脱原発・共生への道
槌田劭(たかし)、樹心社、2011 1832冊目 伊方原発の裁判を闘って、その結果に、科学者として生きることを恥じて京大を1979年に辞され、その後は一市民として、脱原発、有機農業の運動など、足元から原発の要らない生き方を模索しつつ、生きてこられた方が、1990年に出された本。当初はまったく売れず、出版社に迷惑をかけた、と。加筆修正することなく、あとがきを加えるだけで、出版されたもの。 53ページに「あなた、タイヘン!」という1977年の広告が紹介されており、それが、放射能について人にわかりやすく伝えるメッセージとして「奥さんが放射性物質、怒りがたまるのが放射能、がみがみ出てくる小言が放射線」としたものが批判的にネットに流れてきた時だったので、紹介しておこうと思った。 http://www.47news.jp/47topics/e/229955.php 伊方原発反対運動を支えた人。2013年11月14日 東京新聞より もう一つ、「国民投票を想定した「原発」の是非を論じ合う公開討論会」も紹介しておきたい。 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/20771 ■登壇者 ・「原発」容認派 小宮山涼一氏(東京大学 大学院工学系研究科 原子力国際専攻助教) 澤田哲生氏(東京工業大学 原子炉工学研究所エネルギー工学部門助教) 高木直行氏(東京都市大学 原子力安全工学科教授) 柘植綾夫氏(芝浦工業大学 学長) ・「原発」反対派 菅直人議員(前内閣総理大臣) 宮台真司氏(社会学者、首都大学東京教授) マエキタミヤコ氏(グリーンアクティブ 発起人) 司会 今井一氏 ジャーナリスト 推進派の方も、よく出れたなと思うが、まったく噛み合ない議論に終始した。宮台さんは、「学(専門家)の監視機能なく、全ての意志決定デタラメ」「原発をやめられない社会だから、原発をおくことが馬鹿げている」と批判。 高木さんは「化石燃料は、未来への負債。原子力に変わるエネルギーがあるなら教えて欲しい」と、原子力しかないという主張のみ。 柘植さんは、「考え方を話し合おう」とおっしゃったのだが、彼の論点のどれがそれにあたるのか、さっぱりわからなかった。というのも、氏は、データをあげて、「3.11以降、人々の科学と技術に対する信頼は下がった」ことを示し、「信頼を回復することが大切」と言った。そして、女川原発の事例をあげて、「技術者たちが、過去の津波のことを知り、対策を考えた。こんな例もあるのです。」と。そして、事故のことについては、畑村委員会、黒川委員会の報告に待ちたいと。その結果を待っているのです、と。しかし、大飯原発は再稼働しても大丈夫なのです、と。 信頼を回復する努力として、「あなたは何をしているのですか?」とマエキタさんが質問しても、別の答えはない。「わたしは待っているのです」と。 論理的じゃないなあ。で、その論理的でない人が、宮台さんに「感情論でものを言ってはならない」とかみつき、わけわからん、と思っていたら、宮台さんは、「後は野となれ、山となれが許されないのは、我々のセンチメントが命じるのである。とウルリッヒが言っている。」と返した。それに対する反論はなし。 自分は待っているくせに、再稼働は待たない。これじゃあ、宮台氏の指摘通りの実態を曝露し続けただけだよね。「学」が原発について監視機能を果たしていない。 でも、柘植さんは、学長でもあり、果敢に高木さんを擁護したり、宮台さんにからんだりしたので、きっと、この討論の後、彼のとりまき環境では、ほめられるんだろうなあ。 女川原発のことについても、遅れて参加したので、柘植さんの発言は聞いていなかった菅直人さんが「女川原発は、町長が、高台に作れといったので、助かった」と、まあ、これはこれで、政治家主導に花を持たせすぎているのかもしれないけれど、柘植さんの「技術への信頼回復」の事例をひっくり返したわけだけれど。 システムがだめだ、と指摘されているのに、システム論ができる人が推進派にいない。 原子力が根本的に危険な物質であることは、双方合意なのだが、コントロールできるのかできないのかを、福島原発事故の後ですら議論可能だと言おうとする。コントロールできないことがあるという事実がある以上、コントロールできなかった時、どうするのを、もっと検証して欲しいと思う。福島の人々を通して、わたしたちが知ったのは、次のようなことだ。 ○居住地から追い出され、劣悪な避難所、仮設住宅に住まわされる。これが、豪勢なホテル暮らしであったれば、「原発利権も極まれり」と、原発立地自治体は最後まで原発リッチなんだなあと、思っただけだったろうに。高校の体育館や教室で、一年が過ぎても暮らしている現実がある。 ○健康被害があるんだか、ないんだか、宙ぶらりんの状態。