Activity 08 S.T. トガリネズミの森で
S.T. トガリネズミの森で ジャッキーは「ふうーーん」と座り込んだ。「この森に住んでいる動物は何もいなさそうね」と思った。「長い時間歩き回ったけれど、何匹かのリス以外には何も見かけなかったし。」リスなんか数には入らない。彼女の庭にもいたし、学校の近くにもいる。学校の宿題のためにも、もっと特別な生き物に出会いたかった。 「学校か家の近くの場所を選んで、そこに何が住んでいるか調べなさい。そこで見つけた珍しいもの、面白かったことをレポートにまとめなさい。」それが宿題だった。レネ・ナバロのようにペット・ショップの近所に住んでいるんじゃないなんて、ついてない。そうすれば、いくらでも書くことがあったのに。でも、彼女が選んだのは、遊び場の裏の小さな林、たっぷりと動物たちがいると思っていた。 「さあ、どうする?」彼女は悩んだ。目を閉じて、考えてみた。・・・ 「で、あなたはこの林に興味深いものは何もないと言うんだね?」とかん高い声が聞いて来た。 「なに今の?」ジャッキーは息をとめて、あたりを見まわした。落ち葉の下からとがった鼻をつきだして、隣にいるのは、目が小さくてひげが長い、毛がふわふわした小さな生き物だった。そして、質問を繰り返した。 「で、あなたはこの林に興味深いものは何もないと言うんだね?」 「そうね、思わなかった。」とジャッキーは答えた。「あなたはどなた?」 「みんなはS.T.と呼ぶよ」と彼は答えた。「ぼくはとがりねずみ、短い尾、ショート・テイルのトガリネズミ、略してS.T.さ、指を背中においてみて。」 「なに?」ジャッキーは驚いてたずねた。 「ほらね、この森に何が生きているか知りたいだよね。おいでよ、急いで。」 ゆっくりとジャッキーはトガリネズミの背中に指をのばし、そっと触りました。一瞬、光ったかと思うと、彼女はS.T.の隣にいて、ちょうど目の高さでのぞこんでいました。なんと、彼女は四本足になって、毛で覆われていました。トガリネズミになっていたのです。 「さあ、良くなったね。」とS.T.は言った。「ついてきて」 「どこへ行くの?」ジャッキーはたずねた。 「このあたりの生き物たちは、あなたが彼らがいることを知らないということにショックをうけていてね。見せてやってくれと頼まれたんですよ。わたしと同じ大きさになったしまっているから、餌にされちゃうかもしれない。わたしといっしょにくる方が安全だしね。」と言ったかと思うと、出て来た穴にするりと入り込んだ。 ジャッキーはどうしようかと迷ったけれど、上を見あげると、大きな鳥が飛んでいた。「わお」と彼女は叫んで、S.T.の後に続いて穴に飛び込んだ。 土の中 ジャッキーはそれまで土の中をはい回ったことなどなかったし、それが好きかどうか判断できなかった。暗くて、湿気っぽく、どこにでも根っこがはっていた。いつでも、小さい根が彼女の顔にあたる。彼女とS.T.は、大きな根にあたるとよじのぼり、はいずり込み、う回しなければならなかった。何度も何度も。突然、S.T.が止まった。 「おーーい、みんな。着いたよ。」彼は土のトンネルに呼びかけた。最初、ジャッキーには何も見えず、何も聞こえなかった。それから、だんだんと大きくなるとどろきが聞こえてきた。とうとう、トンネルの壁から頭が飛び出した。ミミズに甲虫、しろっぽいウジ虫、その他、ジャッキーが知らない生き物たちが次から次へと現れた。 「あなたたちみなさんが土の中に住んでいるというのですか?」ジャッキーはうやうやしくたずねた。 「あ、う、これだけじゃなくて、もっといるがね。」と、ある太ったミミズが言った。 「でも、どうやって暮らしているのでしょう?」とジャッキーはたずねた。「つまり、あのー、ここで何を食べているんですか?」 「そうだね、わたしは土を食べ進んでいると言えるかな」とミミズが答えた。「土くれを食べてトンネルをつくり、それから土くれの中の植物やその他の食べ物を分けるのさ。誰にでもってわけじゃないけど、わたしは大好きだね。」 「直接、根から汁を吸うのよ」とシロっぽいウジ虫は三匹いっしょに答えた。「その日が来たら、地上に出ておとなになるってわけ」 「森で死んでしまった動物に、何が起こるか、不思議に思ったことはない?」黒い甲虫が、触角をうごめかしながら、さえぎった。「わたしが、ちゃんと始末をつけているんだけどね。」 「つまり、わたしたち腐肉をいただく甲虫すべてのおかげで、ということを言っているわけです。」と別の黒い甲虫がつけたす。「わたしたちが食べてしまうのです。