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知の挑戦

かくたです。
                          2004年5月14日配信
極厚本なので、はしょった紹介ですみません。
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角田 尚子
(特活)ERIC国際理解教育センター
eric1@try-net.or.jp
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41-3(169) 知の挑戦
-科学的知性と文化的知性の統合−
ウィルソン, エドワード・O
山下篤子訳
2002年、角川書店
恵泉
Consilience
-The Unity of Knowledge-
1998

『歴史の中の科学コミュニケーション』(27-3-110)を書いたのが84才の人であったこ
とにも驚くが、この本の著者は1929年生まれ。この本を上申した時は、69才だ。まさ
しく、人間の思考力が、分析から統合へと向かう、その働きを見るような、幅広い視
野からの知見を統合していく壮大な知の冒険である。
「確かな知識を十分にまとめあげたとき、私たちはきっと、私たちが何者であるか、
なぜここにいるのかを理解するだろう。」
その彼が、昆虫学者、生態学者、進化学者であることも、また、おもしろい。
これは、もう、読んでいただくことですね。変な切り取りはやっかいであるから。

遺伝子の進化は、合理的な選択をしてきたのではないというのは『生命40億年の歴史』
(9-1-34)にもあったように思う。
さらに、「自然選択は遺伝子進化に文化進化という並行路をつけくわえた。」「この
超生命体は−文化と呼ばれるこの奇妙なものは、正確には何なのだろうか?」161
「1952年に、クローバーとクラックホーンが、それまでに164あった、文化にかかわ
るあらゆる定義を一つにまとめた。「文化は所産であり、歴史的であり、思想と様式
と価値観を含み、選択的で、学習され、シンボルに基づき、行動と行動の所産からひ
きだされるものである。」」162
「それぞれの社会が文化をつくり、文化によってつくられているのは否定できない事
実である。」162

表題が示すように、遺伝子についての生物的な理解と文化についての理解の統合が、
人間理解には求められるということである。遺伝子=文化共進化という仮説。そして、
『ヒトはいかにして人になったか』(1-1-1)が提起する「脳と言語の共進化」という
知見はその関係を脳神経生理学的な立場から説明したものだと言える。

「人類の精神的なジレンマの本質は、私たちが一つの真実を受け入れ、もう一つの真
実を発見するように遺伝的に進化したことだ。ジレンマを解消し、超越主義者と経験
主義者の世界観の矛盾を解決する道はあるのだろうか?」321
「この何世紀かのあいだに、経験主義の令状が、古来の超越主義的信仰の領土に広まっ
てきた。初めはゆっくとりと、科学の時代に入ってからはペースを速めて。私たちの
祖先が本能的に知っていた精霊たちは、まず岩や木から去り、次に遠くの山々からも
去った。,,,だが私たちはそれなしには生きていけない。人は神聖な物語を必要とし
ている。どんなに抽象化されたものであっても、なんらかのかたちで、より大きな目
的意識をもたずにはいられない。」322

「統合的世界観の中心にある発想は、星の誕生から社会制度の働きまで、およそ触知
できるものはすべて物質的過程にもとづいており、その過程は、たとえどんなに曲が
りくねった長い道筋をたどるとしても、究極的には物理法則に還元できるというもの
だ。」326

「人類という、体も心もダーウィニズムの原則によく適応した霊長類の一種が本当に
大事に思っているのは、−順不同にあげると−セックス、家族、仕事、安全、自己実
現、娯楽、そして精神的充足である。」328
「自然科学が社会科学や人文科学とうまく結合されれば、高等教育におけるリベラル・
アーツが蘇生する。その達成だけでも価値ある目標になる。専門に傾きがちな学生が、
21世紀の世界は情報しかもたない人間によって動かされるのではないことを理解でき
るように助力してやるべきた。,,,これからの世界は総合をする人達、適時に適切な
情報を収集して、批判的に検討し、賢明に重要な選択をする人達によって動かされる
ようになる。
ここからは知恵の問題になる。」329

文中で紹介した他の極厚本も含め、すごい時代に生きているな、といつも思います。
わくわくしますね。
確かに、英語圏ではないことのデメリットは、共時性と情報量の格差です。しかし、
一方で、日本に生きていることのメリットは、その専門分野の人々の目から見ても、
自分たちが書く以上に「優れている」と判断し、訳そうと努力するに足るものが、世
界で有数の翻訳範囲と点数を誇る量で入手可能であるということです。楽だー! そ
の替わり、情報検索能力は概して劣るのですが。
いずれにせよ、現在の「知の挑戦」、そのような時代に共に生きる人を育てるという
職にあることがとても楽しいです。そこから、次なる探究者が生まれるのか、それて
も総合者が生まれるのか、はたまたより高い生きるということの質の実践者が生まれ
るのか、いずれにせよ、そこから、人類の次のステップを踏み出す人が生まれている
のですから。

8
知恵にいたる第一歩は、物事を正しい名前で把握することだ。
by eric-blog | 2004-08-30 21:25 | ■週5プロジェクト04
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