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原発危機と「東大話法」 傍観者の論理・欺瞞の言語

原発危機と「東大話法」 傍観者の論理・欺瞞の言語
安富歩、明石書店、2012
1807冊目

班目委員長の、木で鼻をくくったようなもの言いは、「学者というのは、自分の守備範囲でだけものを言う」こと、そしていまの科学は、数多くの想定と限定の中でだけ機能しているものなのだということを、まざまざと示した。

科学に対する信頼は限定的なものでなければならない。

あなたたちは、そんなわたしたちを信頼していたのでしょう、と。

なんだか、説得されてしまう。でも、許せない。

そんな班目さんを始め、「東大原子力」の人々の特長を、まとめたもの。もちろん、著者である安富さんも、その一員であるので、注意して、読め。

東大原子力は、いまの原子力産業およびその体制に幾多の人材を送り出して居る。今回事故を起こした福島第一や東電以外にも、それらの人材はちりばめられているのだ。にもかかわらず、それだけの責任を自覚しているようには到底見えない、と、安富さんは言う。その最たるものとしてあげられているのが東大工学部が2011年5月9日に発表した『震災後の工学は何をめざすのか』。

まるで、現在の原子力業界全体に、彼らが何の責任もないかのような文章だと。117

許容量とは、科学的な概念ではなく、「がまん量」という社会科学的な概念なのだと指摘したのは武谷三男さん。050

最近、読んだECRRのレボートがロールズの正義論から入って正義を検討していたのにも、驚いたが、自らの価値観のよってたつところを明確にした上で、議論を進めなければならないのが、社会的影響の大きい巨大科学なのであるなと思う。

さて、東大人たちの価値観はどこにあるのか?

結論から言うと、ないのである。彼らにあるのは、「役」であり、「立場」でしかない。そして、それは多くの日本人が陥っている同じパターンなのだと。(安富さんは、決して、だから、免罪されるとは言っていませんよ)

そして、とても、とても衝撃的な「役」観念の強さを示すエピソードが紹介されています。関西在住の方の妹さんが結婚して福島に住んでいた。事故後、避難させていたが、帰るという。その理由が「ゴミ当番があるから」。

それがしみついた役意識。(尾藤正英『江戸時代とはなにか』参照)

それは、まったく、学生たちを見ていて感じること。立場や役に早く着きたくて仕方がない。

ともあれ、では、どうすればいいか。

脳にからだを従わせるのではなく、からだに脳を従わせること。

傷ついてしまった「日本」というブランドの、あり方を再度問い、どのような日本でありたいかを考えること。

頭先行で、からだぼろぼろにならないのが、東大話法の人々だとカッパしながら、この解決策はないんじゃないの?

だって、安富さん、こんなふうに書いているんだよ。

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「ふつうの人なら、・・・悪事を投げ出してしまう。・・・それを何十年やっても健康体でいられる」

ほとんど、それが東大教授であり続けるための条件のようなものなのに。アマイなあ。ま、その強さのなさにしか、希望はないのかもね。

そうそう、それと驚いたのは、安富さんがとりあげて批判している経済学者の池田信夫さんの3月19日の「原発事故というブラックスワン」という記事。(144)タレブの『ブラック・スワン』の概念を使って、想定できないことが起こりえるし、今回の原発事故がそれだと、池田さんは言っているらしい。まだ読んでいないけれど。

これは、ひどい。タレブが言ったのは、「重力にしばられた国」の物語りと「果てのない国」での事象の起り方の違いであり、「果てのない国」では、予測不可能なブラック・スワンが出現する、としているのだ。

原発は、あきらかに、「重力にしばられた国」での出来事である。いまの経済的事象を説明しようとしている言葉を、事故のような物理的事象に使うとは。人を馬鹿にするにもほどがある。それが東大話法というものなのだね。

自分の専門分野でもないことについて、自分の専門分野の言語で語る。そんな知ったかぶりも見抜けないやつら。なぜならば、彼らの回りの人々はみんな「役」にはまっているからね。王様は裸だなどとは叫びはしないのさ。ありゃ、これは西洋のお話だ。古今東西、よく似た問題があるってこと?

■「学歴エリート」は暴走する 「東大話法」がむしばむ日本人の魂
講談社α新書、2013

東大話法規則   14
ルール1 自分の信念ではなく、自分の立場に合わせた思考を採用する
ルール2 自分の立場の都合の良いように相手の話を解釈する
ルール3 都合の悪いことは無視し、都合の良いことだけ返事する
ルール4 都合のよいことがない場合には、関係のない話をして御茶を濁す
ルール5 どんなにいい加減でつじつまの合わないことでも自信満々で話す
ルール6 自分の問題を隠すために、同様の問題を持つ人を、力いっぱい批判する
ルール7 その場で自分が立派な人だと思われることを言う
ルール8 自分を傍観者と見なし、発信者を分類してレッテル貼りし、実体化して属性を勝手に設定し、解説をする
ルール9 「誤解を恐れずに言えば」と言って、ウソをつく
ルール10 スケープゴートを侮辱することで、読者や聞き手を恫喝し、迎合的な態度を取らせる
ルール11 相手の知識が自分より軽いと見たら、なりふり構わず、自信満々で難しそうな概念を持ち出す
ルール12 自分の議論を「公平」だと無根拠に断言する
ルール13 自分の立場に沿って、都合のよい話を集める
ルール14 羊頭狗肉
ルール15 わけのわからない見せかけの自己批判によって、誠実さを演出する
ルール16 わけのわからない理屈を使って相手をケムに巻き、自分の主張を正当化する
ルール17 ああでもない、こうでもない、と自分が色々知っていることを並べて、賢いところを見せる
ルール18 ああでもない、こうでもない、と引っ張っておいて、自分の言いたいところへ突然おとす
ルール19 全体のバランスを考えて発言する
ルール20 「もし〇〇だとしたら、お詫びします」と言って、謝罪をしたフリで切り抜ける

立場三原則
1. 役を果たすためにはなんでもやらなくてはいけない
2. 立場を守るためには何をしてもいい
3. 人の立場を脅かしてはならない


by eric-blog | 2012-05-03 12:52 | ■週5プロジェクト12
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