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イヴの七人の娘たち/アダムの呪い

210-1(1013)イヴの七人の娘たち/アダムの呪い
ブライアン・サイクス、ソニー・マガジンズ、2001, 2004

ミトコンドリアのDNAは、卵子にのっかって、ぬくぬくと自分の遺伝子を次の世代に、つまり、次の世代の卵子にのって、つまり、母系を通して、自分の遺伝形質を伝えていく。
前著は、その系統を古生物学などとの協力で、遡って研究した結果、ヨーロッパに広がるミトコンドリアDNAが7つの系統樹に整理されることを示したもの。

フランスを中心に2万年前に分岐したHELENAがもっとも大きく7割を占め、もっとも古く、ギリシアあたりに存在するURSULAは4万5000年前、カスピ海黒海の間のXENIAは25000年前、スペインのVERDA 17000年前, イタリアのTARA 17000年前、スイス・オーストリアあたりの KATRINE 15000、イランあたりのJASMINE 1万年前。

この説では、5万年前ほどにアフリカから出た人類がまず近東でとどまり、そこからヨーロッパへ、そしてアジアへと広がったとされている。

もちろん、Y遺伝子の追究による現生人類の広がりについては2005年のナショナル・ジオグラフィック3月号がもっともエキサイティングだったのだが、サイクス氏によるこの著作は、そのような系統樹作成のひとつの先鞭となるものだ。

ミトコンドリアmtDNAはゲノムの数が14000個。研究しやすく安定した情報のキャリアだ。
それに対してY遺伝子は、全体の数も3万以上と多い上に、「突然変異のがれき」「雑多な情報」キャリアであり、どの部分に焦点を当てれば系統樹を作成するための情報が得られやすいかを特定するのにも時間がかかる。

この二冊のいずれの本も分厚いのはそのあたりの試行錯誤と科学的議論の片鱗が紹介されているためだ。(片鱗だけでこの厚さになるのだから、厳密に紹介するとどんな本になるのだろう?)

いまや世界のホットトピックスである遺伝子。多くの研究者たちの努力によって、(彼らの活動そのものが、まるで、卵子という目標物に向かう精子そのものだが)Y遺伝子による進み、系統樹がミトコンドリア研究と一致することが証明される。E-229

サイクス氏の著作のおもしろいところは、それら7グループについて、歴史を踏まえて、農耕の状態、社会のあり方などを描きだしているところだ!

サイクス氏の次の著作は、性生殖そのものについてである。両性生殖は果たしてクローニングよりも有効なのか。効率という面では単性生殖が早い。しかし、寄生虫などのリスクに弱い。生殖が遅い哺乳類などは、生殖が早い寄生虫、細菌などのリスクから実を守るためには、多少スピードを犠牲にしても、多様性によって生きのびる道を選ばざるを得ない。スピードで太刀打ちするには、わたしたち哺乳類は複雑になりすぎている。

しかーーーし、いま、各世代の男性の1%ほどが10%ほど衰えた生殖能力をもつ傾向があるとして、Y遺伝子は、12万年後ぐらいにはなくなってしまう。

利己的な遺伝子であるY遺伝子は、人間の場合、定住・農耕によって、所有物、富、権力の三つを手に入れたおかげで、性選択という力を身につけた。310

そして、Y遺伝子は女性を奴隷化し、そして、環境を思うがままに私物化するいまを作り出した。その結果、地球そのものを脅かすにいたっている。

アダムの呪いとは、Y遺伝子がもたらす危機とY遺伝子そのものに迫る危機の両方を意味している。

前者にあっては、たんたんと、描写された狩猟採集生活から農耕への変化は、後者にあっては、その陰が猛威を振るう姿として現れる。両方並べて読んでみるのがおもしろい。
by eric-blog | 2007-12-18 09:59 | ■週5プロジェクト07
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