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奪われざるもの SONY「リストラ部屋」で見た夢

奪われざるもの SONY「リストラ部屋」で見た夢

清武英利、講談社+α、2016

3311冊目



『切り捨てSONY』を2015年に出して翌年文庫化。それだけ売れたと言う証左なのだろうが、図書館では『切り捨てSONY』は予約待ち、文庫は在架。逆に『プライベート・バンカー』は文庫が予約待ち、同名の単行本は在架。


文庫や再販本が好きなのは、解説や文庫用あとがきなど、追加的情報があるから。特に、この+αはプラスアルファが大きい。


SONYが第8次までのリストラを繰り返しながら、浮上できない企業の内面に迫ったルポ。1996年から始まったリストラで、グループ全体で従業員数は163000人から2014年には131700人に。削減総数は約9万人。


その間にも毎年新入社員は採用し、業績や新製品の開発、販売はそれほど悪化していない。数字自体はそんなに困っているように見えない。


社長は大賀、出井、ストリンガー、平井。


にも関わらず、「技術のソニー」がエンジニアを「リストラ部屋」に送り込み続けてきたなぜなのだろうか。何がそこまでの危機感の背景にあったのだろうか?


この本はリストラされた人、早期退職制度でさった人に焦点を当てているが、ソニーのような「技術」立国の会社が投げ込まれた大きな産業構造の変化には言及していない。何が経営陣を焦らせたのだろうか、その背景は見えない。


産業で言えば、重厚長大な鉄鋼、化学産業から、白色家電の時代へ、そこからウォークマンのような小型個人消費向け製品の生産へと先鞭をつけたのがソニーではなかったか。


つまり、社会的インフラ時代から、家庭電化製品、個人消費化へと言う流れだ。

ソニーは電化製品と情報をつなげた企業だったのだ。だからこそ、映画界のような「情報」の側にも踏み込もうとしたのだろう。


それが、小回りの効く製品化開発と生産拠点の外郭化と言う動きの中で、「大量生産大量消費」型企業が低迷した。


しかし、この本を読む限りでは、小回りが利く開発が求められるとは言え、その開発コストは決して安価ではないことはわかる。200人体制の研究所。


ソニーを飛び出して様々な企業連携の合弁会社で成功している人。今や、一分野だけで開発が進むものではない。


技術のソニーの誇る「技術」そのものが問われている。


それこそが「奪われざるもの」なのだが、それこそが、SONYの迷走の元になっているとも言えるのではないか。


1996年。すでにSONYは大きくなりすぎていたと言える。


あのアップルですら、現在13万人なのだ。



by eric-blog | 2019-05-14 14:26 | □週5プロジェクト2019
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