語らなかった女たち 引揚者・70年の歩み

語らなかった女たち 引揚者・70年の歩み

鈴木政子、本の泉社、2017

3034冊目


第二次世界大戦が終わった時、10歳だった著者が、書き記した810日以降に起こった満蒙開拓団の敗戦後の姿。


これまでも、書いて発表してきたが、(『あの日夕焼け』1980年など)それに対して「日本の被害の側しか書いていない」という批判があったそうだ。この本は、加えて1982年の初めての訪中団、本を読んで寄せられた中国人の手記、中国人慰安婦の記録に接したときのこと、博多港に引き上げてきたとき、堕胎を行なっていた病院の跡の訪問などが加えられている。


これまで、満蒙やシベリア抑留などについての本は、男性が書いたものしか読んでいなかったように思う。


中国人慰安婦の物語に触れたとき、近しい引揚者の一人、当時17歳だった女性が、自分自身の体験を語らなければと、初めて明かした体験。それは鏡像のようなものだった。戦後60年が経っていた。


「戦争は、死んでいった者はもちろんですが、かろうじて生き残った母や私などにも、こうして一生、消せない傷跡を残しているのです。・・・一度戦うと、その影響は100年残る・・・。」133



終戦時、外務省が「居留民はできる限り現地に定着せしめる方針」と電報を打っている。『引き揚げと援護30年の歩み』より


その電文に書かれた「生命、財産の保護については、万全の措置を講ずること」という命令は、関東軍によって実行されることはなかった。24


「軍の主とするところは戦闘である。戦闘に際しては、隣の戦友が負傷しても見向くことさえ許されない。あの作戦時、なぜ関東軍は居留民保護の兵力を指し出さなかったか・・・あるいはまた、何故に居留民より速やかに後退したのかと正されれば、それはただ一つ、作戦任務の要請があったと答えるばかりである」24


そして、命からがら引き上げてきた博多で、乱暴された女性たちを待っていたのは、堕胎処置だった。5ヶ月も過ぎていれば、早産させる。

厚生省から19458月末に召集された医師たちがそれに当たった。78


中国全域では日本人71万人死亡。旧満州地区の日ソ開戦による犠牲者は245000人だったと記録されている。25




[PR]
# by eric-blog | 2018-02-21 13:23 | □週5プロジェクト17 | Comments(0)

人をつなぐ対話の技術

人をつなぐ対話の技術

山口裕之、日本実業出版社、2016

3033冊目



いまの日本社会について、そして、学生の質について、大学人の多くが感じていること、考えていることを哲学者として「対話の技術」と絡めてまとめた本。我が意を得たりと膝を打つことしばしば。


そもそも対話とは「価値観が違う他者とのコミュニケーション」なのだ!


まず第一章「対話ができない人たち」症候群の分析。

インターネット上の書き込みはなぜ罵り合いのようになるのだろうか? 質が低くないかと、ネトウヨなどについて感じている人は多いのではないだろうか?


著者はそれらの書き込みが「上から目線の決めつけ」だという。ネトウヨにもアンチネトウヨにも共通しているこの兆候は、そもそも書き込みの動機が「正義感」に発しているせいなのだ。


この本の最後にまとめられている「対話の技術」をここで紹介しておく。

  1. 1.自分から見て、どんなに不正だと思える相手についても、その人なりの立場や感情があるはずなので、まずはそれを理解しようとすることが大切。
  2. 2.それから、問題となる事態を具体的に特定し、それが事実に反する思い込みや、中身のない言葉だけのものではないかを検討する。
  3. 3.人間の思考にはバイアスがかかっていることを自覚する。
  4. 4.自他の要求を明確化することで、争点を明確化する。
  5. 5.要求が事態の改善につながる因果関係を持っているかどうかを検討する。
  6. 6.相手の思考の体系を理解した上で、その問題点を指摘し改善策を提示するような建設的な質問をする。
  7. 7.自分自身の立場を反省する。
  8. 8.事実認識を共有する。そのためには、ネット情報に頼らず、学術的な研究や一次資料を確認する。
  9. 9.共有されている価値観を確認し、価値観同士が両立し得ない場合には、どの程度のところまでが許容範囲なのかについて合意形成する。現実をその許容範囲に収束させるための適切な手段を検討する。


最初に自分の考えがあるのではない。対話の中で「考え」が共同作業で作られていくのである。


この本を読んで、わたしが考えていたことをすでに一冊の本にまとめてくれている人がいることに驚いた。


ドナルド・ブラウン『ヒューマン・ユニヴァーサルズ 文化相対主義から普遍性の認識へ』である。2002年。まだ21世紀の出版だから、知らなかったことも許せるか。図書館に入っていないし、中古品での出品でもお高いよ!


