人気ブログランキング | 話題のタグを見る

日本の安心はなぜ消えたのか

370-2(1586) 日本の「安心」はなぜ消えたのか
山岸俊男、集英社、2008

『信頼の構造』以来、数々の「信頼」についての本を出してきた著者が、研究の成果を現在の日本社会に当てはめて、「わかりやすく」書いたもの。

わかりやすさとは、論理的であることだけではない。

この本でも、著者は日本人は集団主義、という論説を真っ向から反論する。

集団主義的に行動することが、利益が高く、また、周囲からの「見た目の帰属」判断を誘発することができるから、そのように振る舞っているだけなのだ。

それを証明するための実験をさまざまに工夫している。そこから明らかになるのは、意外にも「人と協力しない」姿。

そこから、著者は、日本の地域社会の閉ざされた集団内での「信頼」の不要を指摘する。そこでは、社会が行動を規定する。

だから、安心だった。

その集団を抜けた時、「旅の恥はかきすて」のような無法が生まれ、結果、人を信頼しない、できない心理状態が生まれる。

護衛船団方式の高度経済成長時代は、安心社会の論理が続いていただけだ。

しかし、いま安心社会は失われ、それに代わるものは共有されていない。

どうすれば「信頼社会の海」に飛び込めるのか?著者は3つの研究を示唆する。
一つは、いじめについての正高氏の研究。『いじめをする心理』
傾向が変わればいいのだ。

次は、インターネット取引におけるポジティブな信頼の履歴評価。

そして、ジェイコブズの『市場の倫理統治の倫理』
商人道による信頼社会の形成だ。

モラル教育は失敗し、市場の倫理が道だ、というのは矛盾した話だが、これから著者がどのような実験によって、「信頼社会」の育成を検証していくか、興味深い。



【ペンの選択実験 】
日本人は相互協調的か?を検証する実験を山岸が追試してみた。日本の「安心」は消えたのか p.64から

最初の実験「アンケートに答えていただいたお礼に、ペンを差し上げます。これらの5本から選んでください。」
5本のうち、1本だけ別。

結果少数派のペンを選んだアメリカ人は、多数派。
東アジア人で少数派のペンを選んだのは2割程度。

山岸の追試1 「私(実験者)は出てしまいますが、缶の中のペンをどうぞご自由に一本お取りください。」
結果アメリカ人学生 少数派のペンを選んだ人42%
日本人23%35%に

山岸の追試2 「あなたが最後にペンを選ぶ事になりました。5本のうち、どれを選びますか」(最後選択)
結果 日本人も70%が少数派のペンを選ぶ。
73
「日本人の場合、「自分の選択によって他人に迷惑をかける可能性がある」という前提で行動するのがデフォルト戦略になっている。」

日本人が多数派ペンを選ぶ本当の理由

みなと同じペンを選ぶ人に対して、他の人たちが好印象を持つだろうと予測するからだ。74

「自分はどうでもいいとは思っているのだが、世間の人はやはり多数派を選ぶ人を好むのだろう。」

ericかくた なおこ沅
by eric-blog | 2010-11-04 10:08 | ■週5 プロジェクト10
<< 鬼子が来た! みつばちからのメッセージ >>