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学力の社会学

85-8(400)学力の社会学
苅谷剛彦、志水宏吉、岩波書店、2004

社会政策としての教育政策をとらえなおすとき、学力の平均的な変化をとらえるのではなく、誰のどのような学力が低下しているのかを見ることだ。
大規模な学力調査から「効果のある学校像」にせまる。

著者らは、教育制度・政策のアセスメントの手段として学力調査が必要だという立場をとる。大賛成だ。調査は「関西調査」と呼ばれる1989年に行われた調査をベースに2001年に再調査されたもの。もうひとつは1982年に国研が実施した調査を2002年にほぼ同じ問題を用いて調査したものである。

これらの変化を見ることで、「新しい学力観」による1990年代の教育の効果を調べることが可能になる。政策立案のための調査ではなく、政策評価のための調査として、見てみよう。
「新しい学力観」とは「自ら学び、自ら考える力」の育成を目指すものであるが、すでに方針の転換すら言われている。果たして、政策評価なき方針転換は正しいのか。

学力の低下および学力の分極化が調査の結果から見られる。という。
特に、この調査で特記すべきは同和地区の学力問題も含めているところだろう。学力低下の傾向が他の学区より強いという。

また、戦後1950年代の「学力低下論」と現在の状況の比較があるのもおもしろい。

その他、家庭や親からの期待、担任の態度などの変数についても検討されている。

学力に関連する要因は多岐にわたるわけだから、議論もさまざまだ。したがって、単純な結論も出せないという。
そしてより多くの学校の協力による実践的な学力調査研究の中から「効果のある学校」を発掘したいのだそうだ。

でも、こんな本を読んでいたら、学校の先生は混乱するだろうなあ。そういう意味では教育について研究する研究者の不誠実さを感じる。何が「効果のある学校か」という道筋は提示しないまま、いじくられるんだもんなあ。学校は大変だ。

いやあ、研究者的にはいい本なんですよ。ほんと。しかし、executive summaryと提言ぐらいはまとめておいてくれ。

いまの学生たちって、ころころ変わる単位認定制度や学校制度ですごく混乱しているって知ってます? 大変だなあ。
by eric-blog | 2005-05-28 12:46 | ■週5プロジェクト05
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