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環境先進国 江戸

かくたです。
                            2003年11月4日配信
一挙に、です。この次ぎには「歴史人口学」の本を紹介したかったのですが、ちょっ
と違って来ました。
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23-1(85)  環境先進国 江戸
鬼頭宏、PHP新書198、2002

歴史人口学についての本を何冊かまとめて読んでいる。歴史人口学とは、日本では速
水融がパイオニアで、英仏で教区人名帳の詳細な研究に習い、各地に残る宗門帳など
から、その時代時代の人口ならびに生死、移動の状況を明らかにする学問のことであ
る。
鬼頭宏は、速水の弟子であるが、歴史人口学をもう一歩進めて、他の史資料などと合
わせて環境経済史としてまとめたものがこれである。

さて、江戸時代と言えば、環境教育に関わる者にとっては「里山文化」「リサイクル
文化」「低成長あるいはゼロ成長経済」など、高度経済成長後の低成長経済への移行、
乱開発からもたらされた負の遺産、そして地球規模での環境問題への答えを提示して
くれている時代というイメージが強い。そして、この本のタイトルも、いかにもその
ような購買層をあおるかのような題名になっている。

しかし、だまされてはいけない。江戸時代は決して「夢の時代」であったわけではな
い。しかし、そこから21世紀を考えるための視点は得られるだろうというのが筆者の
視点である。というのも、環境派が思うような「自給自足」が江戸時代のシステムで
はなかったからである。江戸時代はすでに経済社会化していたのだ。

まず、鬼頭は江戸時代を梅棹忠夫が定義する「文明システム」(文明系)にしたがった
文明史的に位置付ける。







産業経済であるからこそ、より高い生産性を求める合理的なシステムとして「イエ」
が成立し、それが核家族していく様子を、速水が詳述している。

しかも、木材消費量の82%が燃料として利用されるなど、森林資源に対する圧力は高
かった。江戸中期にこのような危機に直面した結果、利用規制と植林による育成林業
を進め(17-18世紀にかけて)、その結果、薪と木炭によるエネルギー供給は、19世紀
末、日露戦争の頃まで、自給可能なぐらいであったという。

また、都市の衛生とリサイクルについても鬼頭は言及している。近世、世界のどこに
あっても、都市の人口はその寿命が農村よりも短いのが常であったのだ。

自給自足ではなかったが、資源循環型システムではあった。
「5Rシステム」と鬼頭が呼ぶその特徴は
repair リペア、修繕
reuse リユース、再活用
rental and lease レンタルとリース
recycle リサイクル、再資源化、原料再利用
reduce リデュース

現在の道具や機械が精密で修理が難しいだけでなく、技術進歩が激しく陳腐化してし
まうこと、人件費が高くなったこと。

都市人口の8割が借家人であった。ことも興味深い。

江戸時代は、鉱物資源に依存せず、生物的資源、自然エネルギーによる資源循環型社
会であったことは、参考になるだろう、という。

ま、これまでの議論と同じか。
by eric-blog | 2004-08-12 11:10 | ■週5プロジェクト03
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