自発的隷従論
エテイエンヌ・ド・ラ・ボエシ、ちくま学芸文庫、2013
2550冊目
解説で西谷修さんは言う。
「ひょっとしたらそれは、人間が言葉によって生存を組織する存在であるというところに根ざしているのかもしれない。言葉は規範的正確をもつ。つまりわれわれは言葉を操るようになる前に、うむを言わせぬ言葉の約束ごとに従わなければならない。・・・・・・まず共通の規範を受け入れる。・・・それを通して自由を現実化することができるようになる。」
「言語が人間という共同存在の条件なのである。」
「言語の規範性に従うことで主体となるというこの人間の成り立ちのうちに、規範的な力と主体の自由との入り組んだ関係の発端をみることはできるだろう」
245-246
さて、圧政者には三つの種類がある。
選挙で
武力で
家系の相続で。
「彼らが征服地にいる」ことがはっきりとわかるようにふるまう。031
民衆によって国家を与えられた圧政者は・・・その者がほかの人より高い地位にいるのだと考え、「偉大さ」というよくわからないものによって得意になり、金輪際その座が下りるまいと決意しない限りにおいて、(他の二者よりまだまし。)031
自由が失われると、勇敢さも同時に失われる。049
隷従のいちばんの根拠は習慣である。051
圧政者の詐術1 遊戯の提供。「人は自分を愛してくれる者に対しては用心深くなり、自分をだます者には素直に従う。」053
圧政者の詐術2 饗応 口の快楽 「民衆はいつも、素直に受け取るべきでない快楽に対しては開けっぴろげで放埒でありながら、律儀に耐えるべきではない横暴や苦悩に対しては鈍感であった」055
圧政者の詐術3 称号
圧政者の詐術4 自己演出 「それほど愚かでなく、たいして隷従していない人々にとっては、王たちが与えたのは、たんなる暇つぶしと笑いの種だった」058
圧政者の詐術5 宗教心の利用
小圧政者のあわれな生きざま1
農民や職人は、隷従はしても、言いつけられたことを行えばそれですむ。だが、圧政者のまわりにいるのは、こびへつらい、気を引こうとする連中である。
言いつけを守るばかりでなく、望む通りにものを考えなければならない。070
はたしてこれが幸せに生きることだろうか?これを生きていると呼べるだろうか。071
圧政者の持続しない愛邪悪な主君の庇護等ほとんど当てにならない。073
友愛なき圧政者 圧政者は愛されることも愛することもない。076
小圧政者の哀れな生きざま2
気に入られることを考えながら、恐れている。079
したがって、いま一度、正しく行動することを学ぼう。天に目を向けよう。われらの幸福のために、徳への愛そのもののために、・・・圧政ほど、完全に寛大で善なる神に反するものはないのだから。081
1530-63年の短い生涯を生きた人。
今回の大量殺人事件の犯人に「自発的隷従」の匂いを嗅ぐ。
彼は「気に入られたかった」のだ。彼が気に入られたかった相手が誰であるかは明らかだ。時の政権である。
彼は自ら深く考えることをせず、何を期待されているかを一生懸命探り、実行したのだ。
彼は、整形手術による過去の抹消と安逸に暮らせるだけの金と、自由を望んだのだ。「ご決断いたたければいつでも実行します」と。
しかし、彼は知るだろう。圧政者の愛は持続しないことを。