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中等社会科の理論と実践

中等社会科の理論と実践
二谷貞夫・和井田清司、学文社、2007
2407冊目

中学校の初期社会科実践のバイブル『山びこ学校—山形県山本中学校生徒の生活記録』(無着成恭編、1948年)

1989年、小学校低学年では、生活科が誕生、高等学校では社会科が地歴と皇民に再編成された。1998年平成10年の教育課程で「総合的な学習の時間」が創設。

初期社会科とは「学問の系統によらず、青少年の現実生活の問題を中心として、青少年の社会的経験を広め、また深めようとするものであった。8

経験領域を組織した問題単元で構成。

1951年の反動と社会科批判。しかし、アメリカ合衆国における社会科教育の潮流による社会科観。
1. 市民として必要な知識や価値
2. 社会諸科学の成果や方法の学習を通して市民を育成する教科
3. 身近な問題や葛藤の解決など反省的探究を通して市民を育成する

市民性、社会科学、反省的探究。

公民的資質を培うこと。

いかに培うか?

学習内容から考える実践的課題のリスト
1. 差別や偏見を克服する人権教育
2. 戦争学習、非戦、反核・軍縮の平和教育
3. 身近な地域の現実を歴史とともに問い続ける
4. 民衆・民族が社会・歴史の創造主体であることを自覚する
5. 多文化・多民族の共存・連帯をめざす民族観の育成
6. 自国・一国史的な国家史偏重の一元的な歴史認識を克服する
7. ヨーロッパ中心史観の世界史認識を克服
8. 社会正義を貫く主権者を育てる現代民主主義に対する自覚
9. 人類意識(世界市民意識)の形成をるめざした国際理解教育・開発教育・環境教育の観点

良識ある国民をめざす公民的資質

公民的分野は、1969年(昭和44)の学習指導要領で登場、「政治・経済・社会的分野」を廃止して登場。公民的分野として
◎国民主権の原則にふさわしい国民になろうとする自覚
◎自分たちが、地域社会および国家の担い手であるとの自覚とその発展に尽くそうとする態度
◎政治・経済・社会・国際関係などに関する豊かな教養
◎自由・権利と社会的責任・義務についての正しい認識
◎権利・義務の主体者として自主的に行動するための諸能力

戦後すぐ、文部省は日本国憲法に関する教科書をつくった。中学一年生用『あたらしい憲法のはなし』1947年8月、高校一年生用『民主主義』1948年10月、

1998年平成10年の学習指導要領「皇民としての基礎的教養を養う」
新教育基本法2006年12月、第14条(旧第8条)「良識ある公民たるに必要な政治的教養は教育上これを尊重しなければならない。」15

教養という言葉は、単にばらばらな知識を詰め込むものではなく、それが能力となり、態度となっていくことがめざされることになる。

現代の課題に立ち向かう社会科実践

ニューカマーの急増による「内なる国際化」は、人権意識の高揚とともに、世界史民としての公民的資質の向上を要請している。
経済のグローバル化の結果、環境とエネルギー、グローバル経済の正負、グローバル軍事システム、人間の安全保障、紛争と人道的介入、南北の経済格差、などのグローバル・イシューに取り組む必要性。

世界的にすすむ教育改革は、各国ともに国益中心「学力」重視の「内向気」教育改革の傾向も強いが、「外向き」の教育=南北格差を真に是正する開発教育、環境教育、国際理解教育を重視した教育改革が求められている。

過激な行動を求めるものではない。ごくありふれた一地域の共同体をベースにした小市民が幸福を求め、環境やエネルギー問題を考えて暮らすということである。そうした賢い世界史民が地球規模で連携し、強力な世界秩序を生むという希望ある社会科教育。

1947年に誕生した社会科。『社会科教育の本質と学力』1978年によると「中学校時代の社会科を思い浮かべると、何か学校生活のすべての楽しさがそこにあったように思う。」

その後、暗記科目のイメージが強くなる。17

「青少年の社会的経験を、今までよりも、もっと豊かなにもっと深いものに発展させていこうとする」

社会科教師の存在理由

田中裕一「日本の公害 水俣病」1968年11.20、熊本市立竜南中学校、3時間構成
主題設定の鋭さ
凝縮的単純化
感動の思想化 授業を感動の共有で終わらせない。理性的な思考・討論によって思想化する。23

日本生活教育連盟

地球規模の環境問題、世界史の地獄化、格差社会、いじめ、など、社会科教育の領域をめぐる問題はより広範に。

第三章 地理授業の創造的実践 相澤善雄
社会認識教育としての地理。地域概念を育てる。概念のネットワークが社会認識そのものであり、市民性の資質である。
食糧やエネルギー、
アフリカやアジア、
ソ連崩壊後のアメリカ合衆国の一極支配とグローバル化

