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歴史教科書への疑問  若手国会議員による歴史教科書問題の総括

歴史教科書への疑問  若手国会議員による歴史教科書問題の総括
日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会編、1997
2330冊目

「はじめに」を執筆しているのは中川昭一議員。
平成9年1997年、社会科歴史教科書に「従軍慰安婦」の表記が検定教科書に初めて出たときから、研究会が始まった。

歴史教科書の課題については、以下のまとめが便利でわかりやすい。
http://www.y-okabe.org/pdf/050624.pdf
(「新しい歴史教科書」について、これをまとめた岡部さんは、「皇国史観」についてもまとめている。「皇国史観グループ「つくる会」 の目的はこの思想を国⺠全体に広めることにあり、その手段とし て教科書を利用」していることを問題点として指摘している。)


研究会には18名の講師が呼ばれており、その中には吉見義明教授、河野洋平議員らも入っている。教科書検定のシステムから従軍慰安婦の実態、そして河野談話の経緯なども、学んでいるということになる。

「強制連行の事実を示す資料はなかった」というその一点が「勉強会であきらかになったこと」と安倍晋三議員は「慰安婦・教科書問題—若手議員は発言する」に収録された28名の発言中の一人として書いている。

日本皇軍が、中国から敗退する時に、資料類を焼却したことは問題にすることなく、そして、皇軍従事者らすべての関係者から聞き取り調査をすることもなく、「資料がない」ということだけを強弁しつづける姿勢には、辟易する。もし、事実がないことを証明したいのであれば、いまからでも、当時を知る人々すべてに対し、聞き取り調査を実施すべきである。資料が不在なのであるからだ。

いずれにせよ、この本を読むと、若手議員の会は「従軍慰安婦」の記述を歴史教科書から削除することを目的に活動していたのだということがわかる。従軍慰安婦の事実を知ろうとして活動していたのではなく。

なぜ「従軍慰安婦」の記述を教科書から削除したいのか。それが自虐史観だからだというのだが。

・日本は米国・英国と戦争をしました。
・アジア諸国に日本の軍隊が行きました。
・戦場になった場所もありました。
・日本皇軍は戦場に慰安所を設けていました。
・慰安所には日本本土以外の地域と国の女性たちもいました。
・慰安婦の輸送には軍が関与した。(国境を越える人の移動は自由にできるものではない)
・アジア諸国での犠牲者は2000万人とも言われています。
・日本本土も米国軍によって爆撃され、原爆も落されました。
・日本皇軍は、連合軍に破れました。
・天皇は敗戦を受入れることをラジオ放送で皇国民に告げました。

これを認めない人はいないよね。

で、慰安所は公娼制度であった、と。

公娼制度は、1956年の売春防止法によって売春そのものが禁止に。いわゆる「赤線」と呼ばれる公認の売春はなくなった。

河野洋平さんは、この勉強会の講師として話をして、最後に、アジアに対する買春ツアーやジャピーノに対する日本男性の無責任な態度を「品格のある国」としていかがなものかと苦言を呈している。446

さて、戦時下 、戦場の近くにあって、言葉も通じない場所に移送され、自由に外出することも制限されて、慰安所に閉じ込められて、一日に複数の皇軍兵士の性交渉の相手をさせられること。

そのような状態における女性の尊厳をどう考えるかということだ。

アジア諸国は、それぞれの国に対してなされた加害を、日本という国に忘れてほしくはないだろう。それが人情というものではないか。国として忘れないということは、公的な教育内容に取り入れるということではないだろうか? わたしはそれ以外に「国として記憶する」装置として確実なものを、考えつかない。

日本という国も、加害の事実はありつつ、国のために戦った市井の人々や、空襲や原爆投下などで受けた被害を忘れたくはないだろう。そして、それらの犠牲の上にいまがあることを感謝することも大切だ。そのことと、これらの諸国に対して行ったことは善意から来ていたのだから許されると考えたり、行ったことどもをよかったと言ったり、あるいは加害をなかったこととしたりすることは、二つ別のことである。

これらを混同して「誇りを持つ」を短絡しようとすると、「やったことはいいことだけ」といいくるめなければ、誇りが持てないような錯覚を持たされる。

短絡した誇りほど、危険なものはないし、幼稚な歴史認識はない。

当時の日本国内は、表面的には「大政翼賛」一色だったかもしれないが、そのことがどれほどの「思考停止」「問答無用」のコミュニケーションを助長したか、反省すべきだろう。

その愚を、ふたたび、教育は犯してはならないのだ。

わたしたちの社会をどのような社会にしたいか、教科書にはその答えが映し出されているのだ。

育てたように子は育つ。  
by eric-blog | 2014-10-12 15:43 | ■週5プロジェクト14
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