パターナリスティックな政府の説得的コミュニケーションと、自己決定自己選択を迫る膨大な情報渦。考えるのか、考えないのか、のところから選ぶ必要がある状態。 ○説得されて残っても、すでに地域共同体は櫛の歯がかけたような状態。 ○健康診断や医療費は無料化されていくようだが、これもまた医療という名の科学の餌食になるのかとの疑いが晴れない。首都圏までも含めて、わたしたちはデータなのだ。 ○自殺者もいる。データは公表されていないけれど。 それでも、生きていられるのだから、と思っても、溜まっている恨みはあるはずだ。 科学や技術の信頼と同時に、社会やシステムに対する信頼も回復する必要があるのではないか。確かに、この社会に原発をおくことが馬鹿げている。 でもなあ、そう言い切ったところで、具体的にどんな行動が? もちろん、わたしが、運動団体で働いた結果、基本的な教育の問題に立ち戻り、指導者育成に取り組んできたのは、その具体の一つとしてなのだけれど。20数年続けて、教育は変わったのか? 一人ひとりが考える、選択する。話し合う、協力する。いまの教育が、そんな参加の文化を根付かせるための基礎教育となりえているのか。 脱原発もかなわず、教育改革もかなわず。 と、そのような心境の時に、これを読むといいのかなと。 小出さんも言いました。40年やってきて、原発を止められなかったと。 槌田さんも言っています。「民主主義の機能不全のもと、科学的な良心も排除される現実が病的に深まっていたのだ」と。追加された後書きに。185 この病んだ社会を変えよう。生活習慣病を変えよう。そのためには、変えようという決意と、健康さの指標の確認と、努力、互いの励まし合い。でしょ? 高血圧に、糖尿病に、メタボに取り組んでいる方々よ! 社会の体質改善も同じなんです。 槌田さんは言ってます。「畜力で動いてものが、石炭を使った蒸気機関に置き換わった時に、第一次産業革命によって成立する資本主義の文明にがらっと変わった。それが石炭が高くなって、石油に変わった。石油の文明。さて、原子力は石油の代りになるのか。原子力は電気しか作れない。」「石油の文明自体がすでに利己的刹那的」110-112 つまり、高木さんが聞いている質問「原子力にかわるエネルギーはあるか?」という問いは、原子力という石油文明延命装置を選択するかどうかという問いなのです。問題は、その延命装置を、わたしたちが、次の文明のための準備として使ってこなかったことだし、このままいまの原子力推進派に決定権をゆだねても、これまで通りを続けるしか能がない人々だということがわかってしまったことでしょうかね。 ていねいに、体質改善に取り組む時間的余裕が、わたしたちに残されているのか、ということですね。 さて、槌田さんが大学をやめるにいたった伊方原発のことは、もう少し、ていねいに、引用しておきます。1970年代に、わたしたちが何をしたのかを、記憶しておくために。科学的見切り発車をどのように社会が容認したかを、忘れないために。 145-149 自殺者が出るほどの用地買収の上、地域をずたずたにして、建設計画がすすめられた。住民から工事差し止め裁判が起こされた。協力を求められ、原発の安全性をめぐって本格的な科学論争にかかわった。先方は東大や日本原子力研究所等の専門家。こちらは京大、阪大の若手。 結果は、出てくる権威者たちが赤恥をかき続けることに。学会で、問いつめられることのない論争しかしたことのない人々が、証人席で問いつめられる。 弁護士をして「こんなに痛快な裁判ははじめて」と。 科学的な問題は裁判になじまぬと、門前払いをくわせようと画策するがそれもかなわず。 裁判官を人事異動。1978年。国側の主張を並べた判決が出る。 科学的ファシズム。 科学技術と協力的に接する仕事はやめよう。 1979年、スリーマイル島事故。 2013年5月30日 東京新聞 あの時の「科学的見切り発車」を、原子力規制委員会はどう決着をつけるのでしょうか? いまの科学は、部分部分。全体や調和を考えない。利己主義、刹那主義そのもの。 自分の見えていること、見えているものしか見ようとしない。自分の欲しているものしか求めない。 科学の「科 とが」 ------p.158 人間は社会的に生きるという現実を自立して見ていることが大切なのですね。現実を現実として客観的、冷静に見つめ、将来を見据えて生きるという、そういう知恵、そういう知恵があるところに脱原発がある。 矛盾をはらんでいることをむしろ大事にしなければなりません。 不徹底な当たり前を大事にする。 中途半端だからすばらしい。
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| 2013-05-30 10:48
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