270-6(1215)セカンド・ブレイン 腸にも脳がある!
マイケル・ガーション、小学館、2000
重要な進歩は小さな知識の積み重ねによって達成される。
食道の一番下から、直腸の出口までの間で、起こっていることは、脳とは無関係に自律して行われている。それが腸神経系、セカンド・ブレインの存在だ。
神経生物学者である著者がセロトニンを伝達物質とする腸神経系が存在することを指摘したのは1965年。以来40年で、胃腸障害についての理解と治療薬は飛躍的に進歩した。胃潰瘍が神経性のものであるとか、治療のためには静養あるのみとされていたりしたことから、潰瘍の原因そのものがわかってきた。
一方で、脳と腸神経系のメカニズムが似ている。鬱病の薬がはげしい嘔吐などにつながるなど、脳に働きかけようとする物質が胃腸に影響したりする。
口から、のど、食道、胃腸は、外環境である。外環境に対する防衛する機能と同時に、消化吸収もしなければならない、大変過酷な役割を背負っている。
おもしろいのは、体内型外環境と外環境に対応する部分とが、腸神経系と脳というような分業体制になっていることだと思った。
独立していることによって、脳は生命維持以外のことにその力を振り向けることができるようになったという。
まだまだ、わかっていないことが多いという腸神経系。しかし、40年という月日は決して遅い歩みではないと、著者は、人間の人間についての知識の進化を見渡して言う。
おもしろくて、ずんずん読んでしまった。カタカナ語が少ないのは、抽象的な概念ではなく、具体的な身体部位についての表現だからなのだろう。
いずれにしても、このような基礎科学への投資が求められているということを証明するのも、この本を書いた理由のようだ。