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科学革命の現在史 日本の持続可能な未来のために

科学革命の現在史 日本の持続可能な未来のために
中山茂、吉岡斉、学陽書房、2002
1942冊目


市民運動がどのように地球環境問題にかかわってきたかという視点も科学技術史の中に取り入れられている、とてもおもしろい本である。


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そのことに行く前に、「現代」に関する認識、特に1980年代からすすんでいる科学技術の構造転換について、次のような共有から始まっている。「冷戦型モデル」から「ポスト冷戦型モデルへ」である。わたしたちは時代の不連続点にたっている。10

科学技術の二回の転換点。一つは1870年代の制度化。そして、1930年代の体制化。 by広重徹 11

制度化とは、「研究開発活動を恒常的に行なう組織体が整備され、それを維持するための物質的(資源的)な基盤が社会に備わり、それを専門的に進める職業集団が成立すること」その背景として、国民国家による世界の分割と競争。大学が中心的な役割を果たしていたが、その後次第に政府や産業界の役割も高まった。(『科学の社会史』)

「体制化」とは、科学技術の研究開発活動が、政治経済システムを運営していくうえで死活的に重要な要素となり、科学技術システムを維持発展させていくために、政府や産業界が巨額の資金を投入し、それと同時に強力な方向づけや統制を行なうようになる。この時代の政治経済システムとは、基本的には国民国家単位で組織されたものの集合体である。12

冷戦時代は、それが「アメリカン・モデル」という「政府主導・軍事中心」へ。

1991年のソ連の崩壊。科学技術システムは、グローバルな活動へ。「ポスト冷戦時代」はっきりとしているトレンドは「国家体制化」から「国際管理化」へなのである。14

主要トレンドを4点に整理する。
第一は、科学技術の「前線配置」(優先順位の体系)の変化。軍事、核、航空宇宙の斜陽化。
第二は、科学技術の研究開発の推進と規制における国民国家の権限と役割が低下するとともに、民間組織の権限と役割が増大していく。政府出資の削減、停滞。政府と産業界が国民国家の運命共同体のパートナーであるという構造が、解消されつつある。経済ナショナリズムは正当性を失っている。「それは国家安全保障、自由貿易、平和・環境・人権などの大義名分の陰に隠れる形でのみ、追求しうるものとなった」15

第三に、国際社会の果たす権限と役割が増大している。科学技術の規制の側面に強く現れている。「世界共通のルールが国際機関において定められ、各国がそれに準拠した国内法を整備するという形で、規制の国際化・合理化が進んで行くパターン」あるいは「ある国で考案された先進的なルールが世界中に普及していくというパターン」

核エネルギーについてのIAEA。
1970年代以降には、オゾン層ほどのためのウィーン条約およびモントリオール議定書。ISO、PRTR,HACCP,GCPなど。

1990年代以降最も大きな注目を集めているのが、「気候変動に関する国際連合枠組み条約」1994年3月発効。

「グローバルな公共利益が、国家利益よりも上位に置かれるようなシステムが構築されつつある。
グローバルな公共利益のなかでも最も基本的なものは、「持続可能な未来」の構築と維持という目的に他ならない」17

国民国家の政府は、国際社会の目標の委託・代行に、積極的な規制・誘導措置を講ずることが期待されている。

第四は、市民的イニシャティブの役割が増大している。公共政策決定の民主化。
「1996年にはじまった沖縄県や新潟県巻町などにおける住民投票にみられるように、たとえ国策であっても市民の信任を得なければ実施できない」17

「ここで重要なことは、市民の発意にもとづくローカルな意思決定も、・・・より大きなコミュニティ、究極的には国際社会によって広く認められている価値観に合致しない場合には、その信任を得ることはできず、内外のさまざまな勢力からきびしく批判される」18

「公共利益とは、ローカルおよびグローバルの二つの視点から定義されるものであるが、それに背反しないかぎりにおいてのみ、国家利益の追求は許容されるのである。」

「国際管理化」における日本の役割は、期待されるものの、これまでのところ、核エネルギー分野では皆無。環境分野についてもしかり。23

グローバル市場経済の脅威に対して、平和・環境・人権などの観点から強力な国際的規制を行なうための厳しいルール体系を構築する必要がある。・・そのプロセス自体が、民主主義的な監督のもとに、置かれなければならない。24

そして、1970年代から90年代にかけても市民運動の変化は、いちばん最初に見た通りである。

第10章に「科学技術とジェンダー」が取り上げられており、「日本の科学・技術、社会の間の関連性は、日本の家庭に反映されている。」181

「原子力の奨励と電気製品の使用は・・奨励されたことの一つである。」

1961年「原子力と日常生活」が大阪難波の高島屋で開催された。183

女性は、科学技術のターゲットとして、推進に大きな役割を果たして来た。

第11章は「市民セクター」

反権力闘争モデルから
公共利益モデルへ

では、これからの科学技術のモデルは?
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エピローグ。

近代科学技術は廃棄は不得意。

ヨーロッパ・モデルへ。
ハイテクではアメリカと競争せず、長持ちする地球環境科学・リサイクル技術、環境ビジネスへ。「過開発国」になっているという認識と路線変更が、国民にもっとも説得力を持つのではないか。230

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『なぜ、日本の科学者は報われないのか』という本を読んでいるが、こちらは、とても緻密なインタビューやデータによる「日本の科学者およびその所属組織」について描き出しているものです。
ぜひ、読んでみてください。
by eric-blog | 2013-04-05 10:40 | ■週5プロジェクト13
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