地歴では地理的技能の育成という方法知と地域概念を育成する内容知の形成という二つの課題。26

事例地域の洗濯。地域のスケールの違い。転移力を働かせることで、類似性、一般性を発見できるようにする。

市民性の育成を目指した地理授業 

(1)泉実践「問題解決・政策提言・社会参加のプロセスを重視」する授業, 27
「北方領土は誰のもの?」
6つの学びのプロセス
1. 地域の構造的理解
2。問題発見
3. 背景・要因の追究
4. 解決策の模索
5. 地域の将来像への提言
6. 社会参加

(2) グループ調査・発表を活用した諸地域学習(荒井実践、中学1年生)
学び方を学ぶ。自然・人口・産業・貿易を順に学ぶ。
地域的特殊性と一般的共通性。
調べることは主体的だが、聞く生徒を主体的にさせるのは容易ではない。
世界への関心、考察する視点や方法、地理的スキルという形式陶冶、身近な地域を見直す公民的・市民的資質。

(3) ここの地域の学習からはじまる中学校の日本地誌 (春名実践、中学1年)
日本地誌を中心域、中間地帯、周辺域という3地域区分でピックアップする。
就業構造の比較。人間が出てくる地理
馬路村では30代40代が増えている。ゆずの化粧品。

(4) 野外調査を重視した「身近な地域」の学習 日原実践、墨田工業高校
五感で感じたモノを教材化
フィールドに出る地理学習
野外調査では、読図、観察、報告書作成などの地理的技能を鍛える。
防災教育につなげることで、市民育成につなげる。防災は「助け合える地域社会」

東京下町の0メートル地帯。適切なスケールの地図の活用。

大野一夫「一時間目の授業」
これまでの学習体験
いま関心のある出来事
世界地図を描く
日本の一つの地方の都道府県名と県庁所在地

座席は固定、グループでの問題解決、話し合い、プレゼンテーションを取り入れる。
遅刻・欠席は文書で報告。
評価の観点
・講義ごとのレポート
・課題レポート
・学習指導案
・模擬授業
・プレゼンテーション

転移力を働かせる
範例方式、転移可能な学習内容

第四章 歴史授業 大野一夫

歴史は丸暗記というイメージ。
討論授業は1.4%<
話し合いを取り入れたのは16/9%、調べ発表は25.4%。92.9%は板書。

なぜ歴史を学ぶのか。
自国中心の歴史になっている
未来につながる歴史認識になっていない。

第5章 公民授業の創造的実践

「小さい時から子どもたちがその行動や表現を、大人からも仲間からも積極的に評価され、励まされることが積み重ねられていくこと。そうすれば、自己肯定感も、自信も、積極的な意見表明も育っていく。これが決定的に足りない。」43

阻害要因
1.地域共同体の解体と核家族化
2.「原っぱ」自由な遊びの場の消滅、児童期のギャング集団の消滅
3.敵対的競争を激しくしている教育政策
4.経済的文化的格差による子どもの成長格差

公民教育は、これらの諸条件を変革することをめざす。
子どもの権利条約12条「意見表明権」
高知県や埼玉県などで学校評議会などへの生徒参加が広がっている。

1.学習課題の設定について、生徒の興味関心や実生活との関連
2.モノや映像を使う。具体的イメージを持たせる
3.生徒の問題意識を発掘、考えさせる 
4.メディアからの情報を活用、批判的に活用できるようにする
5.民主的社会や国家をつくる意欲を育てる

「経済のグローバル化」 河原実践
海外向けの電気炊飯器はどうなっているの?

第10章 モノ教材と「ものづくり」による日本史の授業 鳥塚義和
柳田国男『木綿以前の事』から永原慶二『苧麻・絹・木綿の社会史』へ

原材料、生産物としての麻、木綿、綿繰り機、綿弓、糸車、かせ車、糸枠、整経台、高機
、金肥、干しイワシ、油かす、藍紅花染め

野良着の比較。
教具博物館
http://zyugyo-to-kodomo.net/museum1.html

生産用具の「キール」

ものづくりを活用した教育書は1980年代以降。講義式知識伝達型授業の限界。
15年戦争教材発掘あれこれ (近現代史生き生き)

第11章 歴史の見方・考え方を育てる世界史の授業 米山宏史
「ハイチ革命」2時間の授業で
レゲェ『音の世界史』を聞かせる

図説し領収「コーヒーの文化」を利用。
浜忠雄『カリブからの問い』
川北稔『砂糖の世界史』
「サン・ドマングの騒擾に関する報告」を読む

第12章 討論学習で戦争を理解する チビチリガマとシムクガマ 小堀俊夫
中学生
2003年3月19日 イラク攻撃
二学級合同討論会。
平和学習は集団的で行動的でありたい。102

林博史『沖縄戦と民衆』シムクガマでは1000人が助かった。
ビデオ『ドキュメント沖縄戦』「なぜチビチリガマで悲劇が起きたのか?」意見を集約、プリントに。自分の意見に近いものでグループになる。
意見交換。
シムクガマのように生き残るには?
1.お国より人の命
2.非国民と言われても恐れない
3.今までの教育を疑う。アメリカの「人」を信じる。