民話に共通性があることを探求した本はすでに紹介した。ブラウンの本も、ぜひ、読むリスト。


と、大切なことをまず書いておいて、次に進もう。


第二節「異論を封じる政治」

ネトウヨだけが「上から目線」なのではない。政治がそうなのだ、と続くところがワクワク。ネトウヨが問題なのは、ネット上で彼らが書き込むことではなく、現政権が彼らが主張に近い政策をしていることが問題なのだと。

「生活保護切り下げ」「韓中との関係悪化」「安保法案強行採決」などなど。20


彼らの「上から目線で対話を拒む態度」。そしてその結果として客観的な根拠のない感情的な思い込みが十分な検討もされないまま政策として実行されてしまう。


安保法案について、憲法審査会に呼ばれた3人の憲法学者が、「違憲」とした。

それに対して自民党側は、「違憲かどうかを決めるのは学者ではなく、最高裁だ」とか、「国民と国を守る責任は憲法学者でなく政治家」などの発言を繰り返した。到底合理的なはんろんとは言い難い。しかも、その後憲法審査会の開催を取りやめた。21


安倍政権下で「上から目線の対話拒否」を恒久化するための制度変更が着々と進められている。制度が変更されれば、政権が変わっても存続していく。24



その一つが、第3節「大学における異論を封じる体制づくり」である。


予算による「改革」への誘導。

予算による支配も「上から目線の対話拒否」の手法である。26


重大な転換は20146月、学校教育法改正によって、教授会の権限が大幅に限定され、学長独裁体制が大学に強要されたこと。26


時の政権によって教育が左右されるような「不当な支配」に服することなく、教育は・・・国民全体に対し直接に責任を負う」旧教育基本法第10条。


そのような大学の「抵抗性」こそが学問のためにも必要であるのに、今の改革はそのような批判的精神を封じる。


独法化から10年間の国立大学運営の実態は、・・・政府による統制の強化と予算削減による病弊化だった。30


論文数は激減。


大学改革は、対話拒否の態度が対話の場そのものを破壊することの最も象徴的な現場だから。35


そして政治家の世襲化が示すように、日本は階級社会に逆戻りしている。


しかし、「トップダウン体制」を強要されると、強要された側は、まずは反発し、・・・主体的に物事にとり組もうという意欲を失ってしまう。それは結局日本の将来にとって大きなマイナスだろう。37



第二章「対話が民主主義を作る」


当たり前のことだが、大切なこと。

1 「民主主義は多数決ではない」

小泉首相が郵政改革を本来「多数決」になじまない問題を選挙に持ち込んだ悪しき例。


個々人は平均して少なくとも50%を超える確率で「正解」を出せる事柄についてのみ、多数決によって高い確率で「正解」を出すことができる。byコンドルセ


自民党改憲草案の問題点として著者が指摘するのは「権利」と「義務」の概念を理解していないところだという。

2011年の草案については、憲法学者の小林節と長谷部恭男が、「憲法そのものを理解していない」と批判している。76


著者は「権利」はルソーの言うように、「基本的人権rightsは人間が人間らしく生きて行くために不可欠のものであって、義務を伴うものではない。」と指摘する。76


duty, claim, obligation, titleなどの整理がついていないのだと。


rightsclaim(請求権)などでは断じてない。


戦後70年「改憲」を党是とする自民党が戦後のほとんどの期間にわたって政権をになってきたにもかかわらず、彼らは改憲することができなかったのである。82



対話が思考力を育て、民主主義を育てるのだ。


「民主主義の本質は多数決ではなく、すべての人が対等な立場で自分の意見を根拠づけて主張し、討議し、お互いに納得できる合意点を探るところにある」116


多面的な見方ができると、感情にとらわれにくい。128


少しずつでも対話による解決を広げて生き、それが対話のできる人、幅広い知識を持って多面的な見方ができる人を育てていき、それがまた対話による解決を広げる、と言う循環が成り立つように努力して行くべだと考える。148


