戦争とは何だろうか
西谷修、ちくまプリマー新書、2016 2566冊目 戦争と言うと、国家間戦争を思い浮かべるが、歴史的に見れば、近代国家成立以前は、戦争は国民の総力戦ではありえなかった。 近代国家が国土や国民を守るために、国民が兵士となって互いに戦う。 それが国際社会が戦争のない世界を目指して努力してきた、規制してきた戦争だ。 しかし、9.11以降のいまの戦争は、警察による取り締まりの対象であった「武装集団」に対する軍事行動なのです。141 国家と異なり、この武装集団には領土がありません。軍事行動の対象は集団そのもの。しかし、その集団はどこかの国にいる。集団に対する攻撃は、国家に対する攻撃ではないのか? いまの国際法の埒外、例外状態なのです。142 「自分たちが犠牲者だと思える時、その国民は戦争することを「正義」だと思い込むことができます。」140 さらに日本社会の危うさについて、著者はつぎのようなことを指摘する。 英語ではテロリスト・アタック、あるいは無差別攻撃などと呼ばれている行為や行為者を「テロ」と略称で呼んでしまっていることだ。「エロ」「グロ」などと同様に蔑称的なニュアンスが伴う。・・短縮がそのまま侮蔑と誇張の効果を生みます・・・そうすると、さまざまな行為が単純に類型化され、「テロ」と呼べばそれについて何も考える必要がなくなり、ただ侮蔑して否定すればよいという、いわば反省排除の作用がこの語にはあります。 138 国家間戦争と異なり、非国家的アクターと国家の武力には大きな違いがあります。 非対称的戦争。 その戦争では「殺しても構わない人間」というカテゴリーが生み出された。 156-157 「テロとの戦争」は「テロリスト」の収容尋問所をあちこちに作り出しました。そこでは世界の目にふれないところで「特殊尋問」と言われるさまざまな虐待や拷問が行われています。・・・ナチの強制収容所・・・一方は「テロリスト」とされた人間が、他方は「劣等有害人種」が送り込まれた「最終処分場」です。「テロとの戦争」は、そんな人類の経験をいっさい帳消しにして、強力な国家にあらゆることを許容する定式となったのです。 この「戦争」では「敵」と「味方」の区別がそもそもつきにくいのです。国家間戦争ではないので、国境で「敵/味方」が区別されるということもありません。・・・だから国内も潜在的な「戦場」なのです。 潜在的戦争態勢に協力するPatriot Act。 平和な文明秩序の「安全保障」とは実は恒常的戦争秩序だということ。159 非常事態の恒常化。戦争と平和の区別の溶解。 「テロリストとは交渉しない」=戦争を終えるための講和ができない。だから終える方法がない。終わりなき「戦争」 終わりがなく、誰も勝てず、また誰も負けたことにならない。 中東の産油地帯にかかわるこの戦争はエネルギー産業とも結びついています。 バイオ産業とも。 そういう利益共同体がいま国家を、とりわけ経済的アクターが自由に活躍するアメリカ国家を思うように動かしているわけです。162 罰せられることなく殺すことのできる人間。「殺してもよい人間」163 文明の流れとして、国家でさえ人を殺す権利はないと考えられ、死刑廃止が広がっています。・・ところが「テロとの戦争」はこれを反転して、殺してもよい、あるいは「人類の敵」として殺さなければならない、この世から抹消すべき人間ないしは「非人間」という新しい人間のカテゴリーを作ったことになります。 問答無用で排除できる「非人間」165 「文明」が進んで「人権」という考え方ができて、生まれて来た人間は皆生きていく権利があるということや、その人権を元に社会は更正されなくてはいけないという考えが徐徐に形作られました。・・・核兵器とか絶滅収容所とかが出現し、「人類」が危機に瀕したとみなされたからこそ、・・・「普遍的人権」の考え方が確立されたはずでした。166 グローバル資本は、アメリカ国家を世界統治のための乗り物としています。だからアメリカは「テロとの戦争」を打ち出した。171 イスラエルはパレスチナ人に対してずっと「テロとの戦争」をやってきた。地獄の底を踏み抜くように悪化してきた。175 自殺攻撃という「コナトゥス」なき存在が西洋をパニックに陥れた。 それは「カミカゼ」もそうだった。 理性の反対物。 いまやイスラーム国は戦時日本と同じ。アッラーへの忠誠を誓わせ、それを嫌だと言ったら、その場で首を切る。ハイというと、ではイスラーム国のための戦士になれと言い、ろくに訓練もできておらず戦闘のためには役に立たない住民に、爆弾を抱えてトラックごと「敵」の標的に突っ込めと命じるわけです。・・・天皇のために死ね、死んだら英霊・・・というのとどこが違うのでしょうか。181 国家の戦争遂行意志と国民の意志とは離反し、・・・アメリカは兵員の調達を労働市場にゆだねた。189 軍事の民営化。 戦争の経済化。 ユニラテラルな、攻撃一方の戦争。 攻撃されないセキュリティの高い国に、人々は流れ込む。 それがいま起こっていること。 通念の枠組みを疑って考えていくこと。 『戦争論』という基本を押さえながら、いまの戦争についての洞察を示してくれる良書である。しかし、読めば寝覚めが悪くなること必至の本でもある。 読む? ■「いつの間にか戦争?」――池内了氏、望月衣塑子氏、西谷修氏の3氏が新刊をもとに科学、武器輸出、戦争の正体について多角的に語る 2016.8.17 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/326054 西谷さんは、この中で、「戦後の日本は戦争を食い物にしなくても経済が繁栄することを示した。企業はそういう経済のあり方を続けたいと思っている。」と語っている。
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| 2016-08-22 18:15
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