209-1(1007)寓話 塔からの眺め
ギュンター・アンダース、法政大学出版局、1999 原著 1988 ナチズムの欺瞞について『モールシアの墓場』という小説を1932年に書いた後に、著者が1968年までの間に書いた短編寓話を集めたもの。寓話の語り口というのは、対象によっても違うだろう。というので、少し、変えています。本意は翻意しないまま。 石炭が信じていること 129 「おまえには想像もできないだろうよ!」と石炭がダイヤモンドを嘲笑した。「俺がおまえのように安楽な生活をしていたら、俺はおまえよりもっと輝いていただろう。」「逆だよ」とダイヤモンドは言った。 塔からの眺め 1 一番高い展望台からグリュー夫人が見下ろしたとき、下の通りに彼女の息子が現れた。それは小さなおもちゃのようだったが、コートの色から見て彼女の息子に違いなかった。次の瞬間、息子はおもちゃのようなトラックに轢かれた。--その全体が一瞬の出来事で、現実のものとは思えなかった。 それは本当におもちゃどうしの間の出来事のようだった。 「ぜったい降りていかないわよ!」階段を降ろされるのに抵抗しながら彼女は叫んだ。「行きたくない!下に行ったら、絶望だもの!」 ライオン 1 ライオンが吠えるのを初めて聞いた蚊が雄鶏に話しかけた。「ブーンブンとおかしな音をたてているよ。」 「それはいいけど」と雄鶏は言った。「コオーケッココと鳴いているんだ。あれは確かにおかしいよ。」 聞いたことがない 6 存在していないものの広間にて、 「そのドアはどこに通じているのですか?」 「存在するものへ通じているんです。 誰も実際に聞いたことはありませんが、その情報は本当だと思われています。」 先に紹介したセルカンさんの著書には11次元空間のアイデアが紹介されていた。宇宙がたくさんあるという説も以前読んだことがあるが、昨日NHK BS特集で紹介されていたリサ・ランドール博士が証明しようとしているのは5次元空間。一般の人を対象にした講演などで、「ああ、わたしも異次元はあると思っていましたよ」という人がいるが、考えた末にその結論に達するのは思いつきとは違うと、彼女は言う。物理学者である彼女は、素粒子がどこかに消えてしまう現象をどう説明できるかを考え、「重力」という力の弱さは「重力だけが異次元の間で移動しているから」と説明できるのではないかと。なぜ、地球ほどの大きさの重力が、たかが磁石に負けるのか、と。 そして、わたしたちの五次元についての「わかりにくさ」は二次元の絵の中にいる人が三次元をどうみているかを想像すること、シャワーカーテンを垂れる水滴がその面から離れられないのに、それは浴室という次元があるから存在しているのに似ていること、などの寓話を出して説明していた。 その番組を見ていて、この本を紹介しようと思いました。 来年スイスに完成する素粒子研究施設は直径27キロの陽素加速器によって、ランドール理論の証明にも取り組むという。 わたしたちがわからないものをわかろうとしたり、証明しようとしたり、納得させようとしたりすることは大変なことだ。 計算では五次元が存在するという仮説はあっているらしい。 セルカンさんは、サンタさんが一秒間に3800軒もの家にクリスマスの贈り物を届けられるのも多次元空間の存在を考えると、説明がつくのだと。 次の二つの寓話を再びアンダースの本からお贈りいたしましょう。 コモンセンス 75 顕微鏡は自分の観察結果を教えたが、窓ガラスは「途方もない誇張だ」と言った。だが伝染病は猛威をふるった。 物理の本120 三月の雪解け道を歩きながら、父親は息子に言った。 「ごらんよ、自然の中にあるものはみな説明できるものばかりだ。温度が零度を超えると雪は溶けるのだ。物理の本の通りだ。」 「でも、雪はどうしてこの法則を知っているのだろう? 雪片のみんなが物理の本を読んだのだろうか・・・ それにしても、どうしてこんなに従順なんだろう? たとえば雪片のひとつが『物理の本なんか僕には関係ないんだ!』と言ったらどうなるのだろう?」 現実にわたしたちに影響を与えているものがあり、そしてそれを『五次元』と説明する人も『11次元』と説明する人も、複数の宇宙と説明する人もいる。どの説明がもっともらしく、どの説明がもっとも実証に近いのか、まだわからないし、まだまだ次の課題が出てくるもののようだ。
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| 2007-12-09 08:56
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