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地に呪われたる者

195-2(938)地に呪われたる者
フランツ・ファノン、みすず書房、1996、原著1966, LES DAMNES DE LA TERRE
黒い皮膚・白い仮面、1998、原著1951

前者の序はジャン=ポール・サルトル、後者の序はフランシス・ジャンソン。時代順で言えば、『黒い皮膚・・・』が先であり、序が書かれたのも1952年。黒人自身の生を生きよと主張するネグリチュード運動の先触れとなったファノンの呼びかけに対し、ジャンソンは「ファノンが語るのは、彼らのためである。  そしてまた彼らを否認し、彼らが人類に属することに異義をとなえ、まさにこのことによって自己を否認し、自分自身をも人類から締め出してしまっている者すべてのためでもある。」と受け止める。そして「熱烈なまた友愛にみちたそれらの言葉のかげに、比類のない、われわれすべてに関係する、一つの要求を、どうして認めないことがあるだろうか?」

マルチニック島に生まれ、フランスに渡り、「自由フランス」で戦い、戦後精神医学を学び、フランス領としてのアルジェリアに赴任した時、1953年アルジェリア独立戦争が起き、その中で1957年、民族解放戦線に身を投じる。つまり、この二冊の本は、その転機をはさんで書かれたものだということだ。

『黒い・・・』が黒人であることを描写してものだとすれば、『地に・・・』はもっとねじれたパワーの問題とそのパワーの問題ゆえにおこる精神のゆがみに焦点をあてている。
そして、序を寄せているサルトルも、植民地主義者の側としての苦々しさを突きつけられ、とまどう。「われわれは回復するだろうか。・・・われわれは、身動きもできず、屈辱に打ちひしがれ、恐怖の病人になっている。・・・アルジェリアを解放しないということは、フランス人を植民地化してしまうということだ。・・・」そして、フランス人がアルジェリア人と連帯することなく、何に対して戦うのかと問う。コロンやコロンによる傭兵たちは、新しい暴力を解き放ち、フランスを巻き込んでいくだろうと。1961年、アルジェリアの独立の一年前のことだ。
コロン、植民という侵略、黒人奴隷という搾取、フランスという名のもとに行われた罪悪を見つめ、語るサルトルの口調は苦渋に満ちている。

アルジェリア戦争は、独立を認めるフランス本国ドゴール政権と、独立に反対するコロン、植民者ら、そしてFLN解放戦線の三つ巴の戦いが繰り広げられたものだ。

植民地戦争の中で見られる精神障害について、ファノンは四つの系列の症例を紹介する。
系列Aは、明確な衝撃となる事実があったのちに現れたもの。
系列Bは、アルジェリア全体にたちこめる全面戦争の雰囲気そのものが引き金になったもの。
系列Cは、拷問によるもの。予防的無差別拷問。電気拷問、自白注射、洗脳など。
系列Dは、アルジェリア人に見られる心身症。植民地権力に直面した原住民の筋肉の硬直、躊躇、拒絶の存在。288

そして植民地主義は、原住民について、「高い犯罪性」「怠惰」「うそつき」などの「民族性」を引き起こしつつ、現代医学は、それらの症例を実証として積み上げるのだ。293

しかし、人類の五分の四を隷属されたヨーロッパを断罪し続けることに展望はないと、結びでファノンは言う。新しい人類の歴史を生きていくことが大切なのだと。

地に呪われたもの、地球の呪いは、ヨーロッパという存在であったのだ。

その軌跡を他の人類が辿ることがあってはならないのだと。
by eric-blog | 2007-09-02 10:47 | ■週5プロジェクト07
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