第13章 生徒どうしの討論を導入した日本史 加藤公明、高校
歴史の認識とはそもそも個性的、主体的に獲得されるもの
歴史認識の主体を無視された生徒にとって、魅力ある学習になるはずがない。
2003年6月12日 NHK教育テレビ「わくわく授業-わたしの教え方」

「貝塚の犬の謎を追え」加曽利貝塚博物館

7つの説をピックアップ「猟犬説」「番犬説」「ペット説」「犬神説」「食用犬説」「ムラのシンボル説」「軍用犬説」
同じ意見の人のところへグループ。
適正人数は5-7人まで。

それぞれの仮説の実証性、論理性、個性・主体性
歴史を考える力とはこの3つの要素をできるだけ満足させつつ、自由に想像する能力。

私の授業「五つの学び」の授業デザイン 和井田清司
レクチャー、ディベート、フィールドワーク、教材の自由研究、模擬授業体験、カンファレンス、
40名の授業を模擬的に300人のクラスで行う。


第14章 経済のグローバル化の明と暗 河原和之
小学校3年生の「お店調べ」店の工夫とタイムサービス

経済的分野の授業テーマ
1.104に電話するとどこに通じる
2.クーリングオフができないモノ
3.りかちゃん人形のかばんが大きくなったわけ
4.100円ショップが安いわけ
5.マクドナルドのパンはどこのパン
6.富士山頂のジュースが高いわけ
7.甲子園球場のビールの銘柄は
8.銀行が合併するわけ
9.関西国際空港は何市にあるの?
10.コンビニ、最近変わったことは
11.日産自動車のナット100%を生産する会社
12.海外向けの電気炊飯器はどうなっているの?
13.缶ミルクの丸まる太った赤ちゃんの絵柄が消えたわけ

1990年代にグローバル化がすすんだ理由は?
JTB時刻表「日本からの直行便がある国と地域」
KDDI資料「国際電話料金」
NUA資料「世界のインターネット普及率」
1989年の世界地図


第15章 公民実物教材の集め方・使い方

・自衛隊が使っている缶詰
・即席麺のカップうどん 容器に記載されているEとWの違い。東西文化、バカとアホ
・トイレットペーパー
・一本の色鉛筆
『続 手に取る公民・現代社会教材』

株式会社の学習に「株券」。これから電子化されるが。教材会社からレプリカが入手できる。
発行株式数と一株の値段が書いてある。代々の株主の名前。
時々の新聞の株式欄を見せて、一喜一憂を追体験させることができる。
配当金の小切手。株主総会への出席。

教師自身が教材。

「法と裁判」
裁判の原告になる。支払い命令申立書を授業で使っている。「差押予告」。納税催告。

経済の授業でインフレ貨幣。
歴史の授業で古いお金。明銭、宋銭。コインやでせいぜい200円程度。
山一証券が廃業宣言をしたとき、買いに走った。132
缶ビールの空き缶200種類、会社は4つ。

第16章 ディベートで学ぶ現代社会の問題 杉浦正和、高校、現代社会
年4回、ディベートを体験させる。
1試合時間20分で行う。
肯定否定側からそれぞれ2分、尋問1分ずつ。
反駁1分ずつ。反駁への反論1分ずつ。
相互討論、1分ずつで2回ずつ。要約準備タイム1分。要約1分半ずつ。

競技型ディベートではなく、「探究型ディベート」。生徒が主体的に動かないと成立しない。

第17章 新聞で学ぶ現代の社会 イラク戦争を例に  井ノ口貴史
2004年4月8日 世界史Aで、人質事件をとりあげた。新聞記事を読む。
同時代史学習「9.11からイラク戦争へ」

『学びを開くNIE』

第18章 学校で模擬選挙をやろう 松田隆夫
公民化授業の一環として、1989年以来。
NPO模擬選挙推進ネットワーク
http://www.mogisenkyo.com
「民主主義を支えるためには、投票所に足を運ぶ有権者を育てなければならない」
東京都選挙管理委員会は、教育活動のなかで行われる模擬選挙は人気投票を禁止している公職選挙法には違反しない。
日本選挙学会
神奈川県教育委員会は、2007年から公立学校における模擬選挙をスタートさせる。
政治のレベルアップは、家庭での対話。

2013年の報告
http://www.mogisenkyo.com/wp-content/uploads/2013/07/未成年『模擬』参議院議員選挙2013%E3%80%80投票結果速報版.pdf

シチズンシップ教育と模擬選挙
http://www.toyo.ac.jp/uploaded/attachment/11375.pdf
「投票率を高めるためにどうすればよいか」 という問いに対しては、「若い人の政治的関心を高める」 53%、「学校教育を改める」30%、「社会教育を改める」 30%が上位を占めていた。

第19章 憲法改正模擬投票の授業 杉浦真理
立命館宇治高校

「立場ゲーム」でグルーピング

憲法学習は99条から。「権力者を縛るためもの」

『明快! 日本国憲法』伊藤真、2004
立憲主義、社会契約論、などのキーワードを抑えながら。
自由権、社会権、あたらしい人権。
by eric-blog | 2015-01-26 16:26 | ■週5プロジェクト14
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