カンジ 言葉を持った天才ザル
スー・サベージ-ランボー、NHK出版、1993 トルコの人は概して本を読まない。ホテルで本を読んでいるのはツアリスト。カッパドキアの観光スポットで「説明書きリーフレット」を配られることはないし、詳しい地図もない。 昨日、レンタバイクをしたAdventure Tourのムスタファは、「今度は友達つれてきてね」と。「名前は?」と聞くので、朝のレンタル申込書に書いたじゃん、と答えると「あなたが書いた、わたしは読んでいない」と。 人の名前を確かめるとき、書いたものがあれば、それを読んで確かめるという習慣は、漢字の読みが多様なせいなのか? そして、カッパドキアに住んでいる娘に言わせれば、とても記憶力がよいのだそうだ。わたしは書いたら忘れるタイプだからなあ。 さて、カンジである。スワヒリ語で「埋もれた宝」Kanzi。育ての親マタタと一緒に、ごく赤ん坊のころ言語研究センターにやってきた。マタタが研究対象であって、カンジはトレーニングにはまだ早いと考えられていた。 カンジはマタタのトレーニングの様子を見ていることができた。そして、時には、とても的確に「邪魔」をした。人間の母親に、何かを集中して学ばせようとする時に、あなたは乳幼児をそばに置くだろうか? なんだか解せないが、研究所がやったのはそういうことだ。 そして、2年半の努力の結果、研究所が出した答えは、マタタは人間の言語を獲得できない。 そして、マタタのメイティングのために、一時、別の研究施設に移されることになった。そのときから、カンジ自身が、それまでマタタが学んでいた「人間とのコミュニケーション」をシンボルや写真を使って行うということをやってのけたのだ。カンジは、学んでいたのだ。ただ、明らかに、「必要を感じない場合」はその力を発揮しないということだった。そこで、研究所は通常の言語獲得プログラムをカンジのためにたてるのではなくて、カンジの日常生活に言語を取り入れる試みをすることにした。 その結果、20ヘクタールにも及ぶ「カンジの森」に設けられた17もの多様なステーションと、それぞれのステーションに特徴的に置かれた食べ物、そしてそこで行うことのできる遊びを、カンジは次のようにシンボルを組み立てて、理解し、行動化することができるようになったのだ。 「Aステーションに行って、ボールで遊ぶ」 そして、Aステーションに着くまで、Aステーションを示す写真を手に持っているのだ。 ボノボは、野生においても、同様に、ある場所に特定の食べ物、時期などを記憶し、予定をたてて行動しているに違いないのだ。 どの程度カンジが「記号学習」を達成しているかを確認するのはどうすればいいのだろうか? 研究者が知らず知らずに「ほのめかし」をしないようにブラインドテストをしてみたり、それまで一度もやったことのない、256種のシンボルの400通りもの組み合わせを、「首輪をプールに入れて」のようなふざけた行動も含め、実験するとか。 この本を読んで思うことは、人間の言語が不完全なのだということである。 カンジが理解できなかったのは、 ・ナップザックにTrashを入れる ・バナナの皮をTrash Canに入れる などだという。 そもそも、言語研究センターが、もっと合理的な言語、エーコーの言うような「完全言語」を、ボノボとのコミュニケーションのツールに使っていたならば、もっと関係性は対等なものになっているだろうに。 彼らが一生、研究所から出ない、つまりは英語を話す一般的な人々と関わりを持つということをしないのであれば、英語にこだわる必要もない。 ボノボとの異文化理解の挑戦は、初期の文化人類学のように、終わってしまった。 この本は日本語での出版のために書き下ろされたものだという。ここまで、著者がカンジの能力に高い評価をくだしている本は、米国文化の文脈では受け入れられないと考えられているからだ。 動画もたっぷり。現在30歳。たぶん、世界でいちばんたくさんビデオに残された類人猿。
by eric-blog
| 2011-09-05 14:24
| ■週5プロジェクト11
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