364-1(1567)ライフログのすすめ 人生の「すべて」をデジタルに記録する!
ゴードン・ベル、ハヤカワ書房、2010 自分の人生をデジタルデータとしてまるごと記録できるようになる。 著者は1934年生まれ。コンピューター業界の重鎮である。序文はビル・ゲイツ。 人と会う時に、式の挨拶を頼まれた時に、自分とその人の関係を思い出す。 最初に会ったのはいつだったか、どんなエピソードがあった人なのか。ライフログから確認して、言葉を練ることができる。 医者にいく時も、最新の生体情報、体温・血圧・体重の変化、を提出して受診することができる。 そんな未来を、著者は描き出す。 先週末は父の通夜・告別式、葬式だった。父がまとめていた写真集。若い頃のものが一冊。母の若い頃のものが一冊。その他は、子どもや孫とともに過ごした毎年、毎年の写真がファイルにまとめられていた。 これらの写真以外に、三人の子ども、つまりわたしもその一人なのだが、結婚や子どもの出産などのきっかけで、それぞれに写真集を譲ってもらっているのだ。わたしは、三冊、もらっている。これも共有できたらよかったなあ。 通夜・葬式ともに式場で行なった。その大量な写真集を段ボール箱に入れて、持ち込んだ。最近では「モニター」サービスもあるようなのだが、そんな量で対応できるものではない。家族喪に集まったみんなで、アルバムを覗き込んだ。 唯一残された父の兄弟姉妹である叔母の若い頃、父が新築したわが家から、最初に嫁入り道具をトラックで荷だしした風景。 ずいぶんお世話になった我が娘の写真はどういうわけか、家族旅行で初めてとことこ歩いた時の写真まで、アルバムに貼られ,整理されていた。どのように入手したのやら。子どものことがうれしかった若い夫婦の親ばかか。そこからずっと、二十歳の成人式の写真まで。 姉の子どもたちの写真もどっさり。 そして、航空隊の帽子をかぶった同士での旅行や宴会の写真。 47回、20数カ国出かけたという海外旅行の写真。 父が元気だった頃の記憶が詰まった写真集である。 カメラに向かって、笑顔を向けている、しあわせの記憶。 家族に、友人に、教え子たちに、囲まれて、つながれて。 つないだ糸が減っていって、彼は、淋しくなっていた。 父が、このような通夜の席を予想していたかどうかはわからない。 しかし、いい通夜だった。彼はしあわせだったのだと心から思えた。 その思いで、父を送り出せたことは、わたしにとっても幸せなことだった。 涙は出るが、悔いはない。喪失感はあるが、悲しくはない。 これからも、想い出の数だけ、涙が出ると思う。 それは悲しみの涙なのではなく、想い出に対する慈しみ感を味わう時間のためなのだ。時間という測りがたいものを、涙という生体感覚が測ってくれる。 父への思いとして、追悼するのに、どれほどの時間がかかるのか、からだが示してくれているのだ。素直に泣こうと思う。 父が危ないと電話を受けた16時13分。事務所から帰宅し、とりあえず、今回でなくても実家においておこうと喪服を黒い鞄に詰め込んで、17時01分の山手線から17時30分の新幹線に乗った。気も急いだが、からだも急いだ。 走ることも、急ぐことも、誰かとともに語ることも、できない。飛んで行くこともかなわない。なすことのない2時間半。わたしは、どうすればいいのだろうかと、考えていた。 悲しむべきなのか、取り乱すべきなのか、泣くべきか泣かざるべきか。 わからなかった。 だから、からだに任せることにした。頭では判断できないのだから。何をどう考えても、考えた上での行動は、ウソになるから。父を送るのに、ウソは許せない。 ライフログの時代、わたしたちはますます「意味」を自らが見いだし、重みづけすることが、「わたし」の証明となるだろう。情報ではない生の感覚。 父の写真集がかき立ててくれる記憶は、そのまま、わたしの生の証明でもあるのだ。父の葬式で、わたしはわたしのからだ感覚を力づけてもらうことができた。 写真でしかない。しかし、その写真がかきたてるものは、わたしだけのものなのだ。生命の流れを滔々と流れ、織りなす、赤い血の流れるいのち。 そして、そこに写る一人ひとりに、しあわせの時間の感覚を取り戻させてくれたはずだ。 ありがとう。お父ちゃん。しあわせにね。 こんなライフログも、ありだよね。
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| 2010-09-22 09:47
| ■週5 プロジェクト10
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