[5032]実践ダイバーシティマネジメント 何をめざし、何をすべきか
リクルートHCソリューショングループ、英治出版、2008
グローバル化、日本国内における労働人口の減少、消費者ニーズの多様化など、これまで通りの「男性、正規雇用、フルタイム、終身雇用」を前提にしたような組織からの体質転換が求められている、とこの本は問題提起する。
2008年、15年も前のことである。今、岸田政権は異次元の少子化対策を行うと言う。
ダイバーシティ対策のほとんどは「女性」の働きやすさ中心に考えられている。高齢者、外国人、などの対策は、まだない。
しかも、ほとんどの企業の取り組みは掛け声だけで、及び腰だと言う。
労働力の流動性とレベルアップのためには、社会的セーフティネットの充実と生涯教育の拡充が鍵だと私は思っている。それらの政策と連動して初めて、各企業のダイバーシティ、働き方の多様性対策が奏功するはずだ。しかし、この本を読む限り、あるいは調査対象が大企業中心であるためか、「企業丸抱え」でのマネジメントの姿しか見えてこない。
興味深い視点だと思ったのはマネジメントにおける「フェア」と「ケア」の両立を課題だとしていることだ。多様な働き方とは、個別の事情に合わせた働き方を認めると言うことだ。それを「ケア」の論理と呼んでいるのだ。
マネジメントに「フェア」は必須である。昇進昇格昇給における不満感、不平が起きないようなシステムと、個別事情を汲み取るシステムは両立するのか?
画一的な労働を前提としていてすら、不平不満をなくすことは難しい。多様な働き手を想定した場合は、何をして「公平」だと判断できるのか。
一方で、この本で触れられていないのが、女性労働者の貢献の測り方である。これまでの女性の労働による企業への貢献の再評価なしで、女性の働き方とその多様性を評価することは可能なのだろうか?
同時に、男性の「見えない」貢献もあるだろう。企業には「見えない貢献」による成果が、ヒドン、あるいはサンクコストとして計上されていないものが多々あるのではないだろうか。
コロナ禍でGoogleやフェイスブックなどIT企業が、大規模なリストラに踏み切った。
いま、ドーナツがブームだというテレビ番組を見ていたら、2人のチームで「新商品」を生み出していると言うことだった。商品化に至る10倍の「試作品」があると言う。彼らの働きをどう評価するのか、とても不思議だった。9割没のアイデアを出していることに焦点を当てるのか、1割の成功に焦点を当てるのか。
どこの企業にもそのような「没」努力があるはずだ。
女性には研修や経験を積む機会が少ないとされる。
平均勤務年数も女性の方が短い。
膨大な「没」努力の経験を、いかに積み続けられるかも、女性自身にとってもチャレンジなのではないかと思った。そして、それを励ます組織であることも、大事なことなのだろう。それは、「男性は家族のためにやめられない」ことによって勤続年数が長いと言う構造の再考が必要だと言うことでもある。
一方が変わらないまま、一方が変わることはありえない。では、マジョリティの側に「変わらなければならない」必然はあるのだろうか? どこまで「必要」性を理解して「変化」を受け入れられるのだろうか?