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自閉症の子どもたち 間主観性の発達心理学からのアプローチ

94-2(438) 自閉症の子どもたち 間主観性の発達心理学からのアプローチ
C.トレヴァーセン、K.エイケン、D.パプーディ、J.ロバーツ ミネルヴァ書房、2005
Children with Autism, Diagnosis and Interventions to Meet their Needs, 1998

臨床心理学的なアプローチから始まった自閉症についての研究も、いまや本屋さんに行けば「認知心理学的アプローチ」から脳生理学的なアプローチと、さまざまな分野の専門家が取り組んでいる課題であることが知れる。それらの中から、この本をわたしが選んだのは「間主観性」という、わたしがワークショップを説明するときに使うことばが題名につけられていたからである。ワークショップというのは客観的な事実や概念を生み出すものではなく、間主観的な共通理解を創り出す作業であるというのが、わたしが考える「参加型」の意義だが、発達心理学の分野で、親と乳児の関係記述についてこのことばを使って世界的に著名な方が、この著者であるとのこと。

426ページもの大著であるこの本は、1994年に出された同名書籍の第2版である。自閉症というのはその間主観性の確立に向かう動機付けに問題があると考えるのが、著者らの立場である。人との関係づくり、コミュニケーションに対する情動や動機という部分に、弱さがあるのが自閉症だと。

序に述べられているこれまでの自閉症児についての研究についての比喩は、おもしろくも切ない。「街灯の下で、鍵を探している人に、どこで落としたと思うかとたずねたら、どこで落としたかはわからないけれど、ここが明るくて見やすいので、ここを探していると答えた」

第二版では、より幅広い自閉症児研究に焦点をあてて、研究の全体像の把握を行っていると訳者あとがきは言う。
で、結論。「自閉症は動機の調節に影響を与える脳成長障害である」110
いまだに、脳機能のどこが、どのようにと特定できる障害ではなく、それらの脳機能障害と、その結果起こる他者との相互作用からうながされる成長における障害などの複合的なものだというわけだ。
そして、自閉症の子どもたちにとって、もっともニーズにあった効果的な方法は、「即時に直感的感受性によって、この世界や人々への興味を導くような子どもの動機に応答すること」だという。332

問題は、450ページもの研究書に眼を通すことが直観力のさまたげにならないようにすることなのだがね。

正高信男が紹介していた「パトリシア・クールの研究でMothereseというのがあり、母親語と著者が名づけて研究したその特徴は、「子どもが応答するまで発話する」ということである。」にもあるように、コミュニケーションの最初は、「コミュニケーションとは応答のしあいのことだ」とわかるまで働きかけるということだ。竹内敏晴なんかが言っていることもそうだ。届くまで。

原言語とか、原会話とか、乳児の発達についてのさまざまな知見が手際よく紹介されているという点でも貴重な本である。こういう研究書を読むと、チーム力の高さがうらやましい。
by eric-blog | 2005-07-27 07:07 | ■週5プロジェクト05
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