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安心の探求

147-6(705)安心の探求-安全の人間科学--21世紀の課題
原子力安全システム研究所、社会システム研究所編、プレジデント社、2001

原子力って、やっぱり愛されていないよなあ、と思う。こんなのを見ると。たぶん、レアな経験だから、なのだが、自分自身も出版物を手掛けてきているものとして、胆が冷えつつ、指摘する。

「電子力発電テレビCMの効果測定」140
である。

著者の単純ミスであろう。
校正チェック漏れの4重奏の結果なのであろう。
単一の編著者によるものではない出版物だからだろう。
・・・・

お互いに気をつけましょうね。いろいろ深読みされちゃうですからね。

安全の科学に根ざした安心の文化の促進を、というスローガンがかかげられている。

第一章 21世紀をどう生きるか
第二章 環境立国と日本人のライフスタイル
第三章 安心社会の力学
第四章 原子力発電と日本人の国民性
第五章 安全と人間の行動

最終章が安全の科学にとってのヒューマンエラーについての研究である以外は、原子力のイメージとそのイメージに準拠した行動の傾向についての研究中心である。

その中で上記の見出しは、原子力発電テレビCMの効果を女子大学生に対して行った結果の報告である。「原子力は安全です」というCM以外に、高等教育機関段階にある若い人たちに対して、どのような情報提供があるべきか、プロパガンダを見せることの意義は、検討されていない。批判的思考は育つのか? 研究や調査は何をやっても許されるのか。

この報告以外にも、「原子力発電と日本人の国民性」の章では、事故情報が流れた直後の態度変容、原子力一般に対する態度、などについてのアンケート調査の結果がいくつか報告されている。一般的に、消極的に受容し、不安はあるが日常的には忘れている、事故があっても、原子力があるという前提なのならば、電力使用についての態度も変わらない、というのが傾向だ。それってどんな国民性?

おもしろかったのは「組織ノイローゼ」とその克服法112
組織の機能不全を個人のノイローゼに模して、その対処法を研究するというものだ。
・無力感
・エネルギーの低下
・葛藤
・欲求不満
・モラルの低下
・ネガティブな選択淘汰
・インプット、アウトプットの減少
・目標・価値観・規範の不一致
・無能
・未来への計画性の欠如
・コミュニケーションの衰微
・危機状態のくり返し
・取り組みの悪循環と失敗のくりかえし
・不注意、不管理
・リーダーシップの衰微
以上がその症状だ。これらはメリー&ブラウンの定義であり、引用である。が、出典はどこにも記されていない。(いまどき、こんな本の作り方するか?) 参考文献リストもない。
一般的には「リーダーシップの衰微」が組織ノイローゼを生むというのが仮説らしい。三隅さんのリーダーシップ論から「4タイプのリーダーシップ」PM, Pm, pM, pm パフォーマンスとメインテナンスの組み合わせを引用しつつ、pm型リーダーが組織ノイローゼを引き起こすと仮説している。ひぇぇぇ、三隅さんも、大変だ。
「このように、組織の健康的な働きは、リーダーシップの調停能力に依存するものだと言えよう。もちろん、このような仮説を検証するために筆者は多くの組織を対象にした調査研究を行い、その結果を他の機会(雑誌、学会等)で発表している。」125

そして、もちろん、論文の最後に文献リストはない。

こんな結論、見たことない。

少なくとも、では、原子力について「リーダー」とは誰なのかを明らかにして欲しいと思うし、原子力産業の不健康さ(組織ノイローゼ)があるのかないのかの研究もしなればならないんではないのだろうか。

研究というものは地道なものだし、仮説をひとつずつ積み重ねていくべきものだし、データも大事だ、それを取るのも大変だとは思うが、だからこそ、取りかかる時に、その意図を誤ってはならないと思う。知の世界に貢献すること、未知の開拓に奉仕する気持ちがない研究はは空しい。なぜ、頭のよい人たち、その意味での成功者たちが、もっと崇高なるものに、身を捧げることができないのだろうか。誰がこの本に書かれていることを、ベースにして、ここから積み上げようと思うことができるのだろうか。

著者名に、元大阪大学総長、人間科学部長の肩書きが並ぶのも、哀しいね。とても、哀しい。知の世界に真摯に対する研究者の態度形成に、彼らは貢献したと言えるのか。
by eric-blog | 2006-09-07 11:47 | ■週5プロジェクト06
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