食の社会史 兵食からチェーンレストランへ
茂木信太郎、創成社、2019
3325冊目
GHQの駐留軍のための糧食を提供するために提示されたガイドラインが、日本の食料品提供業界を変えた!
戦後の混乱下で下肥は熟成が不十分で、寄生虫や大腸菌などの食品汚染に繋がっていた。下肥そのものは悪いものではないのだが、その経験のないGHQの判断で禁止された。
また、「国民食」の標準化に兵役体験が果たした役割は大きいという。貧しい東北地方から兵役についた彼らは、軍隊食の体験を故郷に持ち帰る。16
『軍隊調理法』という本に示されている献立はそのまま「日本的平均おふくろの味」だと、山本七平氏は指摘したという。15
わたしはNHKの「きょうの料理」が、洋食を取り入れた戦後の食卓の標準化を進めたと思っていたが、その前の伝統的な食卓のルーツは軍隊だったんだ!
富国強兵 殖産興業 という近代国家の二つの目標。3
外食産業の「集団食」の発展に光を当てたのがこの本である。
森鴎外は、軍医であったのだが、彼は軍隊の健康衛生担当として、食についても大きな貢献をした人なのだそうだ。森林太郎として「日本兵食論」によって、日本食擁護もしたという。28
明治の開国の副産物として、日本にもコレラやペストの流行があったんだなあ。
文明開化に伴うコレラ、赤痢、腸チフス、ジフテリア、疱瘡、発疹チフスなど。
ペスト菌を発見したのは北里柴三郎。その頃、日本ではネズミを何百万と駆除していた。9
明治22年に国民皆兵が完成した時、適齢者36万人のうち、兵営に送られた人数は5.2%! 58.6%は疾病その他健康上何らかの理由で生涯兵役免除となっている。8
徴兵制の足元は国民の健康であったということだ。
工場労働の大規模化も「集団食」の発展を求めた。
富岡製糸場の給食、寄宿舎食堂など、近代的な制度は集団食と切り離せない。53
戦後、GHQに食料を供給するにも、彼我の考え方や習慣の違いから新たなシステムが必要とされた。
そして、学校給食の時代へ。
冷蔵庫の普及から、「コールド・チェーン」の完成まで。
1970年代の外食産業。マクドナルド、ケンタッキー、ミスタードーナツ、デニーズなど。
集団食としての外食で魚が扱われるようになるには、冷凍技術、マイナス17.8度(華氏0度)の実現が不可欠であった。そういう意味では、日本が水産大国であったことが、冷凍技術の全国展開には有利だったのかも?
缶詰・瓶詰に、水産物が向きにくいことも、冷凍技術の受け入れと開発に拍車をかけた。
食と社会。切っても切れない関係にあるんだなあ。
昨今のグルメブームも、黒字大国という国際批判に対する食料輸入超大国というコンセンサスの結果なのだから。17