第三章「正しさは人それぞれ」なんてことはない

対話を阻むものの一つに「人それぞれだから」と言う考え方があると著者はいう。学生たちの考え方の根底にあるものだと言う。


それは『心のノート』や『私たちの道徳』にも表れている。

すでに『私たちの道徳』では、権利を「国家が課した義務obligationの対価として国家権力から恵与されるもの」と教えている。171


これらのテキストでは自己分析がよくなされ、「心」重視の傾向がある。心や感情を重く見るために、異なる意見と出会った場合、対立の扱い方を学ばせるのではなく、「正しさはそれぞれ」とかかわらないようにする傾向に行き着いてしまう。  175


思いやりという下との関係、感謝という上との関係、つまりは上下関係しか、『心のノート』は想定していないのだと、小沢牧子は指摘している。

http://ericweblog.exblog.jp/774951/


第四章「対話が正しさを作る」


ここで、著者はスタンフォード監獄実験を引用して、「権力者は暴走しがちで、庶民は盲従しがち」だと。

217


人間の思考バイアス

  • λ確証バイアス
  • λ認知的不協和への対応
  • λ権威への盲従
  • λ正常性バイアス
  • λ傍観者効果


ベーコンの四つのイドラなど、バイアスについてまとめている本が紹介されている。


『人間 この信じやすきもの』ギロビッチ

『心は実験できるか 20世紀心理学実験物語』ローレン・スレイター、2005




[PR]
# by eric-blog | 2018-02-20 13:20 | □週5プロジェクト17 | Comments(0)

国家の興亡 人口から読み解く 2020年の米欧中印露と日本

国家の興亡 人口から読み解く 2020年の米欧中印露と日本

スーザン・ヨシハラ他、ビジネス社、2013

3032冊目


2017年に出版された『未来の年表』の衝撃インタビュー。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54304?page=3


タイトルにある通り、「米欧中印露と日本」それぞれの人口動態とそれに至った政策、そしてこれからを分析している。「人口動態それ自体は運命ではない」

帰結なのである。


欧州は、低い出生率と移民の多さで、欧州人口割合が激減する。


インドは中国を抜く。ロシアも少子化、しかも短命で経済も鈍化する。


日本は移民の受け入れが進まず、少子高齢化で人口減少の一途をたどる。そのことが一番大きく影響するのが「国防」である。人口が少ない国が先制攻撃によって有利になろうとすることはあるかもしれないが、日本にとっては以下のような四つの抑制要因が、そのような攻撃の可能性を低めている。

・地理の重要性

・地形が侵攻を阻む

・双方が核を保有している 日本の場合はアメリカの核の傘

・軍隊の能力 日本の自衛隊は予算はでかい。

というように、日中の間にはこれらの抑制要因が全て存在する。113


高齢者は怪獣的政策を好み、核家族は子供を戦闘員にしたがらない。


先進国の兵力展開の選択肢は限られている。比較的安価な低強度対応(対テロ攻撃と巡航ミサイル外交)か、高強度対応(戦略兵器による全面的攻撃) 115


人口減少という圧力の中、日本は国際的なプレゼンスや米国との協力を約束している。


そして、中国の人口動態の混乱(極端な一人っ子政策の余波と、男子願望による比率の歪さ)は続く。


米国の人口動態は有利性を担保する。経済の80%がサービス産業に転換。しかも、全軍志願兵組織は、全米平均よりも若く、学歴も高く、多様なバックグラウンドが入り混じった構成になっている。249


人口と軍事の関係について論じた稀有な本。


技術だのみの限界が、そこにはあるのだ。


先進国の安定も、いよいよ手詰まりになってきている。その中で、米国の一人勝ちが続きそうな分析ではある。



[PR]
# by eric-blog | 2018-02-19 17:32 | □週5プロジェクト17 | Comments(0)

AIが人間を殺す日 車、医療、兵器に組み込まれる人工知能

AIが人間を殺す日 車、医療、兵器に組み込まれる人工知能

小林雅一、集英社新書、2017

3031冊目


ドローンという無人飛行攻撃機は、決して人間が遠隔操作しているというようなものではない。照準を定め、航路を決定し、自動航行。人間とAIのコラボだ。


コンピューターの「ディープ・ラーニング」というのは、計算や検索機能のスピードアップによって可能になっているのだが、膨大なパターン学習の結果だ。


まだまだ、変数の多い複雑な環境、突発事態、不規則性に対応する力は弱いが、どんどん改善されていくに違いない。


倫理的な問題も、それなりに答えを出すこともできるようになるだろう。サンデル教授のいうような、「今、この人を救うか、それとも、30人が死ぬ結果避けるか」というような倫理哲学も、計算可能性を秘めている。


