「アラブの春」の正体 欧米とメディアに踊らされた民主化革命
重信メイ、角川書店、2012 2115冊目 他岸の火事と見ることはできない。去年10月にこの本が出た時は、そんな感想は抱かなかった。しかし、2012年の総選挙の後、ジーン・シャープも、アラブの春の行方も、ショック・ドクトリンも、身近なものになってしまった。 たった16%の支持で政権についた政党が、日本国憲法という国の形を変えてしまう決定に連なるさまざまな政策を打ち出しているのだ。それに対して多数の人々は、現在の日本の選挙制度の「多数による専制」に対して、民主主義の要素である「熟議」の要請も、「政治参加」の司法判断も、「政治的平等」の願いも踏みにじられて行くのを唖然として見つめている。いや、抗議の大声をあげている。 http://ericweblog.exblog.jp/17649896/ チュニジアで23年続いたベン・アリー政権が倒され、エジプトから30年居続けたムバラクが追放された。 しかし、その後なのだと著者は指摘する。 イスラム教には、信仰の篤い人々が毎週金曜日にモスクに集う習慣がある。そこで一体感を高める演説をすれば、人々の心を動かす。 ムスリム同胞団が勝てたゆえんである。38 有力なリーダーなしでも、政権を打倒することはできる。追いつめられて失うものがなくなったとき、革命が起こると、『文明の衝突』で有名なハンティントンが言っている。40 しかし、「普通の人々の関心を政治に引きつけ、組織化していくのはたいへんです。まず、人が集まる場所を作り、そこに人を呼び込むことから始めなければなりません。人々がたくさん集まってくれるまで、根気づよい活動が必要になります。」38 エジプトの大統領選において、イスラム系の候補が支持を集め、国会議員選挙制度ではムスリム系が7割を占めた。 ムスリム同胞団が政府に要求していたのは、イスラム主義を信奉する人たちにとって済みやすい国づくり。 リベラルや左派の人たちにとっては労働者の権利であり男女平等。さらには左派の人たちはイスラエルに対決する姿勢を鮮明にさせること。左派とリベラルでは優先順位について意見が分かれてしまい、候補者をしぼりこめない。 読めば読むほど、日本の選挙の状況にもあてはまることばかりです。 自治会や地域組織など、人が集まるしかけ=票固めできる場所を持っているのは保守系の人々。 それに対し、いま「抗議行動」をしている人々が、一致して求めているのは「脱原発」。 そこにTPPだとか、秘密保護法だとかが入って来てしまって、「脱原発」の一枚岩で行おうと呼びかけていたデモも、雑多になってしまっている。 ブラック企業などの労働者の権利、男女平等、ゲイの権利などは、大きな抗議行動のイシューにすらなっていない。 つまり、リベラルと左派が16%以上の票固めをすることはかなり難しいということだね。 さらに第三章は、ショック・ドクトリン並みの衝撃だ。カダフィがアフリカ連合で「アフリカ合衆国」構想をすすめていたということ。アフリカは資源が豊かな諸国であるのに、これまで先進国に流通を押さえられて、自国の有利な条件で使うことができていなかった。そこで、アフリカ諸国をまとめようと、カダフィはし、2010年にディナールという地域通貨を作って、アフリカ諸国に呼びかけた。そのタイミングでリビアに「革命」が起こった。98 特にNATO軍が空爆したのは、鉄道、高速道路、病院、大学。国民にとって必要なインフラ中心だった。99 そのNATO介入のきっかけとなった一つのニュースは、アルジャジーラから発せられ、あっというまに国連決議にまでなった。後に、アルジャジーラはそれが誤報であったことを伝えたが、謝罪も撤回もしていない。アルジャジーラは、カタール政府が自らの存在感のために設立した会社で、カタール政府はそのとき、リビア反政府軍側に武器を供与していた。114 第6章は、シリア内戦が激化する理由。外国からの介入が事態を激化させている。 そして、おわりにで、著者は言う。 「現代では、無知であることは危険なことです。」 メディアは誤報やデマで状況を悪化させ、権力に利用されて人々の怒りや憎しみをあおり、戦争の引き金をひいてしまう。226 自分から情報を探し、情報ソースを確認すること。そうしたメディアリテラシーを持つこと。 アラブ問題は、宗教的で日本人にはわからない特殊な問題ではない、と重信さんは言います。人間的な問題なのだと。差別弾圧占領は、許してはならないと、思ってほしいと。 ■イラク戦争についての高遠菜穂子さんの報告。 iwj.co.jp/wj/member/archives/16950
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| 2013-12-19 08:48
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