そのおかげで森がきれいに保たれると。」 これらすべてのことをジャッキーが考えている間に、S.T.は土の生き物たちみんなに来てくれたことを感謝していた。そしてジャッキーに向かって「ついて来て。まだまだ見るべきものがあるのだから」と言った。 なんて腐りきった場所 ジャッキーはS.T.の後をついて土中をすこし移動した。そこから地上に出て、落ち葉の下を走った。走り抜けるとき、落ち葉はガサガサ、ゴソゴソした。そこにクモやムカデなどの生き物が見えた。話しかけたかったけれど、S.T.はどんどん行ってしまうので、ジャッキーはその後に従うしかなかった。とうとう、S.T.は倒木の端に止まった。S.T.がその上にのぼり、ジャッキーはその後に続いた。S.T.は倒木の上の端っこに来てとまり、ジャッキーもつづいた。倒木の上は緑色をしたコケで厚く覆われていた。 「うわあーーー、なんて柔らかいの!」ジャッキーは叫んだ。「そして、コケ以外にもたくさん育っているものがある」。ジャッキーは倒木の上を走り回った。柔らかいコケにくるまったり、倒木に育っている冷たくて明るいオレンジ色をしている真菌類のにおいをかぎ、そして高く伸びて赤い色をした地衣類のてっぺんを花のにおいをかぐかのようにくんくんかいで回った。倒木からは、わずか三インチ、10センチほどの木の芽すらあった。 「中を見たいかい?」とS.T.はたずねた。「もちろん」とジャッキーは答えて、S.T.の後を追って倒木を降りた。ミリが呼ばれた。倒木から何本もの足のある生き物が出てきた。 S.T.はこれから先の旅には、自分は大きすぎるのだと、ミリをジャッキーに紹介した。「ぼくは、ここで待っているから。」と。 「でも、わたしもあなたと同じ大きさなのよ!」 と、そのとき、ミリが後ろから近寄って、ジャッキーに触れた。前と同じように、一瞬、光がひらめいて、ジャッキーはムカデと同じ大きさになっていた。 最初はたくさんの足の動きをうまくあわせるのが難しかった。しかし、ミリと一緒に倒木に入ったら、見るもの、考えることがいっぱいで、足をどう動かすかなんていう問題はどこかに消えてしまった。 ミリは、さまざまなものを指差し、教えだが、ジャッキーはあまりに多い情報を処理しきれないでいた。 とはいえ、とうとう、ジャッキーは、ここは倒木という大きな工場にいるのだと理解し始めた。この工場では木を土に変えいくという仕事が行われているのだと。 行く先々に、ガシガシ噛んだり、穴をあけたり、木にトンネルを通したりの作業が行われていた。 木のゴキブリ、小さなシロアリ、横を歩くとくるくる丸まってしまうダンゴムシなどがいた。 昆虫ハンターたちもいた。大きな下あごをもった黒々として甲虫たち、有毒なきばをもったムカデなど。倒木の奥で休もうとしたときには、そこにサラマンダーがいたこともあった。 たった一本の倒木に、これほどの生があるとは思っても見なかったジャッキーは、、ミリとS.T.の待つ場所へと戻りながらも、まだ心ひかれていた。 てっぺんの生き物 まもなく、ジャッキーとS.T.は木の根元に立っていた。すると黒い冠の鳥が降り立ち、彼らの隣の葉にとまった。 「来ないのかと思い始めていたよ。」 「ジャッキー、シッタよ。飛びたいと思ったことは?」と、彼女がたずねつつジャッキーに羽を伸ばして触れたとき、また、光があり、ジャッキーはシッタと同じようなゴジュウカラになっていた。 「いきましょう。」とシッタは言い、「わたしはここで待っているよ」とS.T.は叫んだ。 その日の体験の中でも、飛ぶことは最高だった。木の樹冠を超えて飛んでいくと、多くの鳥たちが梢から出入りするのが見えた。二人は、ある木の樹冠から入ったり出たりした。 ジャッキーは目にした虫の種類に驚いていた。木の葉には、バッタのような虫が無数に取り付いていた。キバチやハエが飛び回っている。葉の上をくねくねと歩いている毛虫もいっぱいいた。 シッタが飛び降りて、大きな幹に飛びついた。シッタが樹冠から幹まで見せてくれたのを、ジャッキーは驚いてみていた。毛虫やアリがうごめいている。樹皮と同じ色をしたクモやガもいた。樹皮へのカムフラージュがあまりにも完璧だったので、ジャッキーは危うく見逃しかけた。樹皮には薄緑色をした地衣類やコケが成長していた。二人は幹の根本についた。 地面にひょいっと出てきたジャッキーは、S.T.の隣に立った。 「この木はまるでアパートみたい。てっぺんの葉のところから、ずうーっと林床のここまで。」 「土に向かって言わなくちゃ。土の中の誰もかれもの、誰のことも忘れないと。」 