日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか
矢部宏治、集英社インターナショナル、2014 2359冊目 第一章が衝撃である。 矢部さんは、2012年から「戦後再発見」双書をスタート、あの孫崎享さんの『戦後史の正体』はその第一巻だったそうです。 なんと、この本の第一章で、矢部さんが指摘しているのは、憲法の上位に「日米安保条約」が位置しているということです。 それを確定したのが1959年の砂川裁判における、田中耕太郎最高裁長官による最高裁判決。日米安保条約について、最高裁は憲法判断をしない、と。44 官僚たちは「安保法体系」に忠誠を誓って来たのだと。 日米原子力協定も同様。憲法の判断の上に、存在するがゆえに、わたしたちには決められないのだ。 米軍と外務法務官僚による支配が、日本の政治を牛耳って来たのだ、と。 「外国軍が駐留している国は独立国ではない」 日本人は「社会科学が苦手」と矢部さんは言います。しかし、以上のような「判断の外」にあるものがある場合、政治的なこと、社会的なことについての判断を持つことなど、不可能であることは、諒解されるのではないでしょうか。 裕仁天皇の「人間宣言」は非常に巧妙に作られていると、矢部さんは指摘します。 1. 天皇制の存続 2. 五箇条のご誓文を入れることで、「明治以来、民主的にやってきた。ちょっと一時期軍部が暴走しただけ」という歴史観を示した。 152 3. GHQの指示ではなく、天皇が主体的に発表したという形をとった。 そのベースの上に、GHQが書いた憲法が受入れられた。そして、第一章の衝撃に続いて、矢部さんはこういうのです。 「問題は、私たち日本人は1946年も、そして2012年(自民党改憲案)も、国際標準のまともな憲法を自分たちで書く力がなかったということです。個人でいくら正しいことを言っている人がいても、それは意味がないのです。そうした意見をくみあげ、国家レベルでまともな憲法を書く能力が、いまも昔も日本にはない。その問題を、これから解決していく必要があるのです。」190 そして、さらに問題は「国連憲章」にも広がります。敵国条項がまだ削除されないまま、107条に「敵国」に対する扱いは例外であると書かれています。国連憲章という上位法ですら、わたしたちの問題解決のためには使えない状況にあるのです。217 同盟国でありながら、「潜在的敵国」 ドイツに対しては「敵国条項」は1970年代に死文化したという。しかし、日本については国際法学者たちの見解は分かれるという。238 「アメリカに従属していれば、その保護のもとで「世界第三位の経済大国」という夢を見ていられます。しかし、ひとたびアメリカから離れて自立しようとすれば、世界で一番下の法的ポジションから、周辺国に頭を下げてやり直さなければならない。それはまさに戦後の西ドイツが歩んだ苦難の道そのものです。」242 もしも「沖縄メッセージ」がなかったら、戦後の歴史は変わったかもしれない。256 どうすれば米国との軍事同盟ではなく「国際法の原則」に従う日本国憲法による国家になりえるのか。 専守防衛のしばりをかけた最低限の防衛力を持つことを明記すること。 今後は国内に外国軍基地をおかないこと。も憲法に同時に明記する。 フィリピンモデル。 アメリカの基地帝国化を許してしまった日本。そして、そのためにアメリカ国民自身が被害者になってしまっている基地帝国の方向転換も含めて、日本という国が問われている。 壮大な物語の始まりの書なのです。 そして、「あとがき」において、矢部さんは、天皇制と現在の天皇に言及しながら、こう言います。 「歴史をさかのぼり、もう一度最初からやり直しましょう。」と。 ラウエル・レポートの指摘も引用されています。 http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/046shoshi.html 「ラウエル・レポート 1945年12月6日 http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/046/046_001r.html 権力の濫用があった。軍国主義者たちに、国政を私物化させた。 次のような悪弊abuseをやめさせること。 ○国民にきちんとした人権が認められていない。 ○国民に対しては責任を負わない、天皇に直結する憲法外機関の存在 ○軍隊の力、組織、予算を天皇が直接に管理できる ○そのような地位にある判事に寄るのではなく、天皇の意志を代表するProcuratorによって裁判所がコントロールされた ○憲法による政府のあらゆる機能がコントロールされることが欠如 ○国民の意志に対して責任を負わない政府 ○執行機関による司法機能が行使された ○国民に憲法を修正しあるいは改訂する権威が欠如 ○地方政府に対する中央の権威 http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/046shoshi.html https://rnavi.ndl.go.jp/kensei/entry/Rowell.php」 わたしも、いまの天皇や皇后の意思表明に賛同しつつ、しかし、天皇制の危うさがいまだに大きいと感じざるを得ない一人です。 坂口安吾『続堕落論』1946年が紹介されている。 「自分みずからを神と称し絶対の尊厳を人民に要求することは不可能だ。だが、自分が天皇にぬかずくことによって天皇を神たらしめ、それを人民に押し付けることは可能なのである。」 矢部さんは、日本の統治の変遷を以下のようにまとめる。 天皇+日本軍+内務官僚 [戦前の日本] 天皇+米軍+ 財務・経済・外務・法務官僚+自民党 [戦後1(昭和後期)] 米軍+外務・法務官僚 [戦後2 (平成期)] わたしたちは、いま、天皇なき「米軍+外務・法務官僚」という天皇制が完成された時代を生きているのだと。 なぜ、野田政権が米国が「強い懸念」を示しただけで「2030年に原発ゼロ」を撤回したのか。 たくさんのなぜの背景にあるのが、安保と原子力なのである。 琉歌にのせて歌われた明仁天皇。 花ゆうしゃぎゆん 人知らぬ魂 戦ねいらぬ世ゆ 肝に願てぃ いつもながら、よく心配りされている方だと思う。だからこそ、彼らをふたたび「神」にしてはならない。そして、いまの天皇なき天皇制をどう解体できるのか、考えなければならない。 【参考情報】 2014/10/13 「戦後再発見双書」プロデューサーが語る、日米関係に隠された「闇の奥」~岩上安身による『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』著者・矢部宏治氏インタビュー http://iwj.co.jp/wj/open/archives/181723 2014/11/02 国際社会の「敵国」であることを自ら望む日本の病 ~岩上安身による『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』著者・矢部宏治氏インタビュー第2弾http://iwj.co.jp/wj/open/archives/201949 【ネットで読める】 「日本はなぜ、『基地』と『原発』を止められないのか」 (集英社インターナショナル発行)の三分の一にあたる 立ち読みサイトが公開されています。 http://goo.gl/pW5965
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