構造的暴力と平和 [週5プロジェクト171-6(811) 、オリジナル2002年2月28日まとめ]
ヨハン・ガルトゥング、高柳先男、塩屋保、酒井由美子 訳 現代政治学双書12、中央大学出版部、1991年 冷戦とは恐怖心をめぐるものであった。 スターリン主義と核至上主義の恐怖 1. 平和という言葉は、言葉のうえで合意した社会的目標にたいして用いられる。 2 達成することは 不可能ではない 3 平和とは暴力の不在を意味する との主張は有効であるとしておく。 「暴力が存在しない社会秩序」 「平和」は「全員により」支持されたものではない(コンセンサスは必要とされない)といういみで、一般的用法からはずれたものとなるかみしれないが、まったく主観的なものであってもならない(多くの人がそれに同意できる)。それは、その実現がユートピアにすぎない状態を示すものであってはならない(実現が不可能ではない)が、ただちに政治的日程にのせることができるものであってもならない(複雑で困難である)。そして、それは今日、そして近い将来に、われわれが取り組むべき政治的、知的、科学的課題がなんであるかを、ただちに示すことができるものでなければならない。 p.5 「ある人に対して影響力が行使された結果、彼が現実に肉体的、精神的に実現しえたものが、彼のもつ潜在的実現可能性を下回った場合、そこには暴力が存在する。」 狭義の暴力概念によれば、肉体的無力化または健康の剥奪という行為が、行為主体により意図的に行われた場合にのみ暴力が行使されたことになる。 p.6 「潜在的可能性が現実的可能性よりも大きいという状況を避けることが理論的に可能であり、かつ現実的にも可能であるならば、そこには暴力が存在することになる。」 平均寿命がわずか30才ということは、新石器時代にあっては暴力の発現ではないが、今日、同じ寿命しかないとすれば、 それは暴力とみなされる。 暴力についての区別の指標 物理的暴力と心理的暴力 積極的行使と消極的行使 傷つけられる客体が存在するか否か 行為を行う主体が(人間)が存在するか否か 意図された暴力と意図されない暴力 顕在的暴力と潜在的暴力 個人的暴力と構造的暴力 直接的暴力と間接的暴力 p.12 資源は不平等に分配されている。 とりわけ資源配分に関する決定権力は、公平に配分されていない。もし、所得の低い人が、教育においても健康においても、そして権力に関しても低い地位にあるならば、事態はさらに深刻なものとなる。 これらの領域は社会構造のなかで相互に結び付いており、それぞれの領域である人が占める地位のあいだには高い相関関係がみられるからである。マルクス主義者が資本主義社会を批判する場合、生産過程から生じる余剰に関する決定権が、生産手段の所有者により独占されている点を強調する。 なぜならば、資本主義社会では経済力は他の力に容易に転換可能だからである。 同様に自由主義者が社会主義社会を批判する場合には、いかに決定権が少数集団により独占されているかを強調する。 なぜならば、反対勢力にはその主張を効果的に表明するための場が与えられていないからである。 ここで重要なのは、客観的に避けることが可能であるにもかかわらず人が飢えている場合、そこには暴力が存在するということである。 p.13 個人的暴力と構造的暴力 直接的暴力と間接的暴力 主語と目的語はいずれも人間である。このような関係を欠く暴力は構造的であり、それは構造のなかに組み込まれている。それゆえに、一人の夫が妻を殴った場合には、それはあきらかに個人的暴力の例である。しかし、百万人の夫が自分たちの妻を無知の状態に置いておくとすれば、それは構造的暴力の例である。同様に、上層階級の平均寿命が下層階級 のそれの二倍である社会では、ある人が他の人を殺す場合のように他人を直接攻撃する具体的行為主体を示すことができないにしても、暴力が行使されていることになる。 p.13 暴力という言葉の濫用をさけるために、構造的暴力が存在する状態を社会的不正義と呼ぶことにする。 p.14 意図された暴力と意図されない暴力 平和とは暴力の不在であるとするならば、構造的暴力だけでなく個人的暴力にたいしても行動を起こす必要がある。 顕在的暴力と潜在的暴力 p.15 潜在的暴力の場合には暴力を観察することは不可能であるが、容易に顕在化しうる。暴力とは、実際に実現されたものと潜在的に実現可能であったものとのあいだにギャップを生じさせたもの(あるいはその減少を妨げているもの)と定義できる。したがって、潜在的能力が増加する場合にも、実際の実現レベルが低下する場合にも、暴力は増大することになる。しかしながら問題を後者に限定し、状況がきわめて不安定なために実際の実現レベルが「容易に」低下しうる場合に、潜在的暴力が存在するとしよう。 p.16-17 [チャート参照] 「暴力と暴力の威嚇」「物理的戦争と心理的戦争」「意図されたものと意図されないもの」 p.18 構造的暴力の客体は、暴力をまったく知覚しないように条件づけられているかもしれない。 構造的暴力は おだやかな水面そのものである。 構造的暴力は一定の安定性を備えたものとみることができるのにたいし、個人的暴力は時間的に大きな変動をみせる。 社会構造に組み込まれている暴力がある程度の安定性を示すのはとうぜんである。 そのため構造的暴力という「おだやすな水」のほうがはるかに暴力的となる危険があるにもかかわらず、個人的暴力のほうがより注目されることになる。 もし個人的暴力が大規模に行使された記憶が忘れられるに十分な期間、戦争がない状態がつづくならば、関心は構造的な暴力に向けられることになるだろう。その場合、安定は不自然な状態であるとだれにもおもえるほどに、その社会はダイナミックな社会である必要がある。 「III. 冷戦・平和・開発」 (a) 戦勝国において第二次世界大戦を戦った動機はかならずしも理想主義的なものではなかった事実を指摘して、独善的な態度をあらためさせる。古い傷を癒すための援助の手をさしのべ、いやな過去を忘れさせる。これらの国の発展計画がもつあらゆる欠陥を指摘し、それに対して懐疑的な気持ちを起こさせる。これらの国がとっている紛争行動は危険なばかりであなく、ばかげていることを理解させる。 (b) 敗戦国において第二次世界大戦ははるか過去のできごとである点を強調して、これらの国を敗戦の屈辱感から解放する。超大国の発展計画を模倣している属国的態度を批判し、より自力的な発展をうながす。紛争は危険であり、ばかげていることを示すだけでなく、その紛争においてこれらの国がとっている行動は、みずからの権利を完全に放棄した屈従的態度以外のなにものでもないことを理解させる。 (c) イデオロギーに関してはこれらの2つのイデオロギーは相互に排他的関係に立つものでもなく、またすべてのイデオロギーを包括しているものでもないことを示して、これらの国を批判する。 単純な紛争論理でとらえるにはあまりにも現実の世界はあいまいかつ複雑であることを示して、このような考えを批判する。 (d) 分断された国家に関してより緊密な関係をつくり上げていくために可能なあらゆる努力をする。超大国から自国を切り離すに必要な代償の支払を躊躇しない。超大国からの離脱をはかるのに、核拡散という手段に訴えることを拒否する。 (e) 同盟体制に関して攻撃的性格のものから防御的性格のものに軍事ドクトリンの変更をはかり、 平和創造のための訓練の場となるようにする。 (f) もっとも忠実な国このような国が徐じょに姿をけしていくようにする。 第二次世界大戦の思考からの脱却をはかる。 (g) 忠実でない国、あるいは異議申し立て国このような国ができるだけ多く出現するようにする。 (h) 独自の路線を歩んでいる国このような国の数がさらにふえるようにする。
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