いま、医療で起こっている問題は、AIの出す結論に従うと、患者を救うことができるのだが、なぜ、その結論に至ったかのプロセスが「ディープラーニング」ではブラックボックスになっていることだ。「合理的な理由がわからなければ、人命を左右する決断は下しにくい。」56


国会の質疑でも、除雪車などの自動運転について「ぜひ推進してほしい」と雪国の議員が力説していた。災害救助、災害時の自動放送などの可能性の追求なども始まっている。


手話放送も、災害時にCG手話で情報を伝えるように研究が進んでいる。


まだまだロボットが完成していない段階だからこそ、「ロボット、頑張れ!」とロボコンのような競技が共感を持って迎えられている。


しかし、ロボットが可愛い盛りはすでに去り、実際に様々なところでの活用が、国民、市民、人間の総意や合意なしで、それぞれの分野で進んでいるのが現状だ。


人間は間違う存在だが、AIの間違いに、わたしたちはどの程度寛容になれるのだろうか? その間違いの責任はどこの誰に問われることになるのだろうか?


すごい時代になったものだ。人間の学習なんて、ちんたらしたものは、追い越されるよね。人間は、何を学べば良いのだろうか?


■多い事故、喪失

http://ericweblog.exblog.jp/19827458/

■自立型ロボット兵器

http://ericweblog.exblog.jp/17708776/



[PR]
# by eric-blog | 2018-02-19 11:46 | □週5プロジェクト17 | Comments(0)

ヒロシマ 増補版

ヒロシマ 増補版

ジョン・ハーシー、法政大学出版局、2003、初版1949

3030冊目


1946年に来日し、取材。6人の主人公たちに焦点を当てて、ヒロシマを描き出したレポートは、雑誌に連載されただけでなく、一冊の本として大ヒットとなった。


それから39年後に、その6人の人たちのその後を訪ね、取材したのがこの増補版。


一読、描き出される人々の名前の多さに驚く。一人の人が覚えている詳細は限られている。能力の高い取材者、調査者を経て、この本はあの時を一人一人の人間に起こったこととして描き尽くしている。


中村初代さん、佐々木輝文博士、ウィルヘルム・クラインゾルゲ神父、佐々木とし子さん、藤井正和博士、谷本清牧師。


6人の物語は、6人の物語でいて、同じような境遇の人たちは戦争直後の日本のどこにもいた。そのような物語として、共感を呼ぶ。


谷本清さんの社会運動にも心動かされるが、神父そして、神父に導かれて入信した渡辺さんら、キリスト教者の姿に、思いが巡る。


彼らが被爆したのはおよそ爆心地から1kmから1.5kmの所にあった教会堂や病院など。


自身も被爆したクラインゾルゲ(高倉)神父は、ある取材にこう答えている。


「もし、誰かが私に、体がだるいといい、そういった男が被爆者だとしたら。そのことは彼が普通の人である場合とは違った感情を私に起こさせます。彼は説明する必要はありません。」152


続いて彼は天皇陛下という言葉が西洋人と日本人にもたらす違いにも言及する。


「犠牲者である人と、そうでない人との場合でも、両者がもう一人の犠牲者について耳にした時には同様の問題があります。」


日本に生きている外国人というアイデンティティよりも、国籍よりも強い共通性を「被爆者」は持つという。


ピア・サポートの重要性はこんな所にあるのかもしれないと思った。


佐々木さんは、クリスチャンの施設で仕事をしながら、被ばくのひどさよりも、戦争の残酷さをこそ、伝えるべきだと感じていたという。



何を語るべきか、被爆者の運動は、そのような共通性を背景に、世界に訴え続けてきたのだろうなあ。


これまで、多くのヒロシマについての本を読んできたが、この本はすごい。


映画『デトロイト』の原作ともいうべきルポの著者でもある。



[PR]
# by eric-blog | 2018-02-17 14:05 | □週5プロジェクト17 | Comments(0)

