僑勢力が仄見える。

1981年以来、民営化しつつ、マレー人による株式保有率30%を目指す方針は、いまも基本的には変わらない。
そして、1969年に立てられた高等教育推進、進学率20%を達成するという目標も変わっていない。

つまり、これらの二つはいまだに成功していないということに他ならない。マレー人による起業、企業経営は伸び悩み、高等教育進学率はいまも11%程度だという。

一方で高い経済成長は「輸入代替工業化」(国産推奨)から「輸出」立国へとシフトした。6種の一次産品に加えて石油加工品、そして最近では電子産業などであるのだが、まだ「低付加価値」製品にとどまっているという。

イスラーム金融のところでも触れたが、マレーシアのタカフルというようなシャリーア型保険の提案など、イスラームにのっとった金融制度の研究と提案も進んでいる。

華僑の経済力とイスラーム金融がどのように接点を持っていくのか、マレーシアはおもしろい事例になるのだろうなあ。

しかし、どれほどマレー人優遇政策が取られようとも、高等教育進学率が、日本社会で伸びたほどには伸びないのは、なぜなんだろうか。ちょっと、調査研究に訪れてみたい気もする。

昨日のFoF勉強会で、経済格差の国際比較表を見ていたのだが、日本社会は最貧層10%の人々がGDPの4.8%を保有し、最富裕層10%が21%を保有する(2003年)とても平準化された社会であることが、数字からは見て取れる。チェコと類似していたのがちょっと面白かったのだけれど。

日本は競争社会が激しいかもしれないが、競争可能性が国民の格差の平準化に働くという要因であることは否めない。競争がないところでは、「社会的有利性の再配分機能」は、政策主導で行うしかない。7割が何らかの高等教育機会の中で、能力を伸ばそうとする社会の底力は大きい。政治家、歌舞伎役者、タレント、医者など、例外的に「世襲的」であることが取りざたされたる一部を除いて、大勢としては学歴競争社会があることで、格差の固定化を防ぐことができるのではないだろうか。

学歴社会は、近代の追認であり、延命に働くのだろう。

そして、日本という社会は、ポストモダンについては、アニメやコミックなどの提案力のようなトリックスター的な役割以上にはなれない気がする。困ってないからな。

そんなことを、マレーシアについての本を読みながら、考えた。
by eric-blog | 2008-01-13 11:52 | ■週5プロジェクト07
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