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教師は二度、教師になる 君が代処分で喪ったもの

338-1(1465)教師は二度、教師になる 君が代処分で喪ったもの
野田正彰、太郎次郎社エディタス、2009

日本政府は「裁判官ら法曹関係者への人権規約の研修と規約の情報普及」を自由権規約委員会から2008年に勧告されている。「公共の福祉」というあいまいな概念で自由権を制約する傾向が強いことを懸念してのことである。
http://www.jicl.jp/hitokoto/backnumber/20090518.html

著者はすでに『させられる教育—思考途絶する教師たち』(岩波書店、2002)、『子どもが見ている背中—良心と抵抗の教育』(岩波書店、2006)で、国旗国歌を学校現場に強制する10.23通達と文科省の姿勢と、教員たちの追いつめられた精神状態の関連を指摘している。

小渕首相が1999年6月29日に衆議院本会議において、「政府といたしましては、国旗・国歌の法制化に当たり、国旗の掲揚に関し義務づけなどを行なうことは考えておりません」と答弁し、8月13日に「国旗及び国歌に関する法律」が公布・施行された。(石原都知事はこの年の4月11日から!)

「内心の自由」についての指導とともにあったものが、文科省の強制力が強まり、2003年東京都教育委員会が「入学式・卒業式における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について」(10.23通達)を通達。

日の丸・君が代が宙ぶらりんになってしまうという危機感があった人びともいたのだろう。アメリカ帝国からの脱却を言う人びとが、アメリカ合州国と同じ「国旗」による国威発動効果を求める姿は、哀しい。帝国主義の鏡現象としか言い様がない。日本には日本の、世界史における立ち位置、貢献があるだろうことには、帝国主義しか見ていない人は、目がいかないのだろう。作用反作用の原理か。

2001年9月11日に象徴される、民族主義、宗教原理主義の復活かと見えるテロリズムの勃興も、国粋主義に力を与えているのかもしれない。


さて、本書である。

教員採用試験に受かって、教員になる。そして、教員としての職業的体験を通して、教員としての矜持が生まれる。そのことを、本書のタイトルは表している。ここで紹介されている13人の東京都教員は、それぞれ特別支援校、チャレンジ・コース、定時制など、教員に採用されれば、誰しもが通る現場体験を通じて成長し、生徒を指導するということの矜持は何かをからだ全体で受け止めた人びとだ。

解体させられるのは、そのからだだ。

「一般の高校の生徒も、同じように「障害」に直面している。・・・環境がかれらの可能性のまえで障害になっている。」33

そのことに気づいた教員は、生徒とともに、道を探る。

命令によって教育は成り立つか。16

著者はさらに1980年代後半からの「うつ病」治療のあり方が、「心因」と「内因」をまぜて、抗うつ剤の投与のみに走っていった傾向を指摘する。124

「新しい病名がうつ病を増し、抗うつ剤の売り上げを増し、世論を誘導しているのではないか。」125

命令によって教育することを強制される教員たちは内因性の疾患に追いつめられていっているのだ。

確かに、国旗・国歌だけを争点にしてきた歴史には違和感がある。

しかし、東京都の過剰処分は異常である。そのことは、しっかりと批判される必要がある。

ある高校の卒業委員会が出した結論は次のようなものだ。
「日の丸・君が代については、様々な意見があることが分かりました。私たちは賛成意見も、反対意見も、無関心だという意見も、それぞれ尊重したいと思います。個人が日の丸・君が代についてどんな考えを持とうと自由だからです。それは思想の自由という憲法19条に保障されていることです。私たちの卒業式に日の丸・君が代をやるということがあれば、それはこのような人の数だけの思想を尊重していこうという行き方に反対することになると、私たちは判断しました。様々な意見を表現する自由が保障されるためには、全員が出席しなければならない卒業式には、日の丸も君が代も必要ありません。」137

わたしたちの、人類の、そして、それぞれの民族の歴史は、それぞれでありながら、いずれもそれなりに「雑食的」だ。

雑食動物のジレンマに耐えられない人びとが、声高に純血を叫ぶ。どうやらユーカリだけを食べるコアラになりたいようだ。

ちなみに教職員に係る懲戒処分等の状況について、によると
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/1288132.htm
 「平成20年度に当事者責任として懲戒処分を受けた教育職員の数は1,059人(前年度比11,828人減)であり、訓告等及び諭旨免職まで含めた懲戒処 分等を受けた教育職員の数は4,020人(前年度比13,462人減)である。また、監督責任として懲戒処分を受けた教育職員の数は71人(前年度比18 人減)であり、訓告等を含めると1,022人(前年度比160人増)となる(表1)。」
平成17-19年度(2005-2007)の異常さがよくわかる。

人間と人間の社会のこれからについて、教育が無知であってはならない。
by eric-blog | 2010-02-21 07:49 | ■週5プロジェクト09
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