人気ブログランキング | 話題のタグを見る

管理される心 感情が商品になるとき

126-4(592) 管理される心 感情が商品になるとき
A.R. ホックシールド、世界思想社、2000年、2006年5刷
The Managed Heart" Commercialization of Human Feeling by Arlie Hochschild
1983

石川准さんが翻訳している。彼の『見えるもの見えないもの』はまだ紹介していない
が、とてもいい。あれ、買ったはずなのにどっかいっちゃった。
1983年に出版され、そして「感情社会学」という新分野を立ち上げた本書を1999年、
15年もたっていても訳出する判断力に敬意を感じる。とりわけ、PQ, EQ、そして感情
の管理についての著書があふれている今、議論の原点を共有できることは大切なこと
だ。

とはいえ、わたし自身は、「感情労働」を肉体労働、頭脳労働などに対比させること
自体がすでにサービス産業、人間を相手にする職業的社会化を害うものだと思ってい
るので、ホックシールドが問題提起したことは大切なことだと思うけれども、その議
論は不十分であり、また日本社会との彼我の違いが与えている影響も考慮する必要が
あると思っている。

いくつかのことを共有しておこう。
・感情は学習されたものである。「感情とは社会的文化的に構築されるもの」
・感情労働の起源は家庭にある
・「女制性」は感情的な生き物となるべく「感情教育」を受けて来た
・伝統的に女制性は感情管理に長けている
・自らが準拠する感情規則への自発的な同調として感情管理を、わたしたちは日常的
に行っている
・逸脱的な感情は、社会的・主体的統制の対象となる
・社会的・主体的に行われる感情の統制を「感情管理」と呼ぶ

ここからだけでも、「不機嫌な娘」の起源を知ることができますね。家庭内における
感情労働を引き受けることの意味を直観的に拒否しているのでしょう。

ナショナル・ジオグラフィックのビデオでサンブッシュマンの人々を見て、彼らの表
情に不安というものがないように思ったことを思い出す。いい弓矢で、いい射矢がで
きればうれしいと思い、動物の足跡が見つかれば真剣にそれぞれがどう思うかを出し
合い、協力して狩りを行い、赤ん坊にすりすりする。5万年前、人類の頭脳が大躍進
を遂げた「言葉」「道具」「読解能力(英語のliteracyの訳語ではなく、日本語の
「読み取り」という意味で)」の獲得をした人々は、誇りにみち、互いを支えあい、
満ち足りた様子が印象的だったです。

今日一日、わたしはブッシュマンのように歩くこうとしているのですが、空が広いで
す。

著者が事例として取り上げているのは「客室乗務員」と「集金人」(というか、ずば
り取り立てや)の比較。わたしたちのほとんどは、他者や自分自身の感情をある程度
操作する必要のある仕事に就いている、と。感情労働を問題にするとき、課題となる
のは、「搾取」であり、さまざまな種類の利益「金、権威、地位、名誉、幸福」がど
のように配分されるかなのだ。12-13

研究の手法として「感情作業の自覚性」についてのアンケートと、客室乗務員の訓練
された感情管理という「商品」製造メカニズムの研究、そして集金人インタビュー。

アンケートからわかったのは、感情について語るときの意志の現れ。14
・好きに<なろうとする>
・恋心を<ふっきろうとする>
・うれしいと<思うように努める>
・落ち込まない<ようにする>
・怒りを<抑える>
・悲しい気持ちに<なることを許す>
これらのフレーズが「管理された感情」について語っている。

感情には「ジグナル機能」がある。私たちは感情を媒介として、世界に対する自分自
身の見方を発見する。18
私的な社会生活では常に感情の管理が必要とされていると言ってもよい。19
・葬式
・パーティ
・サッカー観戦
一人ひとりが集団のためによかれと、つかの間の捧げものとして自分の感情を差し出
しているのだ。怒りの抑制、感謝の気持ちの表明、羨みの抑圧などは、...あちらこ
ちらで贈り物として提供されている。19
規則による交換
感情規則は、感情の相場において何が貸しで、何が借りなのかを決定するための感情
の交渉に利用される基準である。19

