184-3(873)教育評論の奨め
中内敏夫、国土社、2005 1930年生まれの教育学者である。対談と聞き取りのような形でまとめられた文章を集めたもの。 環境自治体会議内子会議の後、大洲、松山の道後温泉などとめぐり、4月28日にオープンしたばかりという『坂の上の雲ミュージアム』を訪れ、愚陀佛庵などを実見してきただけに、『坂の上の雲』そのものにも目を通している。『天の園』同様、どうしても人間形成と学校、教育のあり方などをそこに読んでしまう。(ちなみに子規博物館で展示されていた小学習字手習い本の第一ページは「金一円、預り証」という証文文でした。さすが実学主義) 教育学というのは、自然科学のような「認識」の学問でも、倫理や宗教学のような「実践」の学問でもなく、政治に近い「製作」の学問である、と著者はまず位置づける。そして、政治評論のように、きちんと専門職としての評論が成り立つべき分野であるのだと。 評論とは、しかし、製作知としての編成のしなおしを含むものであるから、製作の現場の自己評価、自己点検を励ますものでなければならないし、再製作行為になっていく、内在的で、再創造的なものにならなければならない。12 評論とは外在的断定的なものではないのだ! 著者は、日本の近代教育を次のように見ている。「日本の人づくりシステムにとって近代学校はなにだったか」2003 近世の人づくりを支えたもの ・私塾 学問塾 ・私塾 寺子屋、手習い、読み書き算 ・郷学 ・藩校 明治時代の20年ほどを除いて、「閉鎖的、情緒的なタテの人間関係で作られている共同体的な精神風土と社会システム」にのっとった「社会」や「世間」を支える思想というのは「個人を育てる」教育という意味での教育史が成り立たないのではないか。 というような疑問をオランダの学者から投げかけられたことがあるという。 幕末のタテ社会をゆるがす蠢動、内発的な変化への動きを、明治の近代学校が破壊したという。ひとつは、「たてまえとしての学校文化」と日常の本音の文化の分裂を招いたという二重生活をいまに至るも続けていること。学歴が通用する「社会」と、義理人情がらみの「世間」と。20 その社会とは、国家官僚主導の西洋化による近代化。家族や地域が教えていないことを教えることができる近代学校。 しかし、近代学校は人間関係の近代化はやらなかった。近世の人づくりシステムの個人の析出とタテ秩序の再生産の両面性を引き継いでいた。そのタテの部分を利用した上で、人づくりを行った。 二つ目は、教育勅語。これによって、「個人」を析出してくるもの、ヨコ関係の成熟の素地となる心性、ヒューマニズム、人間愛、友愛、人権の思想など、育っていたであろうものが断ち切られた。25 また、知育、社会性訓練、人材選抜の三つの機能を果たしてもいるために、学校がためになると社会全体が崩壊してしまう。26 学歴主義官僚社会の誕生、となるわけだが、20世紀初頭には、「活人物」教育という自由教育、富の教育などが出てくる。また、それは戦後教育にも再びみることができる。 60-70年代の学校爆発期を経て、学歴はやっぱり親の財力ということがはっきりし、そして、「いい学校、いいポスト」が成立しなくなり、学校からの脱落が始まった。 学校はむしろ個が育たないように押さえ込んできた。33 「教える技」が成立しにくい土壌が日本社会にはあるのだとも、別の論では展開している。 さて、教育学を「翻訳教育学」を超えたものにするにはどうすればいいのか。 日本の教育問題に真剣に取り組むことだと、著者は言う。170 フォーク教育学から出発し、メタ教育学を通過し、自らを理論化し、かつ概念を整理し、認識的改良力を獲得すること。 このあたりになると、沢柳や城戸など、教育実践者らからの引用も多い。が、「懐かしい」以上のものになっていないところが、教育学的蓄積の薄さなのだよね。 フレイレ、モンテッソーリ、シュタイナー、なども同様だが、実践をしてしまうと、そこだけになってしまう。 しかし、明らかに、近代学校制度は、翻訳教科書から始まりながら、教科教育の担い手を量産することに成功したんだよなあ。そこんとこが、わからない。なぜ、教育者の教育についての教育評論が欠如しているのだろうか?
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| 2007-05-29 13:03
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