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なぜかれらは天才的能力を示すのか

210-2(1014) なぜかれらは天才的能力を示すのか

ダロルド・トレッフォード、草思社、1990

原題はExtraordinaryPeople。この本は心理学者である著者がサバン症候群について過去100年間の文献をあたって事例とその原因分析を整理したもの。
サバンとはフランス語で「天才」のこと。通常の社会生活をサポートなしで送るには障害がある人が、ある分野では天才的なパフォーマンスを見せるのがサバン症候群と呼ばれる。
このブログでも、オリバー・サックスの本を紹介したり、何回か取り上げている。
生理学的心理学的な専門家ではない立場から書かれたものは大きな地図が見易いという分かり易さがある。
サバンが現れる分野はカレンダー計算、音楽(ピアノ!)、計算、美術、記憶など。
胎児の脳は左脳が遅いとか、そのために男性化に効くテストステロンが増加する時期にあたりやすく、それが左脳の発達を阻害するとか。サバンの7、8割は男性だ。
左脳の障害によって右脳優位になることで、さきほど示したような分野での能力が発揮されやすくなる。
著者はサバン症候群が成り立つ条件を三つあげている。脳の器質にかかわるもの、能力、動機づけと強化。山下清の事例、すなわち彼にとって「描く」ということは人とのつながりであった、を引きながら、著者はサバン症候群を示した人々の回りの人々こそが、「天才」を作り出す力になっていることを指摘する。
なるほど、そうだろうなあ。サバン症候群の人々はその天才性を発揮する前から、他者に依存せずに生きることが難しい。検査や研究の対象となり、さまざまな刺激にさらされる結果となる。
「レナードの朝」のように、見出だされた能力を使うのは回りの人々なのである。

だからこそ、著者はこの本をサバン症候群の人々の幸せのために書いたという。サバンであろうがなかろうが、彼らの幸せは回りの人々の対応にかかっているのだから。力を認められることがうれしくて、動機づけられ強化される場合ばかりではない。

わたしたちの脳にも同じ能力が実はある。今のところ、左脳とのバランスで押さえられているだけだ。これから、そのような抑制が解除できる方法も研究されるだろうと著者は言う。

その前にまず日常だと思っている時間を自ら生きられていることの奇跡に感謝することをした方がいいように思うのだが。
そして、それぞれの中に光るものをていねいに認めることを。
その土壌なしで都合良いサバン力の発揮を推進すると「近代の学習性無力感」はさらなる泥沼にはまると思うのだが。
by eric-blog | 2007-12-19 19:06 | ■週5プロジェクト07
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