PLT中等教育補足教材 アップデイト

PLT中等教育補足教材は、共同開発も含めて、多様なテーマについての探究活動を支援しています。



PLT教材の中核となるPLTアクティビティ・ガイドは「就学前から8年生」を対象としています。8年生は中学2年生にあたります。加えて、米国のHigh Schoolレベルの中等教育のための補足教材も出版されており、生徒が特定のテーマについて深く探究できるように工夫されています。これらの教材は、現実の生活における環境的な意思決定の複雑さを描き出しています。


現在発行されているSecondary Modulesのリストです。

https://www.plt.org/curriculum-offerings/high-school/


-Green Schools STEMの基準に合致する地域調査教材、五つの項目についての調査を進めるための手引き。(日本語訳はwww.eric-net.orgから入手可能)


-Focus on Forests

-Forests of the World


-Places We Live『わたしたちの住む場所』 PLT日本事務局発行


-Southern Forests and Climate Change フロリダ大学との共同開発。詳細は大学のホームページから入手可能。   http://sfrc.ufl.edu/extension/ee/climate/


-Biodiversity 世界自然保護基金との共同開発。単体で購入可能。

-Biotechnology 『リスクに焦点』の補足教材。単体で購入可能。


-Focus on Risk 『リスクに焦点』 PLT日本事務局発行


-Municipal Solid Waste




単体で購入可能なものについてはPLTショップのホームページから入手できます。

http://shop.plt.org



PLT日本事務局発行のものについては、ERICにお問い合わせください。



[PR]
# by eric-blog | 2018-02-16 10:40 | ☆PLTプロジェクト | Comments(0)

暗闇のなかで

暗闇のなかで

レイチェル・シーファー、アーティストハウス、2003、原著2001

The Dark Room

3029冊目


ナチスの負の遺産を引きずるドイツを三つの物語に分けて書いた作品。(訳者あとがきより)


まだ、戦争中のベルリンを、障害のために憧れの軍人になれなかった男の子、ヘルムートの目を通して描く。


戦争直後の混乱を、親衛隊員だった父の子供達の目を通して描いた「ローレ」。これが映画『さよなら、アドルフ』の原作になっている。



ローレの祖母は、瓦礫の町と化したハンブルグに南方の疎開先から移動禁止命令と占領軍による統制のもとをかいくぐり、やっとの事で帰り着いたローレに言う。「恥だと思ってはいけないよ。両親を恥じてはいけません。」217

「行き過ぎた連中もいたけれどね、悪いところばかりだったと思ってはいけないよ。」


そして、戦後、祖父の過去を知り悩むミヒャ。ベラルーシを尋ねると、そこで「対独協力者」だったという老人に出会う。物語はミヒャエルが期待するように「ドイツ人の支配」という単純なものではなかった。1941年にナチスがやってきて、彼は、通訳を務めた。そして、ナチスと一緒にユダヤ人を殺したと言う。



興味深いのは著者は1971年生まれで、ドイツ人の母とオーストラリア人の父の間に生まれ、イギリスで育ったミックスであること。


アーモン・ゲートの孫娘と、一歳違いでしかない。


最近、ポーランドが、アウシュヴィッツに絡んでポーランドの名誉を毀損するような言説を禁止する法律を作った。


a0036168_17412575.jpg

この本や、アーモン・ゲートの孫娘の本も、確かにナチス高官や親衛隊員、あるいはSSなどであった父、祖父らの罪を知りながら、シングル・ストーリーには収まりきらない物語である。多分、20世紀の間には語り得なかった視点なのだろう。


多様なストーリーが生まれる時代になったからこそ、ポーランドのような決定も生まれるのかもしれない。少なくとも、ポーランドの意図が「シングル・ストーリー」の矯正にはないことを信じたい。いや、というか、無理なのだろう。


それにしても、最近の日本での満州からの引揚者についての本も、著者は女性であるなあ。

a0036168_17391575.jpg


物語の長さと繊細さ、入り混じる感情などへの耐性を、次の世代は全員が持っているわけではないだろうに。ひょっとすると、そこにも分断と二極化が進んでいるのかもしれない。ヘイトスピーチに走るような単純な物語を鵜呑みにする人々と、複雑な、感情的に揺り動かされる物語に耐えられる人々と。



