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ことばと発達

148-1(709)ことばと発達
岡本夏木、岩波新書、1985年
子どもとことば、岩波新書、1983年

内田さんが引用していた「一次的ことば」と「二次的ことば」についての説明がなされている。「はじめに」で、岡本さんは、一次的ことばを家庭で獲得されることば、そして二次的ことばを学校生活を通じて獲得することばと定義している。そして、そこに子どもが直面するであろう難しさについての言語学的あるいは心理学的研究があまりにも少ない、と。

一次的ことばの特徴を岡本さんは次のようにまとめている。33-35
・現実生活場面の中で、具体的な状況と関連して用いられ、そうした場の文脈に支えられて意味が交換できる。
 ・特定の親しい人々の間で了解可能
  ・原則的には一対一でコミュニケーションが深められていく、対話的共同作業
日本語は、ハイコンテキストな言語であると言われるが、一次的ことばというのは、その中でも状況文脈的なことばだということか。

二次的ことばの特徴 50-
・現実の場面を離れたところで、ことばの文脈だけでコミュニケーションを成立させる
 ・未知の不特定多数者に向けて
  ・一方向的伝達行為として、フィードバックを期待しない、自己調整による深め
   ・話しことばに書きことばが加わる

状況
文脈
対象
展開
媒体
という側面から考えた対照表が52ページに出ている。

どのようにこれらのことばが関連づけられるのか、

ことばの獲得段階
・ことば以前
・話し始め
・一次的ことば期 ことばの生活化
・二次的ことばの使用期 ことばのことば化 

ことばの二重生活とか、調教師としての教師、母語と標準語、権威としての標準語、ことばの危機、など、二次的ことば期についての岡本さんのことばは重い。

一方で「村の言葉」「語り手」「語りことば」などの消滅ということば環境の変化にも、言及している。

二次的ことばの獲得が難しい知的遅滞にある青年たちとの交流に、二次的ことばの技術のみが一人歩きしている大学生たちからは感じ取れない「あるもの」がある、ことを指摘しつつ、「発達」とは何かという問いすら、岡本さんは発しつつ、ことばの危機に問題提起をしている。199

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その前作である『子どもとことば』は、人間のことばそのものについての示唆に富んだ本である。

ことばが成立するためには「共有関係」がなりたつ必要がある。意図的道具としてのことばは、協約性によって意味をなす。50
それは微笑の共有、リズムの共有、情動の共有、誘発的微笑、特に快感情の共有が、その後のコミュニケーションや対人行動における信頼感や愛情を支える基盤となる。-52
目と目の絆、視線の共有、共通の注意、注意の参加があって、「テーマ」と話し手、聞き手の三角関係が結ばれる。そこに、相互了解にもとづくシグナルの交換が可能になる。意図性と協約性は一体となって発達するのであって、いずれかだけではないことを岡本さんは強調する。

人見知り時期というのを、岡本さんは身近な人との間に共有されているコミュニケーション・コード以外のものに対する不安ととらえている。64
そして「ことば」というだれに対しても広く通用するコミュニケーション・コードが使われ出すと、減っていくのだという。

行動による対話、指差し行動など、協約性、テーマの共有を確認できる時期を経て、子どもたちは「シンボル」の世界へと踏み出していくことができる。

ソシュールによると「意味するもの」「意味されるもの」から記号は成り立つ。
「シグナル(信号)」「インデックス(標識)」「シンボル(象徴)」

園原太郎さんのことばの機能の3つの点からことばの役割について考えている。146
・命名
・弁別性
・社会的理解の道具

最近Mothereseとして研究されている「育児語」「ベビートーク」についても、村田孝次さんの次のような先行知見が紹介されている。156
育児語の特徴
・単純
・文法的
・冗長
・反復、パラフレーズ
・限定的な文型を頻繁に、反復的に
・子ども自身の言語能力によく適合している

そして、この本でも岡本さんは「ことばの危機」に憂慮を示しながら以下のような提案を行っている。178-179

・概念のステレオタイプ化や慣習化を防ぐ新鮮な経験を常に与える
・言語表現の意図的な工夫
・特定の対象を意識したコミュニケーションを小学校中学年までは大切に
・ことば以外のゆたかな表現手段も同時に
・国語の授業だけでことばが発達すると考えない
そして、学校における教科のセクショナリズムこそが子どものことばの発達を阻害する最大のものなのではないかと。179

あれから二十年、日本の学校教育はどれほど良くなったのだろうか。
by eric-blog | 2006-09-10 16:23 | ■週5プロジェクト06
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