今年の三冊 東京新聞 2018年12月23日 日曜日 20人が選ぶ三冊=60冊 その中でわたしが読んだものは 進歩 軌道 来年からは書評など、どこで出会ったのかの記録つけないとなあ。 ダブっているもの ホモ・デウス ということで59冊! 週5プロジェクト2018は4月2日から始まり、これまで198冊をご紹介。 「今年の三冊」に倣って、三つのジャンルにくくって、本を紹介したい。 ■龍の耳を君に https://ericweblog.exblog.jp/238479849/ 『デフ・ヴォイス』の作者が、当事者の体験談や取材も交えて小説にしたもの。木村晴美さんの『ろう者の世界』など、手話関連の本もたくさん読んだ年だった。去年から手話を始めたのに、真面目に取り組んでいなかったのかなあ。バドミントンもそうだけど、スロースターターだな、わたし。 手話の学習を通して、聴覚障害者の問題だけでなく、言語の問題にもより視野が広がったのが嬉しい。 もう一つ、気づいたことは、来年には映画も公開される『こんな夜中にバナナかよ』のように障害を持っている人々の自己表現や自己実現、発達障害や難病患者らの当事者研究という名の自己語りも本当にたくさんあるということ。枚挙にいとまがないほどだ。 これらの出版物は、他者の世界を垣間見せてくれると同時に、当事者とその他の人々の関係性をも広げていく。 当事者と援助者の関係を考察した「援助論」は面白かった。 そして、以下の本を読むと、「援助者と非援助者」の対等性こそが、求められるのだということがよくわかる。「心配事」のない人はいないし、援助者であっても完璧な人間でもなんでもないのだ、という当たり前のこと。 ●あなたの心配事を話しましょう 響きあう対話の世界へ https://ericweblog.exblog.jp/238827566/ ●対話のことば オープンダイアローグに学ぶ 問題解消のための対話の心得 https://ericweblog.exblog.jp/238825929/ そして、対話が成立しない二つの世界に分断する力が働いている現実がここにもある。 ●新復興論 https://ericweblog.exblog.jp/238882321/ 今年の出版ではないけれど、これも同様の問題を描き出している。 ●復興ストレス 失われゆく被災の言葉 https://ericweblog.exblog.jp/238693313/ この著者の伊藤浩志さんとは、ぜひお話をしたいものだと思っている。 ■日本の分断 切り離される非大卒若者たち https://ericweblog.exblog.jp/238609251/ 実は、今年読んで衝撃だったのはこっちの方。 ●下流中年 一億総貧困化 2016年 https://ericweblog.exblog.jp/238496012/ ひきこもりや万年非正規は実はバブル後の社会が作り出したものだという指摘。もしも、自分がこの世代だったらどうだっただろうかと、衝撃を受けた。そうだ、雇用だとか、職だとかは社会が作り出しているのだ。1989年に始めたERICが、最初は環境教育で、そしてその後人権教育で実績を積んでこられたのも、90年代の地球環境ブーム、2000年代の国連人権教育の10年などの社会の動きがあったからだ。 加えて、「格差社会」は「非大卒の親の子どもは非大卒になる。それが経済格差につながり、経済格差が学歴格差につながる。」の連鎖につながる。今、非正規で働いている人たちはそのまま経済格差の連鎖になるかもしれないのだ。しかも大卒だけでは就職には結びつかないのも現実だ。格差社会は健康格差にもつながる。健康格差の大きい社会は不健康な社会だという指摘もあった。 これらは全て政策の結果なのだ。OECD諸国中もっとも低い教育への公的投資、大企業優遇の経済政策、富裕層に甘い税制、貧困な住宅政策、それらの複合的な結果、戦後70年以上を経ても「うさぎ小屋」から脱することができず、男性や正規労働者の長時間労働は解消せず、さらには女性や非正規労働者も劣悪な経済状況におかれている。 経済大国を誇っていた頃、もっとできたことがあったのではないか。そんな思いがしてならない。 公的な教育投資、収入の1/3を住宅費に当てる必要のない住宅政策、そしてワークシェアリングなどを含めた労働時間の短縮があれば、日本はもっと社会活動が豊かな社会になれたのではないだろうか。 人口減少社会は社会構造の変化を求める。量より質、モノよりサービスの社会への転換だ。その鍵は、社会におけるコミュニケーションの活性化にあると、思う。熟議型民主主義の実践をもっと進めたいものだ。SDGsという国際的な課題解決への道も、そこから始めるべきなのだ。 ■トマト缶の黒い真実 https://ericweblog.exblog.jp/238514529/ 文明論も面白かった。今年の三冊で古市憲寿さんが取り上げている『進歩』は、今の社会、そんなにひどくないよと、人類の姿を描いているし、ジャレット・ダイヤモンドの文明論も大きな視点からの面白さがある。 一方で、この本のように、新たな問題も生まれている。これまでもナオミ・クラインが描き出したTシャツの物語や、フェアトレードが問題提起してきたチョコレートやコーヒー、バナナなどの列に、トマトも並んだということだ。いや、そこに並んでいない商品はもうないだろうということを、わたしたちはこの本を読んで改めて自覚すべきなのだ。 文明と文化。文化は文明の前で、弱者になりつつある。伝統文化は趣味であり、ファッションであり、消費であり、コズメティックな粧いとして「選ばれる」ものでしかない。そこに生活に根ざした必然はないのだ。 生活の全てが現代の物質文明と貨幣経済によってプロデュースされている今、わたしたちはどう生きるのか。 今年のベストセラーであった『君達はどう生きるべきか』は漫画にもなり、映画にもなるようだが、この人気は一人一人が自らを問い、そして選択していく時代であることを反映しているように思う。 その流れはいまに始まったのではない。 1972年、国連のストックホルム環境会議に、国際社会としてのその萌芽がある。すでに半世紀もの「問いかけ」の歴史が、国際社会にはあるのだ。 その問いかけに応え、ともに「みんなの頭で考える」ために、ERICは生まれた。 生まれて30年、来年、ERICは千石に移転する。人類共通の課題に警鐘を鳴らし続ける「カナリアハウス」として、問いかけ続け、みんなの頭でともに考え続けたいと思っている。 長いご案内になったが、ぜひ、これらの本からの問いかけにともに考え続けましょう。より良い未来への、より良い道、プロセスを歩むために。
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| 2018-12-28 17:10
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