339-2(1471)パレスチナ
ジョー・サッコ、いそっぷ社、2007
1991年から1992年にかけて、イスラエルの占領地に生きるパレスチナ人の人びとをインタビューした時の模様を、作者自身の立ち位置や表情も含めて、コミックでルポした作品。マルタ島生まれのアメリカ人。
1948年に追われた土地の石ひとつまで忘れない。かけがえのない土地。
イスラエルの兵隊がいつ何時尋問し、投打し、連行し、拷問するか。何に対して発砲し、いつ家が爆撃されるのか。
何もわからない。予測できない。予防できない。受け入れるしかない占領という事実。それが、母親の、父親の、本人の、兄弟の、友人の、自分の体験の記憶として、これでもかというほどに描き出される。
そして、その恐怖は、滞在中の作者のからだにも確実にしみ込んでいく。イスラエルの兵隊を見ると、からだがすくむ思いとして。
イスラエルの側にも物語がある。
「ただ、平和が欲しいだけ」とイスラエル人。しかし、武装をやめれば、アラブ人たちとこの地で共に生きていけるのだろうか、その姿が想像できないのだという。和平交渉のその後の姿。
軍隊・資金力・爆弾・戦車・戒厳令・夜間外出禁止令・拘束・不公平な扱い・法外な関税、オリーブの木を切り倒すこと。
力で存在しつづけるイスラエルに、投石でしか押し返せないパレスチナ。
石をなげるごとに、憎しみが確認される。
憎しみが高まるごとに、意志が固まる。
意志が世代を越えて、共有されていく。
どこに道があるのか。どこかに道はあるのか。
前書きをエドワード・サイードが寄せている。
■2024年1月31日再読
訳者後書き 小野耕世
トランボの『栄光への脱出』イスラエル建国の物語からキブツへの憧れから、パレスチナへの共感へとの変化。
91-92年の第一次インティファーダ、2000年からの第二次インティファーダは古居みずえ監督の『ガーダ パレスチナの詩』に描かれる。
・『エドワード・サイード Out Of Place』2005年、佐藤真監督
・『D.I.』2002年、エリア・スレイマン監督
・『パラダイス・ナウ』2005年、ハニ・アブ・アサド監督
・『忘却のバクダッド』2002年、サミール監督、イラク出身の監督による イスラエルの状況
・『ルート181 パレスチナ-イスラエル 旅の断章』2003年、ミシェル・クレイフ監督、エイアル・シヴァン監督