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歪められた朝鮮総督府 だれが「近代化」を教えたか

歪められた朝鮮総督府 だれが「近代化」を教えたか
黄文雄、カッパブックス、1998
2289冊目

誰が語るのか、どんな物語を語るのか。それによって歴史認識も変わるという証左がこの本ではないだろうか。

伊東俊太郎は、人類史の区分を以下のようにまとめている。
1. 人類革命 ホモ・ハビリスからホモ・サピエンス
2. 農業革命 東南アジア・メソポタミア・メソアメリカ
3. 都市革命 メソポタミア、ナイル、インダス、黄河
4. 精神革命 体系的思想 B.C.8-4
5. 科学革命 西欧(近代科学の始まり) これだけが並行的でなく、西欧において起こった。それはなぜか。

その中で、5番目の「科学革命」だけが、西欧のみで起こったという。西欧以外の地域にとって「近代化」とは「西欧化」を受入れるかどうかという葛藤でもあったはずだ。「和魂洋才」なんともうまい「ナラティブ」を考えたものだ。

日本の「近代化」をすすめたメカニズムを石田は「上、統治者の集中と下への克己心の拡散。」とし、それをすすめたのが「家族主義国家」の考え方とそれを簡潔な文章にした「教育勅語」だとする。

この本の著者は台湾出身で、中国についての評論が多いのは当然であるが、朝鮮総督府だけではなく、その前史や台湾に対する日本の統治との比較があるので、わかりやすい。

■日本語の普及率 台湾70%、朝鮮社会では20%以下。ハングルを蔑視する両班に対して、近代朝鮮語を日本人学者が完成させた。166
■古代朝鮮は「貢女」の献上をしていた。厳しい階級制度の朝鮮社会では、奴婢だけではなく、貧しい農村の娘までよく売買された。188
■日本の戦争文化は、西欧型。職業軍人が中心で、民衆は見物する余裕すらある。慰安婦や商人が集まり、お祭りに近かった。189
■朝鮮の事大主義(大国・強国に仕えること)は有為転変の世界では舵取りが難しい。49
■小中華を自負していた朝鮮に対し、ベトナムは漢帝国以降の1000年以後の1000年は中国の侵略に激しく抵抗している。59
■『朝鮮事情』1874年は宣教師が見た李朝時代の朝鮮王国。1871年から1872年にかけて飢饉が襲ったときも、朝鮮国王は食糧の買い入れを許可するより、国民の半数が死んで行くのを放置することを選んだ。64
■朝鮮総督府は1910年から18年にかけて「全国土地調査」を実施。73
■1905年の調査によると朝鮮半島の反収は日本の半分くらい。79
■宇垣一成総督時代の「農山漁村振興運動」:勤労愛好、自主自立、報恩感謝の三目標。積極的な意欲の育成をめざした。82
■1909年、慈恵医院の官制はップ。地方の医療制度の確立。医師の養成と疫病防止。85
■清の崩壊と属国として生き延びる道がなかった国際情勢。95

日韓併合をどう見るか。国際社会はそれを容認。日本国内でも議論は対立。

その評価は別にして、朝鮮総督府時代に行われた「社会インフラ整備」は抹殺できないのではないかと、著者は言う。

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