格差はつくられた 保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略
ポール・クルーグマン、早川書房、2008/2007
2539冊目
え? この人って、安倍首相が消費税について検討するために招いた人じゃないの? ノーベル経済学賞受賞の? 同姓同名の別人? と思うような内容。
ポールさんは1953年生まれぐらいらしく、わたしの姉と同じ。そして、この本の書き出しは、わたしたちが生きた時代は、歴史上かつてないぐらい「中流」が多くなり、経済的分配が進んでいた時代だったのだと。
その感覚のままで時代を見ていると、気づかずにいてしまうことがあると。
そして、いま、保守派が、経済支配を取り戻していると。その仕組みについて、述べられているのがこの本だ。
矢部宏治さんの本と並んで、この本が大切だと思うのは、保守派ムーブメントの政治的な動きが経済格差の背景にあることを、経済学者である著者があきらかにしていることである。
政治を動かして、経済的利益が集中するようにしているのが、現在の「保守派ムーブメント」なのだ。
読んでいると、日本社会とのシンクロニシティに驚く。
組合潰し。組合活動に共感的な労働者を解雇する。それだけでいいのだ。
いまや、組合加入率は10%程度だという。1970年代以来、半減以下だ。
石原慎太郎さんが演説をしたヘリティジ財団は1971年設立の右派シンクタンク。同様に強力な右派シンクタンクは15ほどもあるというのに、左派、中道派のそれはない。シンクタンクが大きな財団を背景に運営されているからだ。
そういう意味では、「知性派」も右派に取り込まれやすい構造だとも言える。
そして、「戦争」を人気取りの材料にしてきたブッシュ政権。いつの世にも好戦的な政権は大衆的人気を博してきたそうだ。
イラク戦争はしかけられた。そして、粗雑な「コネ」で仕事をもらって業者が戦後復興をめちゃくちゃにした。
戦争で経済にカンフル剤を打ちたいと考えているような政治家や、その政治家を支持する人々はよく考えた方がいい。
戦争や武力衝突は、問題解決にはならず、常に問題の一部なのだということを。
原題は「The Consience of a Liberal」一人のリベラルの良心である。
保守派によって使い古された「リベラル」に対して、「進歩派」という用語が使われるようになったという。
その違いは、思想としてのリベラルに行動が伴うのが「進歩派」だということ。
訳者あとがきに、2007年の大統領選挙のことが触れられている。選挙で「進歩派」が求められたのがその結果だったのではないかと。
人種という記号がこれまでもってきた政治的な意味が薄れつつあるいま、「移民」や「異教徒」はどんな役割を果たし始めているのだろうか?
トランプ旋風も失速し始めているようだが、どんな選択をアメリカはしていくのだろうか?
同様に「保守派」による政治支配が続く日本だが、その底流に、クルーグマンさんが米国について指摘したのと同じ、リベラルで進歩的な動きが生まれ始めていると信じたい。