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思想の身体 性の巻

160-4(767)思想の身体 性の巻
大越愛子、井桁碧、春秋社、2006

国家などの共同体が形成されていく際に、そこから排除される人々への暴力を通して新たな秩序が形成される ベンヤミン「精神暴力論」 214

近代国家、民族国家の形成過程においては、暴力というものを抱え込まざるを得なかった・・・民族を一つの単位として国家を立ち上げるということは人為的なものであるため、虐殺・戦争がある意味で不可避であった・・その際、多数の名前もない人々が犠牲になるということが近代国家形成の一つの過程にあった 215

この本の第三章だけが、心に残る。朴烈とともに天皇を襲撃しようとした金子ふみ子についての『「私を女と云うな」という女である』

戦前の男尊女卑、貧困の中で、学業もまっとうできず、男の都合だけで私生児になったり、祖父母らに引き取られたり、疎まれたり。そうした体験から金子は訊問調書で以下のように述べる。138

彼女が彼女自身の体験から肯定し、希求する「個人の価値と権利に於いて平等観の上に立つ結束」とは、「相手を主人と見て仕へる奴隷、相手を奴隷として哀れむ主人」そのどちらをも排斥する、そうしたものだった。
・・・国家も君主も、「民衆の心持ちの命脈の上に繋がりかかっている」・・・概念にすぎない君主に「尊厳と権力と神聖を付与」するために「神授君権」説が捏造されたのである。
・・・日本の国是として賛美、鼓吹されている「忠君愛国」思想は、少数特権階級が「私利を貪るための方便として美しい形容詞」で包装した、「他人の生命を犠牲にする一つの残忍なる欲望に過ぎない」

・・・天皇の万世一系を奉じ、それに連なるとする自らの家系を誇り、朝鮮人を蔑視する父、あるいは天皇の赤子たる〈日本人〉を撃つ。139

「朴が朴の道を歩むように、私は私の道を歩む」。そしてそういう金子は「あなたを一人死なせてはおかない」141-142


朴と金子は天皇による恩赦を拒否する。が、金子は独房で縊死したとされている。金子を死刑にすることは、金子の思想の存在を認めることになる。それもできず、天皇の心の広さを押し付けることにも失敗した国家権力が、何をしたのか。

とはいえ、完全に口を封じることができない法治国家では、あったのだね、近代国家化した日本と云う国は。

NHK「祖父の戦場を知る」2006年12月9日 ETV特集・選
やっと、中国やレイテでのことを語り出したのだ、召還された200万人はいるだろう人々が。戦後60年の蓄積が、彼らの体験に対する見方を、支持していることも、忘れてはならないと思う。平和への願いを、生き続けることが、人と社会を成長させていく。
by eric-blog | 2006-12-09 16:55 | ■週5プロジェクト06
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