[PR]
# by eric-blog | 2018-02-15 17:42 | □週5プロジェクト17 | Comments(0)

大学教育をESDによって再方向付ける

大学教育をESDによって再方向付ける



いよいよ、ESDも進んで来て、学習指導要領では高等学校にも「主体的な学び」が全教科で推進されることになった。

http://ericweblog.exblog.jp/238329803/



ということは、大学においては、もちろん、そういう学びを指導できる教員養成も緊喫の課題だと認識されていることだろう。つまりは、高等教育においてもESDに取り組むことが求められている。

しかし、フィンランドの報告を読んでも、「研究」と「教育」の両立はハードルが高いことが読み取れる。研究というのは、人のエネルギーを貪るものだからね。今後研究が進んでいくべき分野だと考える。

特に、教員免許に関わる単位として認定される科目においては、その質が今後の初等中等教育の質に関わるものであるだけに、素早い取り組みが求められる。


■フィンランドの高等教育 ESDへの挑戦 持続可能な社会のために、明石書店、2011 http://ericweblog.exblog.jp/12627750/


ESとは何かということについての議論もあるだろう。特に、大学人は議論が好きそうだし、話が長くなりそうだ。ここでは、ユネスコやESD GAPなどについての共通理解があるという前提で、大学における教育実践をESDへと再方向付けるための点検の視点を示しておく。

http://ericweblog.exblog.jp/238272225/


ESDにおいては「生きて働く力」=コンピテンシー、スキルの習熟が、知識理解と同等に重視されている。立田は今の社会を知識情報創造社会ととらえ、そのような社会における教育は生涯学習社会のための教育と位置付けて考えている。立田が整理しているように、生涯学習社会の基盤は、「学び続ける個人」「学び続ける組織」「学び続ける社会」であり、個人が組織に、そして社会に影響を与えつつ、また、それらを担いつつ、それらとの関わりでまた学び続けるという相互関係にある。


■生涯学習社会と知識基盤社会

http://ericweblog.exblog.jp/238309604/

「学び続ける個人」については、立田さんもコンピテンシーやリテラシー、思考力など「学ぶ力」の重要性を指摘している。

ユネスコの『学習: 秘められた宝』では、「知ること」「為すこと」「共に生きること」「人として生きること」の四本柱が明示されており、知識偏重、あるいは研究開発、専門家の育成が教育の目標ではないことは、ESDを出すまでもない。


■学習:秘められた宝  ユネスコ「21世紀教育国際委員会」報告書
天城 勲 監修、ぎょうせい、1997 http://ericweblog.exblog.jp/19984667/



では、そのような学習を保証していくためにどのような教育的手立てがあるかを整理してみよう。より良い質の教育のために、教育的指導者が活用することができる手立ては、五つに整理することができる。

・プログラム、カリキュラムを構成する

・ちょっとしたアクティビティを取り入れる

・ジャーナルをつける、記録とふりかえりを促す

・環境や風土、学校全体、組織まるごとでの取り組みをすすめる。

・個別への働きかけを行う。


このように整理しているが、これらのカテゴリーは、少し考えればわかることであり、その他の分類や視点があっても全く構わない。何らかの点検の視点が、シンプルに、覚えやすく、実践的に提示され、活用されることがポイントなのだから。教授学習の手立てを取っているかどうかが、本質である。

先行知見の有無にこだわる人は、是非とも、探して来てほしい。


■「スキル・ビルダーの手立て」(いっしょに ESD! 環境・人権・参加の新世紀教育、ERIC2007)p.66Esteem Builders, Michele Borba, Jalmar Press, 1989を参照し、整理した。



それぞれの手立てについて「アクティブ・ラーニング」の方法論を取り入れることが、より良い質の教育につながる。

PLT「木と学ぼう」環境教育教材を活用したファシリテーター養成では、PLTが採用している学習方法論の特徴を次のようにまとめている。

・構成主義

・協同学習

・全体言語

・個別化対応


加えて、PLTはそのカリキュラムを五本の柱の概念にまとめている。概念的な理解が世界を理解するのに役立つからだ。

・多様性  ・相互依存  ・システム  ・スケールと構造 ・変化


これらの環境の原則である概念は「持続可能性」をチェックするのにも役立つはずだ。ESDは「概念・理念の教育だ」と言われる。わたしたちの未来を気づくための共通原則を理解し、それによって現在を点検し、バックキャスティングによって、あるべき未来へと歩みを進めていく人材育成に、高等教育が取り組むようになることを期待したい。



