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昔ガヨカッタハズガナイ ボクラ少国民のトラウマ

昔ガヨカッタハズガナイ ボクラ少国民のトラウマ
山中恒、辺境社、2011
2107冊目

・2013/07/31 「日本の若者がアメリカの鉄砲玉になるなんて、僕は耐えられ
ませんよ!」 ~岩上安身による山中恒氏インタビュー
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/93907

1931年生まれの著者が、自身の学生運動の履歴のゆえに、企業への就職を断念し、物書きへの道を行っていた、その頃。同窓会で会った重役になった人々から同情されていた。それが1990年代には、彼らが定年を迎え、今度はうらやましがられる立場に。

1993年の初版につけた序文の内容である。すでに20年の時がたったが、違和感がない。「昔ガヨカッタ」とする呪縛の根源の奥深さを、明らかにする。

折しも、どこやらの中学では、「気ヲツケ」を授業の始まりに徹底するのだそうだ。なぜ、そうするのか? 内発的な学びへの意欲のためか、それとも命令を聞くからだを作るためか? 『ライジングサン』は自衛隊の3ヶ月の教育期間を描くコミックだが、徹底的に命令にしたがう訓練だ。軍隊と教育は何が違うのか。違わなければならないのか。それを説明もしないまま、日本の教育の姿が「ヨカッタ昔」に帰って行く。

わたしが何よりも嫌いなのは、その命令を発する時の権力の側の高揚感なのである。こんちくしょう。ふざけるな。

山中さんの本に戻ろう。

史資料をひもといて、迫る論ははっきりしっかりしている。

1.男が家にいたっていいじゃないか。
江戸時代、封建制度が定着すると、女性が男性に頼らずに生計をたてることができない境遇におとしめられた。家督相続権が男にしか認められなかったからだ。下婢となるか娼婦となるか。結婚しても七去三従。貝原益軒の『女大学』なんて最悪。本末尊卑明分による倫理道徳規準による「らしさ」の道徳。
2.一家の主は幸せだろうか。
で、ではその本末思想によってたてまつられた男は幸せなのか。ここはあんまり興味ないからとばす。自分で考えろ。
3.親父の背中は反面教師
家の中で「こわい」存在だった親父。その根拠は旧民法にあった。娘が身売りを強いられたのも、この旧民法のせい。子どもは家の持ち物なのだ。
4.昔だって核家族
この章はすごい。1944年の戸田貞三論文「我が国の家族と家族制度」があきらかにしているのか、戦前の家族は4人という組み合わせがもっとも多かった。大家族という虚構が伝えたかったことは、日本の「家」は戸主から戸主へと連綿と受け継がれるという思想を国民に根付かせること。「家」の総本家としての天皇家。
5.子どもなんてうめやしない。厚生省の創立。産めよ殖やせよ。国のため
『書経』に「正徳利用厚生」という言葉がある。昭和13年に厚生省はこの言葉から創立された。支那事変勃発から半年後のことである。この省庁名を「健康省」とかに変えないことには、日本は変わらんと、著者はいうけれど、では文部省はどうやねんと。
6.公私混同してなにが悪い 滅私奉公主義から決別しよう。
真剣に「私」の部分を防衛していかないと、生き方どころか「死に方」まで指示されちゃうぞ。公的サービスは手抜きしてからに。
7.なぜ学歴にこだわるのか
8.子どもの悲鳴が聞こえないのか
9.結婚適齢期なんてきにしちゃだめだ
10.嫁いびりはめぐる因果の糸車
11.「昔」の歯切れの悪い終焉

歯切れの悪さが、またぞろ「昔」の復活に道をゆずりそうになる「輪」の時代。

しっかり、「私」を生きませう。

山中恒著『少国民戦争文化史』(勁草書房、2013.10)

