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歴史家の仕事 人はなぜ歴史を研究するのか

歴史家の仕事 人はなぜ歴史を研究するのか
中塚明、高文研、2000
1949冊目

歴史とは、われわれの生き方である。
歴史学とは、われわれの歴史的な生き方の理論である。

1947年、「新しき歩みのために」出されたパンフレット形式の双書の一冊『歴史』に羽仁五郎さんが書いたものだ。著者が学生時代に出会い、心に刻んでいる言葉だ。

ところがいま「歴史は科学ではない。・・・言葉というあやふやなものによってつくりだされる不確かな人間の智恵の集積」(西尾幹二『国民の歴史』1999)であると主張する本が大量にばらまかれている。4

誠実な解説と見せかけだけの解説。

「従軍慰安婦」問題や南京大虐殺、731部隊、三光作戦などを、なにひとつ書かない歴史が、日本人をどこに導くのか、「皇国史観」の歴史はその道を示している 6

歴史を科学的に研究するとはどういうことなのか。もっとも基本的なこととし断言できるのは、このことだけだ。12

歴史学とは批判の学問である。

批判的精神なしでは、テーマを選ぶ段階から史料によって分析する段階でも、何事も進まない。

日記や回想録などを史料として活用する時のことを、著者は、自身の睦奥宗光の『褰褰録』についての研究の失敗例によって、全体的状況や確認されている事実などから、なぜ陸奥の日記にそのように書かれたのかを分析する必要があるとする。62-74 『歴史の偽造をただす』高文研,1997

中塚さんは、西尾さんの朝鮮半島に対する蔑視、軽視が侵略を正当化する考え方につながると指摘します。「朝鮮半島の人びとはいつまでたっても目が覚めない」と。86

司馬遼太郎さんも明治を美化する論調が、日清日露を「国際法をよく守った」と正当化し、分析する目を殺いでいると。112




西尾幹二さんの従軍慰安婦についての認識は、次の記者会見によくあらわれている。「軍に兵隊の性をどう扱うかについて、何もない軍隊はない。なぜ日本軍だけが鬼畜のように言われなければならないのか。非難決議を出した米国の謝罪を求める」というものだ。
2013/04/04 歴史認識で意見割れる 西尾氏「国家権力による従軍慰安婦はいなかった」、和田氏「中国やフィリピンでは、日本軍が現地の女性を拉致監禁し、相当期間、性的行為を強制した」―日本外国特派員協会主催記者会見『河野談話の見直しについて』

http://iwj.co.jp/wj/open/archives/72382

「従軍慰安婦」的存在が、どの軍隊にも存在するものだからと言って、強制連行されたという訴えがないものとすることはできない。西尾さんは、「日本国皇軍」の名誉のために語り、被害の訴えを出している人は、「わたし」の尊厳のために訴えている。「従軍慰安婦」の訴えのせいで、皇軍全体の名誉が損なわれていると、感じてきたこと、決して皇軍全体がそうであったわけではないことを主張したいこと。そのことが、訴えの否定になる理由が、わたしには理解できないけれどね。「組織的特定目的場所設置型戦時性暴力」と長ったらしく名付けたブログ記事で、わたしは「いきさつ」を、「個別の女性の事情」「女性の移動」「慰安所での状況」という三つについて、その強制性や軍隊の関与を整理してみた。アジアの11カ国にまで広がっていた戦域のそれぞれの場所で、起こったことを一つの理論で片付けることはできないからだ。

それに対して、例えば、藤兼さんという方が紹介していただいた中山議員の主張は「東北は貧しかった。出稼ぎに行く、売られていく娘がいた。」という東北地方の人びとが「うんうん、そうだそうだ」と共感的に理解できる事象を引用して、「個別の女性の事情」から説明する。とても、全体を説明できる議論ではない。

安部首相に対して出されたという手紙も、ある兵隊さんの朝鮮半島での駐留体験を語ったものだ。「慰安所での状況」についての一つの体験だ。これも、全体を説明するには至らない。

そして、軍隊の記録が、敗退にともなって多く焼却処分されたことは、事実である。

中塚さんは言う。

「1945年の敗戦直後、日本では軍時関係の記録が中央・地方を問わず、軍部・警察の命令で計画的に焼却されました。近代日本のあいつぐ戦争、とくに310万人の戦死・戦災死を出したアジア・太平洋戦争の実相を知る上で、また日本軍による2000万人以上ものアジア・太平洋上諸島嶼の人たちの犠牲の実態を明らかにするうえで、この計画的な記録の焼却は返すがえすも残念でなりません。」214

その中からも、残された史料が、あるのです。その部分の記録と全体的な流れの往復運動こそが、部分的にしか、すでに残っていない史料から実相にせまるためには不可欠なのだと言います。223



大字についての研究から見えてくる
「幕末以来の土地所有にもとづく村の階層的な構造が、そのまま新政府の地方支配の構造となった」202
「明治期の国民皆学の現実」階層別の就学率の違い209

近代日本のアジア侵略への不感症
憲法の空洞化
天皇戦争責任免責の後遺症

さまざまな視点から問題提起をする中塚さん。教師という職業は、現在と過去の対話ができるもっともよい位置にいると。252

史料に対する向かい方。
本のつまみ食いばかりしているわたしには、耳がいたいなあ。
by eric-blog | 2013-04-19 08:06 | ■週5プロジェクト13
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