感情管理が労働として売られる時、感情規則がマニュアルによって作り上げられ、儀
式として定められる時、私たちに何が起こるか。20

伝統的に女制性の方が、経済的援助と交換する贈り物の一つとして感情管理をよりよ
く理解し、利用してきた21
<私的な>慣習的感情文化に従った「女性らしい」行動の技術が公的な場に出ていくと、
そこには別の損得計算が待っている。22

下層階級や労働者階級の人々は物を仕事の対象とし、中流階級や上流階級の人々は人
を仕事の対象とする傾向がある22

人間の感情の社会生活的、経済的利用には、性別によるパターンと階級によるパター
ンがある。22

感情に耳を傾けたり、教えてくれるものを犠牲にしている。=感情のシグナル機能を
失う。23

一つの場所、一つの職業、一つの家庭、一つの世界観、一通りの規則に従って始まり、
そして終わる。人生と現代の違い。
「私は何者なのか」という問い。
疑う余地のない外在的な指針がないなかで感情のシグナル機能はより重要になり、管
理された心を商業的にわい曲することは人間のコストとしてより重大性を帯びてくる。
23

怒りを感じた時、その感情を鈍らせることで、怒りの反応を防ぐ。27

表層演技というのは表情や仕種、行動を創ることであり、深層演技というのは内面的
な感情に突き動かされて出てくるものである。そして、いい演技者とは「感情記憶」
を豊富に持っていて、演技に必要な感情を伴う場面をたくさん記憶していることによっ
て深層演技ができる人のことだという。

また、感情は敬意の表明にも「やりとり」される。下位のものが上位のものに多くを
捧げる。また、そのために上位のものの支配の道具ともなる。シャドウワークでもあ
る。

家庭での教育として感情管理に重きを置くことと、行動管理に重きを置くこととで、
階級が分かれる。183

客室乗務員とは、「お客さまを上位に位置させて、大切に扱われたという快感」「歓
待」「自宅にいるくつろぎ」を提供する仕事なのだが、その基本的な感情規則は「外
向的な中流家庭」だという。122
客室乗務員の仕事に自分がつくことを想像すると、それは、家庭で学んだことやこれ
までの自分に対する裏切りになる場合もあるんだろうな。そうすると「これは仕事だ
から」と割り切る、ということが出てくるんだろうなあ。それと四六時中という面も
あるね。

問題はその「割きり」に対する対価がフェアかどうか、そのために自分が支払ってい
るコストが妥当なのかどうか、なのだが、その問題についてはあまり踏み込んでいな
い気がする。彼らがアンフェアだと感じているということがエピソードとして紹介さ
れているだけで。男っぽい態度で喫煙している客室乗務員に「なんでそんなふうにタ
バコを持つんだい?」「もし私にタマがついていたらこの飛行機を操縦しているよ」
211

支払っているコストは
・自尊心
・冷笑的にあざける習慣がついてしまう自分
・性的アイデンティティからの疎外
・没感情的になってしまう
・演技しているということは不正直だと自分を責める
・受動的になる
・偽りの自己=他者を喜ばせるための演技
・他者の願いを過剰に気にかける愛他主義という偽りの自己
感情の商品化、つまり規格化は、提供するべき感情と本人の感情の乖離を生む危険を
伴っているのである。

ま、というようなことが書かれているのだが、「お客さまが決していつも正しいわけ
ではありません。しかし、お客さまは決して間違ってはいないのです」160
というのは、アドラー心理学同様、行動の背景を考えることでよりよい手立てが打て
るということなのだから、分析する、考える、理解するというのはありなんじゃない
だろうか。
                
教育的指導者は、少なくとも自分が伝えたい「バリュー」について、それを心底信じ
ているふりをしなければならない。

という命題は本当かどうか、考えてみたい。





---------- ESDのビジョン --------------
・持続可能な開発/発展/社会
・社会的な公正/正義
・人権の尊重
・市民としての参加/責任/権利
・よりよい生きるということの質

---------- ESDのアクション ------------
・相互依存性 ・多様性 ・力の分有
・コミュニケーション ・対立は悪くない
・協力、協同、協働、共生
・価値観と認識 ・信念を持って行動する
・行動や現象の因果関係=原因と影響
・未来の世代のニーズと権利に対する配慮
・行動における不確実性と予防原則
-----------------------------------------
by eric-blog | 2006-03-18 08:33 | ■週5プロジェクト05
<< 学校を変える生徒たち 三者協議... さようなら >>