「あなたが樹の中や周りに生きている生き物について、そういってくれるのはうれしいですね。」シッタはジャッキーの頭をなでてから、去っていった。 お帰りなさい。 ジャッキーはまたS.T.の後をついて、地上へ出た。次はどこへ行くのだろう? トンネルの中は暗く、湿っていた。ひげ根が彼女の頬に触れた。走っていくうちに土のにおいが・・・ 突然、ジャッキーは目を開けた。朝、座っていた幹の隣にいた。どうやら、彼女は眠りこけてころげおちてしまったようだ。鼻には腐った木の葉と土のにおいがつまっていた。起き上がると、彼女は思った。 「あれはすべて夢だったの?」 あそこの倒木は、わたしとS.T.がたずねたのに似ているし、この木の樹皮は、わたしがシッタと一緒に見て来たのと同じ生き物でいっぱいだ。でも、体験したことが現実とは思えなかった。最初にS.T.と出会った場所が見つかった。落ち葉をどけると、土の中へと続く穴。「なんとまあ。これでレポートに書くことがたくさんできたよね。」と、ジャッキーは身をひるがえして、家までかけていった。
by eric-blog
| 2008-07-28 06:14
| ☆PLTプロジェクト
|
最新の記事
ERICからのお知らせ
2023年度ERIC主催研修
ESDファシリテーターズ・カレッジ 前期 テーマについて学ぶ 【ESDイシューズについて学ぼう!】 3つのイシューズから課題に気づき、問題解決に取り組む 前期 【テーマ: ESDイシューズについて学ぼう!】 3つのテーマから課題に気づき、問題解決に取り組む 環境/PLT 2023年6月24-25日 国際理解 2023年7月29-30日 人権 2023年9月23-24日 後期 【スキル: ESDコンピテンシーを育てる!】 3つのキー・コンピテンシーで問題解決の力を高める わたし 2023年10月28-29日 あなた 2023年11月25-26日 みんな 2024年 1月27-28日 各講座土日開催です。 TEST教育力向上講座は2024年3月に開催予定。 参加はオンライン受講も受け付けます。お問い合わせください。 参加申し込み: webでの申込はこちらから https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfCwrZxu0NEhmJINrbtxX7knhM_eqIX3Qahd--mdkvgyowGlw/viewform ==問い合わせ== eric(a)eric-next.org メルマガ登録はこちらから。 http://www.mag2.com/m/0000004947.html 検索
カテゴリ
●3.11地震・津波・原発 ○子ども支援・教育の課題 ◎TEST 教育力向上プロジェクト ☆よりよい質の教育へBQOE ☆アクティビティ・アイデア ☆PLTプロジェクト ◇ブログ&プロフィール・自主学習ノート □週5プロジェクト23 ■週5プロジェクト22 ■週5プロジェクト21 ■週5プロジェクト20 ■週5プロジェクト19 ■週5プロジェクト18 ■週5プロジェクト17 ■週5プロジェクト16 ■週5プロジェクト15 ■週5プロジェクト14 ■週5プロジェクト13 ■週5プロジェクト12 ■週5プロジェクト11 ■週5 プロジェクト10 ■週5プロジェクト09 ■週5プロジェクト08 ■週5プロジェクト07 ■週5プロジェクト06 ■週5プロジェクト05 ■週5プロジェクト04 ■週5プロジェクト03 △研修その他案内 □研修プログラム □レッスンバンク ▲ファシリテーターの課題 ?リンク 草の根の種々 ERICニュース 国際理解教育and You詩歌 □ 最新のコメント
フォロー中のブログ
PLT2006年版翻訳プ... ERIC用語集 PLT 幼児期からの環境体験 リスク・コミュニケーショ... アクティブな教育を実現す... プロジェクト・ラーニング... エコハウスでのエコな生活... 外部リンク
以前の記事
2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 08月 2005年 07月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 12月 2004年 11月 2004年 10月 2004年 09月 2004年 08月 2004年 07月 2003年 05月 最新のトラックバック
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||