も、読みたいが、ちょっと、山中さんの時代の「輪」めぐりを知りたくて、図書館の本を年代順に並べてみました。

1  ボクラ少国民 ; 〔第1部〕/山中 恒 辺境社 ; 1977(916)
2  ボクラ少国民 ; 第4部/山中 恒 辺境社 ; 1979.1(916)
3  ボクラ少国民 ; 第5部/山中 恒 辺境社 ; 1980.4(916)
4  ボクラ少国民 ; 第3部/山中 恒 辺境社 ; 1980(916)
5  ボクラ少国民 ; 補巻/山中 恒 辺境社 ; 1981.12(916)
6  ボクラ少国民 ; 第2部/山中 恒 辺境社 ; 1981(916)
7  少国民ノート/山中 恒 辺境社 ; 1982.8(319.8)
8  ボクラ少国民と戦争応援歌/山中 恒 音楽之友社 ; 1985.8(767.6)
9  少国民ノート ; 第2/山中 恒 辺境社 ; 1985.8(319.8)
10  少国民はどう作られたか:若い人たちのために/山中 恒 筑摩書房 ; 1986.4(372.1)
11  〈図説〉戦争の中の子どもたち:昭和少国民文庫コレクション/山中 恒 河出書房新社 ; 1989.8(210.7)
12  ボクラ少国民と戦争応援歌/山中 恒 朝日新聞社 ; 1989.11(767.6)
13  植民地そだちの少国民/野村 章 岩波書店 ; 1991.2(916)
14  さらば少国民/藤田 美佐子 踏青社 ; 1992.10(913.6)
15  白秋全童謡集 ; 4/北原 白秋 岩波書店 ; 1993.1(911.58)
16  <写真集>国民学校と子どもたち ; 2/下村 哲夫/監修・解説 エムティ出版 ; 1995.6(210.75)
17  満洲の風/藤原 作弥 集英社 ; 1996.7(916)
18  日本国憲法50年と私/杉原 泰雄 岩波書店 ; 1997.4(323.14)
19  午後の人生/佐江 衆一 立風書房 ; 1997.7(914.6)
20  少年小説大系 ; 別巻 5 三一書房 ; 1997.1(913.68)
21  間違いだらけの少年H:銃後生活史の研究と手引き/山中 恒 辺境社 ; 1999.5(913.6)
22  青春は疑う:ボクラ少国民の終焉/山中 恒 辺境社 ; 2002.7(913.6)
23  世界名作選 ; 1:日本少国民文庫/山本 有三 新潮社 ; 2003.1(908)
24  餓鬼一匹:ボクラ少国民前夜/山中 恒 辺境社 ; 2003.3(910.268)
25  追って書き少国民の名のもとに:ボクラ少国民の周辺/山中 恒 辺境社 ; 2004.8(372.106)
26  戦争のための愛国心:ボクラ少国民の作り方/山中 恒 辺境社 ; 2004.12(372.106)
27  満洲、少国民の戦記/藤原 作弥 文元社 ; 2004.2(916)
28  大正・昭和の“童心”と山本有三/三鷹市山本有三記念館 笠間書院 ; 2005.10(910.268)
29  絵日記にみる「少国民」昭子/宮田 玲子 草の根出版会 ; 2005.8(916)
30  少女少年のポリティクス/飯田 祐子 青弓社 ; 2009.2(367.61)
31  手塚治虫デビュー作品集/手塚 治虫 毎日ワンズ ; 2009.4(726.1)
32  昔ガヨカッタハズガナイ:ボクラ少国民のトラウマ/山中 恒 辺境社 ; 2011.6(914.6)
33  はじめて学ぶ日本の戦争児童文学史/鳥越 信 ミネルヴァ書房 ; 2012.4(909)
34  靖国神社と歴史教育:靖国・遊就館フィールドノート/又吉 盛清 明石書店 ; 2013.8(175.1)
35  絵で語る子どもたちの太平洋戦争:毒ガス島・ヒロシマ・少国民/岡田 黎子 文芸社 ; 2013.7(210.75)
36  少国民戦争文化史/山中 恒 辺境社 ; 2013.10(909)


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