90-2(416)イスラームと現代
中村廣治郎、岩波書店、1997 神は普遍的で不変であるはずだ。であるならば、神のいかなる啓示も、個性的で時代に縛られた存在である人間が、それを理解できるはずもない。 それが感想だ。 いかなる言葉を介して語っても、その言葉の偏在性は、解消できない。 ではなぜ、神はそんな無駄な努力を何度も重ねるのか。 なぜ、人間は神を必要として、求めるのか。 神の啓示が、立法的なことにまでおよぶイスラームの場合、政教分離が課題となる。分離主義には、 ・急進的世俗主義 共産主義国における公私におけるイスラームの排除 ・穏健な世俗主義 国家のイスラームからの分離、主権在民など の二つがあり、そして、近代におけるイスラームの衰退が現代のイスラーム原理主義につながっているという。 一夫多妻婚については、アミーンは、公正に扱うという正義が不可能である以上、コーラーンは認めてないという立場すら取る。91 また、離婚についても妻の権利を守るための配慮が民法などにといれられるなど、モダニスト政府は、夫の力が絶大であるとされるイスラーム社会において夫の権利を制限する方向で法改革がなされている。103-110 原理主義が敵対する力が三つある。124 ・体制的宗教 ・世俗的国家とその合理化された官僚組織 ・市民社会 堕落したメディアや世俗的な文学、教育 124原理主義は「近代」への痛烈な批判であり、社会的危機、イデオロギー的多元主義の時代に強力なアピールとなる。...寛容と多元主義、教義の歴史性の否定であるが故に、近代社会とどう折り合いをつけるかであろう。 20世紀初頭のイスラーム社会における混乱を、本書はさまざまな引用から描き出す。 ・第一次世界大戦後のエジプトにおける無神論と退廃、個人の自由を口実にした宗教と道徳の破壊 ・宗教的経済的道徳的デカダンス ・ユダヤ人のパレスチナへの移住の増大、パレスチナ人との対立の激化 ・個人主義による責任感の喪失と社会的カオス ・西洋の帝国主義 共産主義も自由世界にも共通する「唯物主義」と「貪欲と専制」が「西洋」なるものについての理解であった。134 そして西洋の道に変わるものとしてのイスラームの道。イスラームは、物質的、知的、宗教的、現世的側面のすべてに関わる。 ナセル体制への批判もまた、イスラームの復興の中では必然であったという。145 イスラームの復興のためには、まず前衛が活動し、世界を支配している「ジャーヒリーヤ」の暗黒を打破することが必要となる。145 いまは、ネオ・モダニズムの主張が、数は少ないが展開されているという。それは、ラフマンの「コーランは無謬であるいう意味では神の言葉であるが、それが預言者の心に来たり、次にその口から出たという意味では預言者の言葉でもある」とする。コーランの永遠性とその神的性格という考えを、他方では、そのテクストの個々の法的内容の永遠性という考えを区別しようとする。 ・テクストについての歴史的なアプローチ、年代的研究 ・コーランの法的規範と、それらの法が実現しようとする目標・目的を区別する ・コーランの目的を、社会的状況の中に位置づけて理解する。社会学的アプローチ ラフマンのそのようなアプローチは保守派には理解されなかった。202 また、アルクーンは、批判的脱構築として 「啓示は歴史をこえるものである。しかし、啓示の中の諸原理は地上の諸事件の中に体現される。アルクーンの歴史的批判は、イスラーム本来の精神的経験を救出することである。」「そしてそれは、イスラーム世界に広くみられる聖法の下落と弱体化をみれば、緊急の必要事である。」215 しかし、その姿勢については、まだイスラームの世界ではほとんど日の目を見ていない。 宗教的なリーダーのあり方というのと、すべての人々がそうなるというのは、違うのではないかという気がする。 こんな人騒がせな「神」というのは、本当に全能なのか。 なんて、ほとんど無神論で生きていられる社会にいる者は気楽だね。
by eric-blog
| 2005-06-28 16:16
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