■「アクティブ・ラーニングでいこう!(いっしょにESD! p.59)Education for CitizenshipHolden and Cough, 2002を参照しまとめたもの。


ERICESDファシリテーターズ・カレッジでは「国際理解」「環境」「人権」という切り口から毎年多様なテーマに取り組み、そして、スキル育成のための指導者育成の研修を「わたし」「あなた」「みんな」の三本ですすめている。


せめて、後期のスキル育成のための研修程度の内容は、大学教員の必須にしてほしいものである。




[PR]
# by eric-blog | 2018-02-15 14:22 | Comments(0)

高校学習指導要領 全教科で主体的な学びを!

2018年2月15日 東京新聞

素晴らしいね。

a0036168_13065623.jpg
a0036168_13065623.jpg
a0036168_13072316.jpg

a0036168_13092293.jpg

[PR]
# by eric-blog | 2018-02-15 13:23 | ○子ども支援・教育の課題 | Comments(0)

食べない、死なない、争わない  人生はすべて思いどおり--伝説の元裁判官の生きる知恵

食べない、死なない、争わない  人生はすべて思いどおり--伝説の元裁判官の生きる知恵

稲葉耶季、マキノ出版、2015

3028冊目


『食べない人たち』という本が2014年に出ている。その中の一人、秋山さんは、100%プラーナで生きているという。人類が皆「不食」という道を実践できたら、すごいことだなあ。


少食から不食へ。無理なくすすめることだと、どちらの本にも書いている。


稲葉さんは、何と渋谷の山手教会を創立された牧師さんのお子さん。1942年生まれ。この本を書いた段階で、「もう30年以上、不食に近い実践をしている」というから、40代からやっているということだ。


東京大学を卒業して、都庁、司法、琉球大、そして再び判事。臨済宗の僧侶となって、インドの仏教大のアドバイザー! と、心のままの経歴の人。


人は、不食、つまり、食べるための時間やエネルギー、コストを削減すると、1. 時間が生まれる、2. お金が要らない、3. 健康になる というのだ。


何と稲葉さんは収入の9割をインドの学校支援に充てて来ているという。


きっかけは、牛が自分の運命を察して涙を流しているのを目にした時。30代。ダイビングをしていて、魚も親しみ深い生き物なのだと思ったから。21


2005年には限りなく少食になっていたが、オーストラリア人女性、ジャスムヒーンさんの『リヴィング・オン・ライト』に出会う。


五ヶ月ほど不食を続け、今は無理なく、玄米菜食を一日一食。


プラーナの摂取率を高めるための8つのポイント。

1.毎日の瞑想

2. 祈り

3. プログラミング

4. 軽いベジタリアンの食事

5. エクササイズ

6. 奉仕

7. 自然の中の黙想

8. マントラ、チャンティング、賛歌の実践


第二章は「死なない」。インドの死に方を見て、自分でときを知り、穏やかに、家族に看取られながら、水だけで、枯れていく。


第三章「争わない」

ガンディーの非暴力主義コソが道なのだと、自分を守るために武装することの無意味さを言います。そして、そのことは、「誰かがいい続けるしかない」と。147


攻撃に対して、幼児の反応で仕返しをしたら、泥沼になる。


巻末に「いまを生きる16の知恵」をまとめている。


1. 川の流れのように

2.自分の中のかすかな息吹を感じる繊細さ

3. 他者と同じ息吹の中で生きていることを感じる

4. 興味のあることに集中する

5. 不安や恐怖を持たない

6. 喜びをもって生きる

7. 感謝を持って生きる

8. 風や太陽や月や星の語りかけを感じる

9. 木や草や花や医師と語り合う

10. 人が喜ぶことを考える

11. 心を静かにする時間を持つ

12. 物を減らしてさわやかな環境にする

13. 天然の環境のもとで少量の食事をする

14. ごみを出さない

15. 金や物や地位が自分を幸せにすると考えない

16. 他者の行き方を肯定する

17.


最後に紹介されている瞑想の手引き、チベット・メディテーションに似ているなあ。


そうそう、第一章は「食べること」です。






[PR]
# by eric-blog | 2018-02-15 12:50 | □週5プロジェクト17 | Comments(0)