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二つの憲法 大日本帝国憲法と日本国憲法

二つの憲法 大日本帝国憲法と日本国憲法
井上ひさし、岩波ブックレット、2011
1920冊目

2010年4月に亡くなった著者の1999年の講座の再録。

憲法とは何かから始まり、大日本帝国憲法の成立、そして、戦後の日本国憲法の成立を解説したもの。

Constitution 憲法の英語の語源を考えると、それはcon ともに、stiite建てるものであるということがわかる。「1689年から1789年の間にしだいにできあがった」(オックスフォード英語辞典)
1689年 権利章典
1776年 アメリス独立宣言
1788年 アメリカ成文憲法
1789年 フランス革命と人権宣言

井上さんは、イギリスには憲法がなく、権利章典など複数のものがその基礎となっているという。成文化された憲法を定めたのは米国が最初ということになる。

そして、近代国家の形を急いでいた日本で、憲法が議論された時、三つの立場があった。
一つは、絶対君主制のままで、憲法は要らない。(薩摩派)
二つ目は、憲法を作って、立憲君主制へと移行しよう。
三つ目は、立憲君主制の形を取りながら、内容は絶対君主制のままで行こう。(長州派)

ため息が出ますね。いまの改憲案を見ていると、なぜ、いまだに、絶対制を支持する人がいるのだろうか、不思議でなりません。60数年では、意識改革は達成できなかったということでしょうか。

そして、1946年の天皇の「人間宣言」。大日本帝国憲法が前提としていた万世一系の天皇という基軸が本質的に変化したはずです。

新憲法の三つの柱「人権の尊重」「国民主権」「永久平和」。

日本国憲法に、当時の世界の最高の理想として盛り込まれたもの。57

人類普遍の、練り上げられたもの。「人間は、世界中の人たちが頑張って、人間だからできるものを考えたり、発明したりしてきた。」

なぜ、それをみんなの共有財産として使うことをしないのか? 井上さんは、「普通の国」になりたがっている日本を憂いています。

「自分たちを、国境を超えて地球上に生きている「人間」と規定し直す。そして、志を同じくする人びとと共に動く。」

「世界史からの使命が課せられているわたしたち日本人」63

いまや、Constitutionを一国主義に戻す事などありえない。わたしたちの国がどんな国であるか、そして、その国は、この世界でどのように存在しようとするか、その覚悟とビジョンが、憲法に明記される必要があるでしょう。

ロールズは1999年の「万民の法」の論文で、諸社会の共存の原則を三つあげました。それ以前は、民主主義が、正義の究極の形なのだと、ロールズを主張していたのですが、民主主義をひっこめたとしても、次の三つはゆずれないと。
○法治主義
○非拡大主義
○基本的人権の尊重
これは、改憲案を検討する時に、しっかりとチェックすべき点でしょう。
http://ericweblog.exblog.jp/7687182/
http://ericweblog.exblog.jp/778478/

戦争の放棄は、国連憲章にもあることですから、これがはずされることは、ありえないでしょう。古関彰一氏が指摘するように、大日本帝国憲法にはあった「開戦」についての規定が、自民党改憲案には見られないということは、軍隊化という動きと重ね合わせて考えれば、米国に追随した「なしくずしの軍隊派遣」への道を拓くだけだと言わざるを得ないでしょう。

Constitutionとは、共に生きる人類が、積み上げ、合意を形成してきた、わたしたちの目指すべきあり方を成文化したガイドラインであるものです。

幻想の共同体の確立に邁進していた近代国家形成期の考え方に、一国の憲法が戻ることは、人類的な損失なのではないでしょうか。

それに賛成する人びとが多いとすれば、それは、とても不思議なことです。ありえないことがあると、世論調査や選挙の結果が示すのであれば、方法論そのものも近代の枠組みを超えていないのかもしれませんね。


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by eric-blog | 2013-02-18 10:57 | ■週5プロジェクト12
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